其れはアガペーなどではない

西浦

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其れは恋などではない

十一話 想い

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『───後悔なさりませんか。リルネール様』

 そう言ったレオナルドさまの顔はやけに真剣で、言葉を紡げなくなっている間にふ、と微笑んだレオナルドさまは踵を返し行ってしまった。

 正直言って、好きとか、恋とか、そんなもの僕にはわからない。仮に本当にアレクセイお兄さまが僕を……愛、していても、きっと僕は同じ気持ちを返すことはできないと、今は考えている。

 射干玉の髪、黄金の瞳、力強い体躯。美しく高潔な、僕のお兄さま───

 僕は、僕はアレクセイお兄さまの気持ちに応えられるのだろうか? 応えても、いいのだろうか……?

 レオナルドさまのこともある。

 金糸の緩くウェーブした髪、エメラルドの瞳、僕より、お兄さまより高い背。柔らかく華やかな騎士団長───

 どうしてレオナルドさまが僕に『お慕いしています』だなんて伝えてきたのか。

 僕は、もともと死にたくなくて、自分が望んだわけでもない特徴のせいで殺されたくなくて、アレクセイお兄さまに媚を売って、なんとか生き延びようとしただけだ。そこにアレクセイお兄さまへの恋心なんてなかったし、今でも……ない、と、思う……わからない。

 レオナルドさまが僕を気にいる要素なんてこの容姿だけだと思うし…この姿はそんなに魅力的なの? それとも、本当の『僕』を見ても好きだと言ってくれるほど想っているの?

 アレクセイお兄さまと、レオナルドさま……僕は応えられる? 応えても……いいの? そもそも応えられるだけの何かが僕の中にあるの?

 わからない…! 今の僕はまだなにもわからないよ……!!
 

 と、とりあえずあんまり考えないようにしよう。難しいことは僕には向かない。人間万事塞翁が馬って感じで! え? 違う?


 あ! そ、そういえばレオナルドさまに言いたいことがあったんだった……もう少し騎士団でお仕事したいんだって……いや、あんなこと言われた手前、き、気まずい、けど…いやいや考えないって決めたでしょ! なるようになるんだって! こういうのはきっと…! お仕事の話だし!! ……レオナルドさま、どこにいるかな? レオナルドさまが向かっていった方はアレクセイお兄さまの執務室の方向だけど、そこかな? …うん…多分いる、かなぁ? いなかったらメイドか衛兵に聞けばいいや。



▲▽▲



「リルネール様に想いを伝えました」
「…は? レオナルド、お前、何を」

 アレクセイは思わずと言った様子でペンを取り落とし、レオナルドの顔を唖然と見上げた。

「私はリルネール様を愛しています。私の妻として迎え、ともに生涯を過ごしたいと望むほどに」
「…だまれ」
「アレクセイ様だってそうでしょう? しかし、貴方の妻にするということはリルネール様をこの国の王妃に据えるということ。御父上が許さないのでは…?」
「だまれ」
「ただでさえアレクセイ様とリルネール様は血の繋がった御兄弟なのです……私のもとへ降嫁なされた方が、リルネール様にとっても良いと思いませんか───」
「黙れッ!!」

がしゃんッ

 と、アレクセイが勢いよく立ち上がった衝撃で揺れた机から、インク瓶が落ち割れた。真っ黒なインクがとぷとぷと割れた瓶から溢れていく。絨毯が黒く染まっていく様子が、アレクセイの心情を表しているようだった。

「貴様に、貴様に何が……」
「何もわかりませんな。リルネール様の身体を暴いて、手元に置いた気になっている若い男の考えなど」
「レオナルドッッ!!」
「リルネール様に想いを伝えたからには貴方より一歩先んじたわけです。犯すだけの貴方とは違う」
「その口を閉じろッ!」

 アレクセイはレオナルドの胸倉を掴むとグッと引き寄せ吠えた。しかし、その手は震え、いつもは強い光を宿す黄金の双眸は焦りにぐらついていた。

「…アレクセイ様、思いは秘めているだけでは何も伝わらないのです。何も」

「っっ……」

 アレクセイは何かを言おうと口を開いたが、ぐ、と唇を噛みしめ俯いた。だらんと、レオナルドの胸倉を掴んでいた腕が落ち、糸の切れた人形のようにどさりと椅子に座った。

 その様を見たレオナルドがそのまま踵を返し退室しようとするとその時、軽いノックの音が執務室に響いた。



 控えめな音、軽いリズム。リルネールのノックの仕方だった。
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