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幸せになりましょう

王都に突入する前に噂話をしました

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それからは軍を二手に分けて進軍した。
レジス様率いる軍はザンマルタン侯爵領都を目指し、ノアイユ公爵領地に入ると大きく右へと。
私たち本隊は真っ直ぐに王都を目指す。

ノアイユ公爵領民は、亜人奴隷解放軍として堂々と他領の騎士団が進軍するのに不安になるのでは?奴隷万歳派の抵抗にあうのでは?と危惧していたのですが、拍子抜けするほど順調に進みました。
特にシャルル様からの伝達があったわけでもないのに。

「だから言ったじゃろう。無関心なのだ、と」

苦々しくモルガン様が言い放つのに、私も納得です。
シャルル様たちはノアイユ公爵邸に戻り、レイモン氏が訪れるのを待つそうです。
わー、かわいそうに・・・あの人はドSですよ?超ドSですよ?

「もともと、ノアイユ公爵のエルフ狂いに眉を顰めていた民たちですからね、亜人奴隷を解放して領主がまともになればいいと思っているのですよ」

ベルナール様が冷たくノアイユ公爵領都の町並みを見て、言い捨てる。

「他に亜人奴隷を所持している商人とかお金持ちはいないのかな?」

「いません。エルフの奴隷ならば領主に取り上げられますし、他の亜人奴隷を所持していればそれこそ公爵家に蔑まれるだけでしたからね」

前ノアイユ公爵家では、亜人奴隷はエルフのみが許される存在で、他の亜人奴隷を所持するぐらいなら人族の奴隷を買う・・・そうだ。

「滅びて正解」

ボソッと私は吐き捨てる。
人をなんだと思っているのか!まったく最低な奴らだが、それよりももっと最低な人種が目の前の城に巣食っているんだよなぁ。
私は複雑な心境でヴィクトル兄様のことを思う。
あの人に果たしてユベールとエロイーズを断罪できるのだろうか?
いや、実の母親と妹を目の前で殺されているし、自分だって剣で斬られている。
でもなぁ・・・ヴィクトル兄様ってちょっと純粋すぎるつーか、優しすぎるつーか・・・甘いんだよなぁ。

王都前に広げられたリシュリュー辺境伯軍の陣営に翻る二つの旗。
一つはリシュリュー辺境伯の旗で、もう一つはトゥーロン王国の全ての民が初めて目にする旗だ。
王太子を意味する赤色の旗に金糸と銀糸で刺繍されたヴィクトル兄様の旗。
意匠は一つ星に吠える銀色の狼と足元には金と銀の百合の花。
トゥーロン王国では紫が王や王妃の色で金が王で銀色が王妃を示す。
王太子は赤色に金糸と銀糸で刺繍するのが定番らしい。
意匠は王は太陽で王妃は月が多く、王太子は星を使う。
んで、なんで狼なのか聞いたら、ヴィクトル兄様が眼をキラキラさせて子供のように興奮しながら、「銀色の狼」の話を教えてくれた。
従者のユーグ君から聞いた御伽噺の中の狼は、強く逞しく正しく群れを導く伝説の狼で物語の中では人化するらしい。

「えーと、それって・・・」

今、私は後ろを振り向いてはいけない!
決して、リュシアンを見てはいけない!
伝説の銀色の狼、別名「神狼」って、希少種族「神狼族」と何か関係ありますかね?
狼じゃないけど、白虎族のリオネルやカミーユさんは「獣化」でまんま白虎の姿に変身できますけど、何か関係してますかね?
神狼は「人化」するけど、神狼族は「獣化」するんですかね?
セヴラン、笑うのを我慢しても肩が揺れているのよ!ルネとリオネルもフンフンとリュシアンの匂いを嗅がないの!

「だから、私もかの狼のように民を正しく導きたいと思う」

「アーソウデスカ。ヴ・・・ヴィクトル兄様ならできると思います。応援シテマス」

動揺してカタコトになっちゃったよ。
ヴィクトル兄様とユーグ君の夢を壊さないように、リュシアンの種族は秘密にしておこうっと。
そして狼の足元に咲く百合の花はリリアーヌ姉様が好きだったお花なんだって。

「そういえば、伝説の狼じゃないですけど、王都の教会に聖女が現れたって噂ですよ?」

ユーグ君がポツリと世間話を思い出した。

「聖女・・・様?」

あれ?ここの世界って剣と魔法の世界で勇者と魔王が出てくるっけ?

「教会に聖女?ここにきて教会が出張ってきたのか?」

ベルナール様は険しい顔でユーグ君を睨む。

「いいえいいえ。相変わらず教会は黙っていますけど・・・。どうやら王宮から逃げた亜人たちを保護しているみたいです。その中から聖女が現れたって噂が立ったみたいで。でも教会はずっと中立を訴えていましたからロドリス様たちの使者も受け入れてくれなくて」

今までは王家や貴族に逆らわないように細々と亜人保護をこっそりと行っていた教会は、ここにきても奴隷解放軍に汲みすることなく傍観するつもりだ。
しょうがないよね、まだこちらが完全に勝つとは断言できないもの。
保護している亜人や孤児たちのことを考えたら、全てが終わるまでじっとしているのが正しいのかも。

「聖女とは、具体的には?」

アルベールの問いにユーグ君は困った顔でチラチラとベルナール様を伺いながら答える。

「治癒魔法が使えるそうです。お顔はローブを被っていて誰も見たことがないとか。でも白い美しい手で施す治癒魔法は天使のようだと噂で・・・」

「治癒魔法。天使」

クルッとアルベールが私を見るけど、何よ?

「私じゃないわよ」

「わかってますよ。ただ治癒魔法が使えるのが気になっただけです」

私も使えるよ?治癒魔法。
チート能力者ですから、えっへん!

「今は聖女の噂を確かめている時間がない。教会が変なことを考えてなければいいが、後回しだ」

ヴィクトル兄様がバッサリと聖女の話題を切った。
そうね、今は王宮でのさばっている馬鹿どもの始末が先だもの。

私たちが王都前に陣を構えて二日後。
待ちに待った連絡がミュールズ国から齎されたのだった。

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