東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第21話 ムーラン・ルージュ誕生!!

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帝都グランドホテルの喫茶室、二人の男が向かい合って話している。

「早瀬先輩から連絡が来るという事は・・・、ロクな事じゃない・・・でしょうね?」
「もう、お前を頼るしかない・・・」
「会長、副会長と呼んでいた頃が懐かしい・・・。そんな昔の話じゃなさそうですね」
「そうだ・・・。お前に頼みがあって呼んだ」

陣内隼人、ロックバンド【ダンテ】のリードギターを務めているのは本当の顔ではない。

「萬度・・・ですか?」
「っ!?どっ、どうしてそれをっ!?」
「早瀬コンツェルンが渋温泉開発に手を貸した・・・。そして・・・」
「俺には、もうどうすることも出来ない・・・」
「犯罪組織と知らずに手を組んだといっても、相手はそうは思っていなかった訳ですか・・・」
隼人の前にいる男の顔が見る見る青ざめていく。
「お前の力で何とか・・・」

バンッ!

隼人の手がテーブルに叩きつけられる。

「国家権力を一個人の為に使えると思っているんですかっ!」

その隼人の表情にはかつて彼らが浅間山学園の生徒会長と副会長として信頼しあっていた面影は微塵も感じられなかった。

「ですが・・・、早瀬先輩・・・?」
「・・・!?」
「国家の関わる問題であることも事実・・・。上の判断に従うしかないのですが・・・」
駆の表情に一瞬だが、安堵の色が浮かんだ。
こう呼ばれるのは、浅間山学園の生徒会以来の事である。

(こいつなら・・・、こいつらなら・・・)
「今はとにかく身を隠してください。まだ俺たちでは保護に動けません」
「す・・・、すまない。桔流と大友は?」


当時、浅間山学園は3年生徒会長の早瀬駆、1年の副会長の桔流隼人の他に1年生でありながらサッカー部主将の桔流竜馬と同じく1年生でありながらも柔道部主将となった大友武蔵がいたのである。


「あいつらはあいつらなりに、上手くやっていますよ」
「じゃあ・・・」
「早瀬のグループの中で最もセキュリティの高いホテルを選んで身を隠してください。ホテル周辺の警備強化くらいはなんとかしておきます」
「分かった・・・、それと・・・?」
「何か、他に?」
「渋温泉のある人を・・・」
「まだ萬度もそこまでは動けないと思いますが、一応、現地の警察には手を回します」
「すまない・・・」
安堵感からか全身の力が抜けるような感覚が駆の全身を覆った。

「お父上にもちゃんと報告された方が・・・。かなり心配されているようですが・・・」
「お・・・、親父が?」
「いずれ先輩にも動いて頂くことがあるかも知れません・・・」
「わっ、解かったっ!」
一瞬の安堵感を吹き払うような一言に駆は直立し頭を下げる。


(陣内隼人・・・、警視庁組織犯罪対策第四課主査・・・。あいつなら・・・)
立ち去る隼人の姿に駆はいつまでも頭を垂れた姿勢を崩すことが出来な出来なかった。



翌日、テルマエ学園では弾と葵が会議室に呼び出されていた。
呼び出したのは無論、ゆかりである。

「もうっ!あの女はいつもいつも好き勝手しおってっ! 訳も言わずに呼び出しなんてっ!」

葵は怒りを露わにしている。
「葵。まぁ、落ち着き」

弾はまだ冷静であった。

コンコン コンコン

「失礼します」
会議室のドアをノックして部屋に入る二人。

「あれっ!?  三橋はん?」
「どないしはりましたん?」
会議室で二人を待っているのはゆかり一人と思っていたのだが、予想外に三橋がいたことに戸惑っている。
(相性の悪い二人が揃ってるなんて・・・)
(嫌な予感しかしませんなぁ・・・)
「お久しぶりです、家元。松永先生。先日はお世話になりました」
二人に対して三橋の愛想は良い。

「また中継でも?」
「いえ、今日は別件で・・・」

三橋がちらりとゆかりを見る。
ゆかりは黙っているだけだ。

「実はこの春からDODOTVで、アイドル甲子園を企画しておりまして。是非とも、テルマエ学園アイドル部にも出場して頂きたいのです。勿論、目指すのは優勝です」
「はぁ、アイドル甲子園に出場って!?」
「あの子たちが・・・?」
突然の事に弾も葵も頭の整理が付かないようだ。

「付きましては・・・。家元と松永先生にご協力をお願いに上がった次第です」
いつもイケイケの三橋にしては考えられないほど低姿勢な話し方であった。
「ちなみに何をするんどす?」
「うちらに何をしろと・・・?」

このやり取りを聞いていたゆかりの肩が震えだしていた。
既にイライラが限界に達しているようである。

「ユニットのオファーって事ですっ! お二方には全面的にアイドル部の専属になって頂きますっ!
「アイカツって急に言われてもなぁ・・・」
渋る葵に弾も同調する。
「かなり難しいんと違いますか?」
「DODOTVの全力を結集して協力させて頂きます!どうか、お願いしますっ!」
三橋はソファから降り、カーペットの上で土下座までしている。
ここまで三橋を駆り立てたものはいったい何だったのだろうかと誰もが思う光景であった。

「お二人とも申し上げておきたい事がありますっ!」
ゆかりが話に割って入った。
「何ですやろ?」
「・・・?」
ゆかりは大きく息を吸い深呼吸をした後に言葉を続けた。
「この件は既にミネルヴァ学園長もご承諾されています。貴方がたに拒否する権利はありませんっ!」
ゆかりがここまではっきりと言ったのであれば、本当にミネルヴァが命じているのであろう事は簡単に推測できる。
弾と葵も渋々ながらも承諾するしかなかった。
二人の首肯を見て満足したのたろう、ゆかりはソファから立ち上がる。

そして・・・

「三橋さん、後は宜しく」
とすれ違い様に三橋に囁くと会議室を後にする。

「相変わらず、バタバタした女やなぁ・・・。あれは嫁の貰い手無いわ」
思わず本音の出る葵。
「葵っ! 口が悪いえっ!」
弾が思わず窘めるも、ゆかりの事に関しては葵も直ぐに感情的になり、弾に突っかかる。
「うるさいっ! ホンマの事やっ、何が悪いっ!」

まぁまぁと二人をなだめながら三橋が話の続きを始める。
一応、弾と葵の協力は取り付けた事もあって落ち着いているようだ。

「まず、家元と先生にはアイドル部の皆さんと話し合ってユニット名とユニットリーダーを決めて頂きます。それが決まったら、エントリーしますので」
「うちらが決めるより・・・」
「自分らで決めるものですな・・・」

こんなところは直ぐに意見が一致するんだなと、三橋は心の中で思う。
「先ず、皆と相談しな、弾?」
「三橋はんも、一緒に教室まで来てくれはりますか?」
「勿論、喜んで!」
こうしてアイドル甲子園の話がアキ達へと伝えられる事となったのである。

教室ではアキ達が会話も無く黙々とレポートに取り組んでいる。
いち早くレポートを終わらせていたのは・・・。
そう、カトリーナである。
(皆、大変ネ・・・)
「やっと出来たヨ・・・、疲れたヨ」
次に書き終えたのはケリアン、終わると同時に机にうつ伏せになってしまった。
「おい、八郎と二郎も頑張れよっ」
どうやら渡も完成したようだ。
「あかぁん、わいこんなん苦手やぁ~。渡ぅ、わいら友達やんなぁ・・・」
「神様・仏様・渡様ぁ・・・。お願いしますう~」
八郎と二郎が渡に向かって手を合わせて懇願している。
「仕方ねぇ・・・。今度、何か奢れよ」
渡は八郎と二郎のPC入力を手伝いし始める。
「さすが、渡やなぁ。感謝するでぇ」
「ありがとうございま~す」
八郎と二郎は思わず感涙している。
そうこうしているうちに一人また一人とレポートを完成させて行った
最後の残っていたアキも七瀬と涼香のサポートもあり何とか終わらせる事が出来た。
「はい、これで終了っ!」
七瀬が送信ボタンをクリックした。
「ありがとー、七瀬ぇ。涼香ちゃん」
アキも七瀬と涼香に手を合わせて拝んでいる。
「アキちゃんの役に立てたっ!」
涼香はそれだけのことで満足そうである。


皆がレポートの送信を終えホッとしたところに教室のドアが開く。

ガラガラッ

全員の視線が集中する中、弾と葵そして三橋が入ってくる。
「皆、レポートお疲れ様っ! ちょっと話があるのでそのまま聞いて!」
「葵、急にそないな言い方したら何も解からしまへんやろ。皆はん、DODOTVの三橋はんからお話があります」
葵を微妙にフォローする弾。

ザワザワ・・・

ざわつく教室の中、三橋がアイドル甲子園について説明を始める、長くなるのでここは割愛しておこう。


「え~っ、アイドルデビューっ!?」
アキと涼香は目を白黒させている。
「アイカツッ!」
汐音は興味津々、七瀬も同調する。
「アイドルかぁ・・・」
(五郎にファンクラブ作らせよっと)
(スケボーアイドルってありかなぁ・・・)
圭と萌は頭の中に描いているものがあるようだ。
(アイカツで稼ぐってか?)
(キャバクラより稼げたらそれも良いかも・・・)
穂波と優奈はより現実的かも知れない。

皆それぞれに思いはあるようだが、共通しているのは悪い気はしていない事だろう。
「よっしゃ! またまたわいの出番やな、衣装は任せてやぁ・・・」
「アキちゃん達の・・・、ミニスカ+胸開ドレスとか・・・」
八郎と二郎は妄想の世界へとダイブしてしまったようだ。
(アキ・・・、だんだん別世界に行ってしまうみたいで・・・。それも・・・)
なぜか寂しそうに微笑んだ渡。
机の下で黙ってスマホを操作しているのに気付いた者はいなかった。

「・・・アイドル」
そんな中、ハンも懊悩していた。
そして・・・

「皆っ! ゴメン・・・」
ふいに大声を出したハンに視線が集まる。
「ハン・・・、アイドル部続けられナイヨ」
「何でっ!?」
「どうしてっ!?」
アキ達に動揺が走る。
当然であろう、つい先日にミッシェルが帰国したばかりで今度はハンまでもが抜けると言うのだから。

「ハン・・・」
皆の士気が下がっていくのが手に取るように分かった。
「ハン、マンゴローブサンのお手伝いスルネ。でも、学園は辞めナイ。皆の事、いつも応援シテルヨ。ガンバッテ!」
わざと明るく話すハン。

(ハンがマンゴローブの手伝い・・・。何かガ動ク・・・)
後ろからハンを見つめるカトリーナは何かの感触を掴んだようだった。

ガタッ!

アキが突然立ち上がる。
「皆っ! アイドルしようよっ!」
皆がアキを見つめる。

そう、アイドル部はこの日が来るのを待っていたのだと誰もが感じ始めていた。

「絶対に温泉を・・・、復興させるっ! 姉貴にも約束したんだっ!」
七瀬の瞳に決意の色が浮かぶ。
「TVで宣伝して・・・」
「お客さんをいっぱい呼んで・・・」
萌と圭も立ち上がった。
「その為に今まで頑張って来たんだしね」
優奈が皆を見回す。
「あたし達なら、出来るよっ!」
汐音はハイテンションになっている。
「勝つまでやる・・・、それがあちのやり方・・・」
穂波の一言が皆に火を点けた。
「わたし、皆と一緒にアイドルやりたいっ!」
「アキ・・・」
「アキちゃん・・・」
「やろうよっ、アキっ!」
「うちらじゃなかったら、誰も出来ないよ!」

皆が同調し集まり、いつの間にかアキを中心に円陣が組まれていた。
そう、【戦国浪漫の里】で皆が意識を失ったあの時のように・・・

(こいつら・・・)
無意識に熱くなった目頭を押さえる葵。
「どうした? 葵?」
そういう弾の目にも涙が浮かんでいる。
「こいつら・・・、ええ子過ぎるわ・・・」
「そうやなぁ・・・」
弾と葵だけでは無い。
渡も八郎も二郎も、勿論ケリアンも目に涙を浮かべている。

「うぉぉぉっ! やれるこのユニットなら絶対にっ!」
場違いな大声をあげて号泣しているのは三橋である。
そして、自然と温かい拍手が巻き起こったのである。

その時・・・

「お届け物です!」
教室の扉が開き、数人の配送員がたくさんの黄色い薔薇の花束を抱えて入って来た。
「華エンジェル様からの特急依頼の品です」
「通販屋さんってことは・・・?」
「誰かが注文・・・、っ!?」
皆が同じ事を思い出していた。
十津川温泉の公民館に届けられた365本の青い薔薇の事を・・・
「差出人は・・・」
葵が配送員から伝票を受け取った。
「紅の風車・・・」
「やっばり・・・」
三橋以外の皆が黙って頷く。

(黄色の薔薇・・・、花言葉は友情カ・・・)
カトリーナは静かに微笑む。
(ナカナカ、キザな人ミタイネ・・・)
十津川の一件をケリアンから聞いていたようだ。

そのケリアン・・・
「マタ、ムーラン・ルージュ、ダネ・・・」
「んっ!?」
「今・・・、なんて?」
弾と葵の視線がケリアンへと向けられる。
「イャ・・・、ダカラ・・・。ソノ・・・」
「フランス語で紅の風車の意味らしいですよ」
圭が助け舟を出す、そして・・・
「ねっ! 渡っ」
悪戯っぽく微笑みながら渡を見る。
「知らねっ!」
そっぽを向く渡の背中を見て微笑み続ける圭。

「・・・っ! ムーラン・ルージュ! それだっ!」
弾と葵が殆ど同時に叫んだ。
「皆、ユニット名が決まったぞ」
葵が皆を集める。
「三橋はん、アイドル部のユニット名が決まりましたわ」
弾の言葉に三橋も破顔している。
「ユニット名は・・・、ムーラン・ルージュ!」
ワッと教室全体が沸いた。


これから数々の伝説を残す最強のアイドルユニット、【ムーラン・ルージュ】はこうして誕生したのである。
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