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1巻

1-2

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 ニヤリと悪役ばりに笑った私に、事務官の人がサッとポケットからいくつか飴玉をくれた。

「……もらっていいの?」

 私が首を傾げて飴玉を見て、そのまま視線を上げると、事務官の人は無表情のままコクリとうなずく。
 視線を動かしクシー子爵を見ると、微笑んで「どうぞ」と言ってくれた。
 飴玉を一つ手に取り、包み紙を解いて現れたのは赤い飴玉。それを口にポンと放りこむ。
 ほのかな甘みと果実の香りが口いっぱいに広がって、とっても美味しい。
 ちょっと涙が出ちゃうくらい、嬉しい。
 大きな飴とモゴモゴと格闘すること十数分、応接間の重厚な扉を開けて使用人たちがぞろぞろと入ってきた。
 執事服の壮年の男性使用人、髪の毛をお団子にまとめたメイドの他に、食事を運んできた態度激悪メイドと、同じ年ごろのメイドが他に二人。
 あとは、コック服を着た太ったおじさんとヒョロイ少年。
 ゴツイ体をした強面こわもての警備員っぽい男、全部で八人か。
 事務官おじさんが、クシー子爵に何枚か書面を見せながら説明している。
 そして、私に向けて力強くうなずいた。

「殿下。他に殿下が生まれる前から勤めていた者が一人おりますが、今は病で伏せっているそうですよ」
「そう。では、しょの者はあとで考えましゅ」

 再び応接間の扉が開いたかと思うと、今度は衛兵たちが入ってくる。
 おおぅ、五人も入ってきたよ。
 これで、応接間にずっといた一人と合わせて、六人の衛兵が集まった。
 応接間にもともといた衛兵さんが、クシー子爵の耳元で再びひそひそ。
 クシー子爵は渋い顔をして、その衛兵さんに何か呟く。
 衛兵さんはビシッと敬礼したあと、応接間の扉を塞ぐように他の衛兵たちを並ばせ始めた。
 ――さて、そろそろいいかな?
 私はクシー子爵に向けて一度うなずいたあと、八人の使用人にとびっきりの笑顔を向けた。

「あんたたち、クビ」

 ソファーから立ち上がりトコトコと使用人たちの前まで歩くと、私は手を腰に当てて胸を少し反らせた。
 そして偉そうにむふーっと鼻息を荒くして、私はもう一度言い放つ。


「聞こえにゃかった? あんたたち、クビ。もういらにゃいから」

 しかし使用人たち、とくに執事服の使用人は顔色一つ変えずに、私を馬鹿にするように鼻で笑いやがった。
 ムッとした私の耳に、クシー子爵の密やかな笑い声が届く。
 使用人たちは、それに対して疑いの表情を浮かべた。
 はぁ、とクシー子爵は一つため息をつくと、スラスラと話し始める。

貴方あなたがた、ここをクビになったらどうするのです? 殿下は第四王女で王族としての身分は一番下になりますが、貴方あなたたちはその第四王女殿下の不興を買ったのですよ」

 クシー子爵は使用人たちがツッコむ隙もなく話し続ける。

「となれば、第四王女よりも位が上の王族に仕えることは無理でしょう。では、下働きに身を落としますか? 貴方あなたたちのような身元がしっかりしている者が身分の知れない者たちと同様に働けますか? いっそ、城働きを辞めますか? でも、殿下は辞める貴方あなたたちに紹介状を用意してくれますかねぇ。紹介状がなければ働くところも限られます。どうです? 貴方あなたたちにとってここをクビになるとは、どういうことか想像できましたか?」

 クシー子爵がゆっくりと、幼子に教えるように丁寧に細かく説明する。
 その言葉を聞いた使用人たちの顔色は、どんどん青白くなっていく。
 ちょっと怖いんですけど。
 こいつら全員、クシー子爵が私のことを軽く扱うだろうと思っていたんだな。
 使用人たちより、王族の私のほうが当然身分は高いのに。
 でもこの人たちは、私をさげすんでいるうちに、自分たちのほうが偉いって思いこんじゃっていたのかな?
 馬っ鹿、じゃない?
 王族ってだけでへつらわれるのは嫌だけど、あんたたちは私の世話をすることが仕事で、それでお給金をもらってたんでしょう?
 だったら、ちゃんと仕事しなさいよっ。
 内心でアラサー女丸出しになっていた私はソファーに座り直し、クシー子爵に「もういいわ」と合図をする。

「と思ったけど、クビにはしないわ。しょれよりもあんたたちには、相応ふさわしい場所がありゅから」

 私の言葉を皮切りに、衛兵の一人が目の前のローテーブルの上で茶色の革袋を逆さに振った。
 ゴトン、と音を鳴らして落ちてきたのは、ピンポン玉ぐらいの石――いわゆる宝石です。
 メイドの一人がそれを見て、ハッと息を呑む。
 それだけではなく、いくつもの宝石やアクセサリー類が次々と袋から落ちてローテーブルの上に散らばっていく。
 事務官のおじさんが書類と見比べながら、満足そうにクシー子爵にうなずいてみせた。

「これは、殿下の亡くなられた母君の持ちもの。間違いなく陛下から贈られたものだ。それがなぜ、メイド如きの部屋から見つかったと思う?」
「わ……わたくしは、な、何も……」

 メイドが悲愴感たっぷりの真っ青な顔で、両手を胸の前で祈るように組んでブルブルと全身を震わせる。

「他の者の部屋からも、シルヴィー第四王女殿下の持ちものが見つかった。王宮の気高き使用人が盗人とは、頭が痛いことよ」

 クシー子爵は手を額に当てると、やれやれと頭を横に振る。
 そして右手を軽く上げて、衛兵たちに命じた。

「捕らえよ」

 衛兵たちは使用人たちを手際よく後手に拘束していく。
 太っちょ料理人と強面こわもての男は外へ逃げ出そうと扉へダッシュしたが、そこを固めていた衛兵たちに殴られ、蹴られ、結局は押さえこまれた。
 こうして、あっけなく使用人たちは皆、床に膝をつき後手に拘束され頭を垂れることとなった。
 衛兵たちは黙ったまま、使用人たちを縄で縛り繋いでゆく。

「お前たちは罪人だ。罪が明らかであることから、裁判の前に嘘偽りを述べることを禁じる手段として奴隷契約を結ぶ。覚悟しておけ」
「ひぃッ」

 ビクンと使用人たちの体が、過剰に反応する。
 最後に何か嫌味でも言ってやろうと構えていた私も思わずギョッとしてしまい、人のさそうな小太りのおじさんをマジマジと見つめた。
 えっ、奴隷とか、マジ!?
 ぞろぞろと衛兵さんによって連行されていく使用人たちのみじめな姿をあえて見ないように顔を背けて、ふぅーっとひと息吐いた。
 いやぁ、異世界転生に気づいたその日に、怒涛の展開だった。私の健康状態を考えると早い展開はウェルカムなんだけど、疲れたよーっ。
 ホント、自分の能力に気づけてセーフだったよね。
 おかげで使用人たちを〝盗人〟だと見抜くことができたんだから。
 こんなガリガリに痩せたままの私じゃ、部屋から出て少し動いただけで人生がおしまいだったし、このまま屋敷にいたとしても、人生が終わっていたはずだ。

「いやぁ、あんな奴らが殿下のお側に仕えていたなんて、誠に申し訳ございません。私めがもっと早く気づいていたら……」
「いいえ、今回のことはとても助かりました」
「しかし、新しい使用人を早く手配しなければなりませんねぇ」

 あーっ、新しい使用人かぁ。
 ……正直、いらん。
 この与えられたチート能力をフル活用するバラ色で自由な異世界生活のことを考えると、できるだけ余計な人間には側にいてほしくないんだよねぇ。
 異世界の町も見てみたいし、美味しいものも食べ歩きしたいし。
 でも、非力な子供が一人で生活する……なんて通用しないかなぁ?

「あ、あのぅ。新しい使用人はちょっと……今は、誰も信用できにゃいっていうか……しょの……」

 同情を引いて訴えてみようと、可愛い幼女の上目遣いをクシー子爵に向けてみたが、彼はむう、と考えこむだけだった。
 しまった! 私の髪の毛はボサボサで前髪ももっさり状態だから、彼には見えないじゃん!
 しかし、クシー子爵は太く短い腕を組んで、うんうんと唸りだした。

「そ、そうですなぁ。また同じことがないとも言えないですしな。しかし、殿下のお世話をどうしたらいいものか……、うーむ」

 クシー子爵、あんたってばいい人だな! 王族相手に限ってだけどなっ。

「おっ、そうでした! 私がここに来た用事を思い出しました。丁度いいことに、奴隷の引き渡しのお誘いだったのです。殿下、使用人がお嫌なら奴隷を使うのはどうです?」

 えっ、奴隷? 私が奴隷のご主人様になるの?
 ええーっ、無理無理無理!!
 こちとら平和ボケした日本のややブラック気味企業で働いていたアラサー女子会社員ですよ。
 学生時代も「長」が付く役職に就いたこと一回もないし。
 人に使われてナンボの平々凡々の人生を歩んでいた私が奴隷のご主人様……いやぁ、無理でしょ。
 よし、断ろう。
 使用人は、なんとか少人数で通いにしてもらおう。

「亜人の奴隷譲渡なんですが、今回は第一妃様、第三妃様たちが参加されず第二妃様のみでして。なのに第二妃様はエルフの奴隷一人で満足されてしまい、余ってしまったのです。せっかくですから、殿下をお誘いに来たのですよ」

 やれやれ困ったものです、とクシー子爵は呟く。
 ……亜人の奴隷ですって?
 そ、それって、人族以外の人たちと会えちゃうヤツ?
 ザ・ファンタジーってヤツ?
 それだと話が変わってきますなぁ!!
 恥を忍んでクシー子爵にご教示いただいたことには、亜人族とは人族以外の種族を指す言葉で、王道ファンタジーに登場するようなエルフ族やドワーフ族はもちろん、人型にケモミミと尻尾しっぽがある獣人族などがまとめて亜人と称されているのだとか。
 なにそれ素敵だわ、とっても素敵!

「行きましょう。ぜひ。ぜひ連れていってくだしゃい」

 亜人と会える、亜人と会える~!
 その亜人とやらも奴隷らしいけど、まぁそれはあとで考えよう。
 異世界に来たんだもの、ファンタジー要素を浴びるほどに感じたいのです。
 私たちはお互いソファーから立ち上がり、応接間を出てエントランスへと歩いていく。
 絨緞じゅうたんきから大理石の床に変わった瞬間、私の足元からペタペタ音が復活しました。
 忘れてました、自分のみすぼらしい恰好を。
 どうしよう、と思わず立ち止まった私だったが、すぐに柔らかい布靴が差し出される。
 驚いてうつむけた顔を少し上げると、衛兵さんの一人がひざまずいて靴を置いてくれたのがわかった。
 パチパチと瞬きをして、衛兵さんと靴を交互に見比べていると、背後から「どうぞ」と声がかかり、さらに薄ら寒かった肩に暖かいローブがかけられる。

「使用人のものですが、とりあえずはご容赦ください」
「……あ、ありがとう」

 たぶん王族ってお礼とかお詫びとか軽々しく言ってはダメなのだろう。でも「ありがとう」って、小さな声だったけど、思わず口から出てしまった。
 クシー子爵や事務官さん、衛兵さんたちは、ただの子供の声なんて聞こえなかったようにエントランスを出ていく。
 ちょっと大きい布靴を履いて、私はパタパタと彼らの背中を追いかけた。
 少しだけ、その優しさにうるっときてしまったのは内緒だ。


 クシー子爵の乗ってきた馬車にエスコートされて乗ることになった。
 馬車の中は、四人が向かい合わせに座ったらいっぱいになるぐらいの広さで、両側に扉が付いている。
 上にポツンとランプ型のあかりがあったけど、あれは魔法で光るのかな?
 ポンポンと手で座面を叩いてみたけど、クッションはイマイチで、ゴトゴトと動き出したら案の定、お尻にダイレクトに刺激がきます。
 アンティークっぽい内装で、綺麗な馬車なんだけどね、残念ですわ。
 馬車の中にいるのはクシー子爵だけで、私の対面に座っている。どうやら事務官さんは馭者ぎょしゃ席に座っているらしい。
 王宮の敷地内の屋敷とはいえ、私のいた屋敷はめちゃくちゃ端っこにあるらしいので、目的地までは少し時間がかかってしまう。
 その間に私はお勉強をしようと思います。
 というのは、私ぐらいの年齢だと、王族って自分のいる国についてのお勉強を始めていると思うんだよね。
 でも私はこの国どころか、王宮にいるはずの家族のことも知らない。
 というか、そもそも第一妃とか第二妃とか、何ぞや?
 そこんとこ、この王族好きな小太りおじさんから教えてもらおう、という魂胆なのだ。
 今なら、使用人たちに虐待されて満足にお世話されてなかった可哀想な子、ということで無知でも許してもらえるだろうし!
 よし、教えてくれクシー子爵よ。内心は不遜ふそんで、実際は少しだけ上目遣いでいろいろと聞いてみると、一瞬悲しそうな表情を浮かべたのち、クシー子爵はこの国のことを教えてくれた。
 聞くところによると、現国王陛下には三人の妃がいる。
 まだ王太子が決まっていない、という理由で三人の妃は同等な地位にいるらしい。
 トゥーロン王国では、王太子の母親が正式な王妃となるんだって。
 ちなみに王子は三人、王女は私を含めて四人なんだとか。
 私の母親は外国人で身分が定かではないので、愛妾あいしょう扱いとなり正式な妃ではない。
 愛妾あいしょうの子が王女でいいの……と思って尋ねたところ、とにかくこの国は階級意識が高く、王族が第一で神にも近い存在……という扱いになっている、と熱く説明された。
 とにかく絶対的存在なので、母親の出自がどうあれ陛下の御子である、ということが重要なんだって。
 ただし王族の中では階級が重視されるから、第四王女の私の立場は決して安穏あんのんではないっぽい。
 さらに、その階級意識の高さは国政にも影響を与えていて、最近では貴族間で派閥争いがえげつないらしい。
 しかも、この争いに次期王位争いも乗っかって、複雑になってきたとクシー子爵もため息が止まらない様子。
 クシー子爵は、王族大好き第一主義だけど、階級で言えば子爵で下位貴族だから、気苦労も多いんだろうね。
 さて、この国では階級意識も高いけれど、その分、差別意識も高い。
 とにかく人族が第一で、人族ではない亜人は差別の対象なんだとか。
 奴隷を例にすると、人族は一部の例外を除いて奴隷にすることを法律で禁止されていて、例外があったとしても奴隷として売買されることはない。
 でも、亜人は亜人というだけで奴隷として売買していい。
 人権――というか亜人権なんか、この国にはないのだ。
 もちろん、こんな危ない国に旅行で訪れる亜人はいないので、供給が少ない。だから奴隷商は、非合法な売買で亜人を捕まえてくる。
 当然、外に行けば亜人が治めている国もある。
 そのため、我が国はそういった国からは総スカンをくらっているとのこと。
 ちなみに周辺は他国と地続きらしい。
 この国の南には小国が集まった連合国があり、そこには人族や亜人がそれぞれ治める国があったり、我が国と交友がある国も混ざっている。
 とはいえ交友があるって言っても公的な輸出入ぐらいで、民間交流は皆無という寒々しい関係だ。
 嫌われ者だなぁ……って、当たり前か。
 東側には、人族が治めている大国がある。
 ここは亜人差別もないし、王制だけど階級意識も高くないため、いろんな国と交友を持っているよい国である。
 なんと、大きなパーティーが開かれるときには互いに行き来したりと、我が国とも交友があるんだって。
 へぇーっ、心の広い国だね。
 こんな迷惑千万な国とやりとりするなんてさ。
 西側には段々と深くなる、広大な森が広がっている。
 その向こう側には、帝国がある。

「帝国はとにかく交戦的な国ですな。強さが正義という思想です。皇位継承者も皇帝の子供の中から強い子を選び、皇帝が指名します。しかし、前皇帝は後継者を指名する前に亡くなってしまい、ここ数十年はずっと皇位争いが続いています。そこで無理やり属国にしていた国は今が好機と反乱を起こしています。まぁ、帝国内で揉めていてくれれば、こちらに侵略戦争をしかけてこないですし、静かでいいですよ」

 という、クシー子爵いわく、やべえ国でした。
 一通りのお勉強タイムが終了すると同時に、馬車がゆるりと停まった。


「さぁ、お城だ!」と期待して、クシー子爵のエスコートのもと馬車を降りたら……目の前にあったのは、なんか町内会の集会所みたいな、こぢんまりとした石造りの建物。
 あれれ、と見渡してみると、ちょっと離れたところに宮殿がデデーンと建ってましたよ。
 あ、この国のお城って絵本に描かれているような尖塔タイプじゃなくて、前世で言うところの宮殿タイプなんだ。
 観光気分でのぞきに行ってみたいが、王女といえどもみそっかす第四王女にはハードルが高いよね。
 内心で残念がりつつ、私はクシー子爵の後ろについて、大人しくちょこちょこと石造りの建物の中に入っていくことにした。
 自分がいたお屋敷より上等な赤い絨緞じゅうたんを踏み、あちこち歩き回る。
 十分ほどかけて、やっと目的地に辿り着いたようで、前世の学校の教室ぐらいの広さの部屋に案内された。
 上からは小振りなシャンデリアがいくつも垂れ下がっていて、入ってきた扉と左右の壁の前には等間隔に衛兵が立っている。
 絨緞じゅうたんはペルシャ絨緞じゅうたんのような複雑な模様が描いてあって、そこには明らかに高そうなスタンドテーブルが置いてあった。
 壁際には等間隔に豪華な花台が設置されていて、大きな花瓶に飾られた色とりどりの花の芳香が鼻をくすぐる。
 事務官さんと同じような恰好をした職員さんが何人かウロウロしていて、私の正面には四人の獣人が所在なげに立っていた。
 期待していたファンタジーっぽい光景に、おおーっ、と興奮して思わず前のめりになってしまう。
 そこへ職員さんの一人がやってきてクシー子爵と話し始め、私はお預け状態になってしまった。

「あの……近くで見てきていいでしゅか?」
「はい、構いませんよ。どうぞ」

 クシー子爵のお許しが出たので、走りたいところをぐっと我慢して、早歩きで亜人たちのもとへ近づいた。
 私から見て左端に立っている人の前で、じっとる。
【鑑定】――極める!
 左端に立っているのは、背の高い男の人。体つきは細身に見えるけどしっかりと鍛えてそう。
 粗末な白シャツからのぞく腕はたくましく、首も太いし、薄汚れた黒いパンツを穿いた足はめちゃくちゃ長いぞ。
 パッと見の年齢は二十代前半ぐらい? 少し長めの髪は背中まで伸びていて灰色……いや、銀色かな。しばらくくしを入れていないのかあちこちに短い髪が跳ねている。
 整っている顔には鼻筋が通った高い鼻に切れ長の鋭い眼、さらには見たこともない珍しい銀色の瞳。
 彼の薄い唇はへの字に曲がっていて不機嫌そうだ。
 私に腹が立ってるというより、奴隷になった自分に苛立ってるってとこかな?
 そして、ケモミミ……狼の三角耳は髪の色と同じ銀色で周りを警戒するようにピンと立って左右に忙しなく動いている。
 尻尾しっぽはボサボサだしボリュームもあんまりない。ストレスで抜けたか? ちゃんとお手入れすればもふもふパラダイスだろうに……もったいない。
 少しだけ気になったので、私は意識して、彼の左足と左手を【鑑定】してみた。
 よし、次。
 左から二番目の人も、また男の獣人だ。
 こちらはやや痩身で、年齢は二十代後半ってとこかな?
 ちょっと仕立てのいい白いシャツとベージュのジャケットを着ていて、細身の茶色のパンツと黒い革靴も上等な品だと思う。
 背は隣の背の高い獣人より拳二つ分低い……これぐらいが平均的な身長なのだろうか。
 柔らかそうな明るい茶色の髪は襟足ぐらいの長さでスッキリしていて、その頭にはふっさふさなケモミミ、狐の三角耳が鎮座しています。
 んで、目が……細いっていうか、糸目? 
 肌も白いし赤味を帯びた唇は薄くて、うさんくさいタイプだなーって印象だった。
 こちらの尻尾しっぽは、ボリュームたっぷりの茶色のモフモフです。まぁ、手入れがされてないから、ちょっと草臥くたびれた感じだけど。
 そして、意識して【鑑定】してみる。うーん、右目と……頭かなぁ。
 まぁ、大丈夫でしょ。
 はい、次。
 次は二人がお互い抱き合っている男女の子供です。
 いや、私も子供だけどね、今は。
 女の子のほうが大きいけど、種族が違うっぽいから姉弟ではなさそう。
 まず、女の子のほうを【鑑定】します。
 ふむふむ、大きな問題はないね。人のこと言えないけど、健康状況がイマイチってぐらい。
 ケモミミは猫耳で、尻尾しっぽは細くてしなやかです。色は黒で、髪の毛も涙目の瞳も真っ黒な黒猫ちゃんなのです。
 この子は汚れて所々破れたワンピースみたいな服を着ていて、そこから出ているちょっと黄味がかった肌の腕と足がびっくりするぐらい細い。
 しかも、なんかあざとか切り傷とかがあるし、男の子を強く抱きしめている手指は水仕事で荒れたようにガサガサだ。
 惜しいな……ふわふわ猫っ毛の黒い髪はショートヘアーで、睫毛まつげがバサバサで黒い瞳は猫目のキュートさで、ちんまりとした鼻と口がめちゃくちゃ可愛いのに。
 お隣のもう一人は、私より小さな男の子だ。
 猫獣人の女の子に抱きしめられたまま動かず、目が虚ろな感じがヤバいな。その瞳は光のない琥珀こはく色でした。
 クルクル巻き毛の白髪は耳や首が隠れるほどの長さで、そこに生えているのは白い毛の丸いお耳です。尻尾しっぽも猫ちゃんみたいに細くしなやかで白に黒の模様があるが、ピクリとも動いていない。
【鑑定】してみても健康状態以外とくに問題はないけど、この子の持っているスキル、ヤバそうだなぁ。
 でも、いっか。この子供たちも大丈夫……たぶん!

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