東京テルマエ学園

案 只野温泉 / 作・小説 和泉はじめ

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第19話 博物館で覚醒っ!?

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第19話 博物館で覚醒っ!?

一夜明けて、アキ達は【戦国浪漫の里】を訪れていた。
【鷹宮】の関連施設で、戦国時代を中心として近代までの文化財クラスのものが数多展示されている。
アキ達はゆかりに引率されて貸切バスでここを訪れていた。

「ここは、最上義光という武将からずっと最上家と交流のあった全国の有力武将達に関係する物がたくさんあるのよ。たまには古き良き歴史に触れるのも大切な勉強ですから自由行動で見て回ってね」
ゆかりはアキ達に自由行動をさせるようミネルヴァより指示されていた。
(さて・・・、ここで何が起きるか・・・)


アキ達の乗った貸切バスを追う一台の車があった。

その中には・・・

「さすがテルマエ学園の生徒ですよね。【鷹宮】」って蔵王の超有名な老舗旅館っすよ」

レンタカーのハンドルを握った岩田が話かける。
「あぁ、ばか高ぇ宿泊料なんだろうな? 俺らの泊ってる【鷺沢旅館】とは雲泥の差だぜ」
苦虫を嚙み潰したような表情で三橋が応える。
「サギっていうだけあって、三流ぽかったし・・・」
すずまでため息をついている。
「でも、どうしてあの橘ゆかりが来てるのよっ! 家元はどうしたのよっ!」
ゆかりが出てくると、どうしても刺々しくなる三波を見て、岩田も苦笑する。


【戦国浪漫の里】はいくつかの建物に分かれておりその各々に国宝級の展示物が所狭しと陳列されている。

「ねぇ、この屏風見てっ!」
アキが七瀬と涼香を呼んだ。
金箔を豪華にあしらった屏風である。
「豪勢って言うか・・・」
「高そう・・・だね」

「ふーん、こんなの使ってたら姫様生活じゃん」
装飾品を見て回る優奈。
「おっ、こっちは・・・」
武具の展示を見て喜んでいるのは、穂波である。
「この内掛け、素敵じゃない?」
汐音が見続けているのは錦糸で織られたものである。

「これ・・・、何か引き付けられる!」
圭は天吹と呼ばれる楽器を食い入るように見つめている。
「こんなにたくさんあるなんて、凄いね~」
萌もじっと展示品に見入っている。

「ヤッバリ、ブシドー・サイコーネッ!」
ミッシェルは持ち前の日本文化贔屓が炸裂している。
(コレガ日本の文化・・・、アノ人の国の・・・)
ハンが思い出しているのは、マンゴローブのことであろうか。

一方、男性陣はと言うと・・・
「やっばり、蕎麦は旨いなぁ。二郎」
「はい、師匠。最高です」
「お前ら、見て回る前から食っててどうするんだよ・・・」
敷地に併設されたお休み処で早速、蕎麦を食べていたのである。
「オソバ、オイシイデース」
ケリアンまでもが、蕎麦ファンになるとは誰も考えられなかったのでが、生粋の大阪人である八郎までもが蕎麦蕎麦と言っている。

「わいは旨いものには、東西も国境も関係無いんや」
そう言いながら、蕎麦を頬張る。
「また。肥えるぞ・・・」
渡の言葉に一瞬ギクっとした八郎だったが・・・
「蕎麦は健康ダイエット食やから、心配せんでも大丈夫なんや」
と言い張っていた。

皆が彼方此方と自由観覧を始めた頃、DoDoTVの面々も時間をおいて【戦国浪漫の里】へと入館した。。
「さぁ、何が起きるかだ」
昨晩は、意気消沈した三橋だったが一晩で立ち直ったようだ。
「今回のアイドル部はお忍び・・・、つまりミネルヴァのおっさんが何か企んでるってことだろうし・・・。家元じゃなく橘ゆかりが来てるってのも気になる・・・」
ある意味では、三橋の勘は的中していると言えるだろう。

「あ・・・っ、イケメン君だっ!」
すずの目がいち早く渡を捕らえた。
「やっばり、イケメンはお蕎麦食べてる姿もかっこいいわね~」
三波もすずに追従して渡を見つめている。
「岩田・・・、ハンドカメラ出せ」
「了解っす、堀井っ行くぞっ!」
岩田がすずが小型のハンドカメラを出す。
見た目はホームビデオと大差なく、ここで使っていても違和感は無い。
「撮影始めますよ」

ハンドカメラを持ち歩いてくる岩田を見て、ゆかりに緊張が走った。
(えっ、DoDoTV?)
ゆかりもまさかこんな所に、DoDoTVが来ているとは考えてもいなかった。
(わざと別の取材でも行かせておくべきだったか・・・)
後悔しても始まるものではない。

(彼女達に起きる事をテレビに撮られる、いや部外者に知られることすら好ましくない・・・)
本来であれば、アキ達8人だけを連れて来て男子や留学生は別行動としたかったのはやまやまだが、それではあまりにも不自然と断念したのだ。
(ここで更に邪魔が増えるのは、さすがに・・・)
ゆかりがそう感じた時だった。

「OHッ! アキッ!」
「ドウシタッ、ダイジョーブ? ダレカッ!!」 
展示室からミッシェルとハンの叫ぶ声が聞こえた。
(何かが起きたっ!?)
ゆかりは急ぎ中央の展示室へと急ぐ。
「どうしたんやぁ?」
叫び声を聞き、八郎達も駆けつける。

「何だ何だっ!大スクープかぁ?」
尋常ならざる雰囲気にマスコミ本能を刺激された三橋も急にやる気を出したようだ。
「岩田っ! 堀井っ! カメラスタンバイっ! 三波っ行くぞっ!」


先にアキの下へ駆けつけたのはゆかりだった。
「ユカリ・・・、アキガ・・・」
「どうしたの? 温水さんっ?」
ゆかりの声にアキは反応しない、ただうわ言を繰り返している。
(何が起きたの?)
ミッシェルとハンの話では、二人がこの建物に入った時に倒れているアキを発見したということであった。

「アキっ!?」
「アキちゃーんっ!?」
渡たちも駆け寄ってくる。

(おかしい・・・)
ゆかりは違和感に包まれていた。
なぜなら・・・

(温水さんがこんな時、星野さんが駆けつけないなんて・・・。いや、それ以上になぜあの8人の誰も居ないの・・・)

ゆかりはただ事ではないと考えた。
(ここに関係のない者がいるはまずい・・・)

「早瀬君、大塩君達を連れて外へ出てっ!」
「えっ、何でっ!?」
「ミッシェルとハンもっ!」
「WHY? アキが心配デース」
「ここは私に任せてっ!」
ゆかりの必死の視線に気付いたハンが気を利かせる。

「オンナノコの事、男じゃ役に立ちまセーンヨ! ネェ、ミッシェル?」
ハンの意図している事をミッシェルも感じ取っていた。
「ソウ、ここは男子禁制デース」
「うっ、そっ、そうなのか?」
渡たちは顔を見合わせながらも、ハンとミッシェルに押し出されるように出て行った。

(後は・・・)
カメラを抱え飛び込んで来たDoDoTVスタッフの前にゆかりが立ちはだかる。

「今日は中継もしてないのに何の御用かしら?」
腕組みして立ちはだかるゆかりの前に三波が一歩踏み出す。
「また出たわねっ! お邪魔虫っ!」
「邪魔なのはそちら、さっさとお引き取りくださいっ!」
「そうは行きませんっ!何が起きているのか、しっかりと見せて貰いますっ!」
ゆかりと三波の間には紅蓮の炎が燃え盛っているようにも見えた。

カチャ

音がしてドアが開いた。
(星野さん・・・)
ドアを開けて入って来たのは、七瀬だがいつもと雰囲気が違う。
(こんな時なら、温水さんに駆け寄る筈なのに・・・)
七瀬は虚ろな目をして、ぼうっとしたまま歩き続けアキの手前で止まり目を閉じる。

「み・・・、三橋さん・・・。これって・・・」
「マズイんじゃないですか・・・」
すずと岩田も異常な雰囲気に包まれていることを感じている。
(くそっ、何だか触れちゃいけねぇものに感じる・・・)
だが、三波だけはゆかりへの対抗心が強く一歩も引く気配が無い。
「帰りなさいと言ってるんですが・・・っ!」
「いいえ、帰りませんっ!」
互いに一歩も譲らない攻防が続いた。
(時間をかけすぎる訳には・・・)
ゆかりは決断した。
「わかりました、貴方達をここで解雇します」
「えッ!?」
「解雇って?」
「DoDoTVは西京新聞の子会社、その西京新聞はテルマエ学園が買収しています。つまり・・・」
「人事権も思い通りって・・・か?」
「さすが、三橋プロデューサー。話が早くて助かります」
「・・・。おい、引き上げるぞ・・・」
「三橋さんっ!?」
三波が食い下がる。
「撤収だっ!」

三橋の声にすずはカメラを肩から下す。
岩田もカメラの電源を切り、三波の肩をポンっと叩いた。

「懸命な判断です」
ゆかりは姿勢を崩さない。
「私、貴女に負けたとは思ってませんからっ!」
三波はゆかりを睨みつけ、瞳に炎を宿したまま踵を返した。
(私にもあんな時期があったわね・・・)
三波の後ろ姿を見ながら、ゆかりは過去の自分とその姿を重ねていた。
(さて、邪魔者は消えたけど・・・)
先ほど入って来た七瀬はうわ言を繰り返すアキの傍らに立ち尽くしているままである。

カチャリ

再びドアの開く音が聞こえた。
(大洗さん・・・)
今度は圭が入ってきた。

そして同じように無言で歩みを進めアキの傍らで止まる。
足音が聞こえ、次々と集まった少女達が皆一様にアキの傍らに立ち止まる。

(向坂汐音・・・、白布涼香・・・、平泉萌・・・、源口優奈・・・、そして・・・)

最後に穂波が入って来た。

(塩原穂波でラスト・・・か)

皆が七瀬と同じように立ち止まり、目を閉じる。
ゆかりは黙って事の行く末を見守っている。
(これが・・・、学園長の言っていたことなの?  何が起きるって言うの?)
ただ、時間だけが静かに過ぎて行く・・・


(・・・?)
どれくらい時間が過ぎたであろうか。
アキのうわ言が止まった。
そして、七瀬・圭・汐音・涼香・萌・優奈・穂波が薄く目を開ける。
(何が始まるの・・・?)
ゆかりは固唾を飲んで成り行きを見守っている。
しばらくすると、アキがヨロヨロと立ち上がった。
だが、誰も手助けする様子は無い。
(普段なら、考えられない光景ね・・・)

アキが立ち上がると、他の7人も動き出した。
(温水さんを中心にして、円形・・・)
ゆるゆると動く7人にアキが囲まれる形となり、皆が動きを止めた。
そして・・・
アキが右手を軽く上げる。まるで裁判で宣誓するかのように・・・

(なっ、何つ!? どうしたのっ!?)
ゆかりの眼前には思いもよらない光景が繰り広げられた。

アキが軽く右手を上げると同時に他の7人は一斉に片膝をつき跪いたのである。
まるで、中世の騎士が国王に忠誠を誓うかのように・・・
そして、ゆかりの目には皆の後背に戦国の武将や姫の姿が見えていた。

(平泉萌は、佐竹義宣・白布涼香は、上杉景勝を背負っていると言うの・・・、じゃぁ、温水さんの後ろに居るあの姫は誰・・・? 三つ葉葵の痣を持っているという事は・・・?)

アキの後背に浮かんだ姫が微笑み、他の7人に浮かんだ武将達が大きく頷き八色の光に覆われた直後・・・

バタッ!
バタバタッ!

アキ達が力なく倒れ込む。
そして・・・

「うーん・・・」
「あれっ!?」
「あたし、何してたんだろ?」
アキ達は次々と目を覚ました。
(あれは・・・、一体・・・)
ゆかりも今見ていたものが何であったのか理解出来ないでいる。
「あっ・・・、ゆかり先生?」
目を覚ましたアキがゆかりを見つけた。
「どうかしたの?」
「展示品を見てたら、急に・・・」
「うちもなんだか意識がなくなったみたいに・・・」
「わたしも・・・」
「でも、あち。何でここに居るんだ?」
誰もここで起きた事の記憶は無いようだ。

「とにかく、皆が無事で良かったわ・・・」
(やはり、他の6人の地元も調べないといけないわね・・・。学園長の想像通りになって行く・・・)
「先生?」
「ごめんなさい、表にいる皆を呼んでくるわ。皆、心配してたのよ」

ゆかりがドアを開け、外でやきもきしていた渡たちを呼び入れる。
アキのいつのも表情を見てホッとした渡、大声を上げて走り寄る八郎と二郎・・・
ケリアンは涙を流して喜んでいるが・・・、何かを察したようだ。
同じく、ハンとミッシェルもアキの無事を喜びながらも何か腑に落ちないことを考え続けていた。


所変わって、一人学園に残っていたカトリーナは、日本への渡航申請を外務省のサーバーをハッキングしていた。

「ンッ? コノ男は確カ・・・」
カトリーナの指がキーボードの上で踊る。
「セルゲイ・ドントコビッチ・・・、ナゼ日本ヘ・・・」

遥か北方のモスクワでは・・・

「セルゲイ、萬度はまだ使い道もある・・・」
「ダー・パカーン(OK ボスの意)」
この日、ドモジェドヴォ空港から一人の男が日本へと向けて出国した。


ついに世界が動き出した。

テルマエ学園・早瀬コンツェルン・萬度そして謎のロシア組織、更に戦国武将達の因縁・・・
アキ達アイドル部はこれからどのような渦に巻き込まれていくのだろうか・・・
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