上 下
191 / 226
幸せになりましょう

ノアイユ公爵は生気がない人でした

しおりを挟む
リュシアンが、王宮で奴隷同士として面識があったエルフ族の男が、ノアイユ公爵邸にいる。
その奴隷だったエルフ族は、第二妃に引き取られていて、その第二妃の実家がノアイユ公爵家。

「なによ?第二妃からこっちへ流れてきたの?」

私はコテンと首を傾げてリュシアンが気安く肩をバンバン叩いているエルフを見る。
ん?
王宮にいた第二妃の奴隷のエルフ族?

「ねぇ・・・ねぇねぇ、アルベール。王宮の奴隷契約の魔法陣はちゃんと破壊してきたよね?王宮にいた奴隷は、全員解放されたんだよね?」

私は、クイクイとアルベールの服を引っ張る。

「そのはずです。王族や貴族が個人で契約していた奴隷は解放できませんが、あの奴隷契約魔法陣での契約は破棄されているはずです」

・・・つまり、そのエルフは現在は奴隷契約からは解放されている・・・なのに、ノアイユ公爵邸にいる。

「なんで?ここにいるエルフ族たちは奴隷じゃないの?」

ウッソー!と両手を両頬に当てて叫ぶと、部屋にいたエルフ族全員がザッと音を立て攻撃体勢に入った。
ギャー!!

「おいおい、落ち着けよ。別にこっちはアンタたちとコトを構えようと思っているわけじゃねぇんだ」

リュシアンがまるで昔馴染みのようにエルフの肩を抱き、ノアイユ公爵の正面に立つ。

「・・・何が目的だ?」

疑いの眼で私たちを睨むノアイユ公爵は・・・何を警戒しているのだろう?

「私たちリシュリュー辺境伯軍は、これから王都内にいる亜人奴隷解放軍と合流して王宮へと攻め入ります。勿論、邪魔する貴族や騎士たちは倒していきます。ノアイユ公爵はどうされるのか、問い質しにきたのです」

ベルナール様がリュシアンの肩を押しやって、自らがノアイユ公爵の正面に立って、堂々と言い放つ。

「どう、とは?」

「私たちは亜人奴隷を解放するの。亜人の差別に対しても撤廃するよう働きかけるわ。そして・・・王宮にいるザンマルタン侯爵たちを捕らえて、第一王子のヴィクトル・トゥーロンを王位に即けるつもりよ」

トコトコとベルナール様の隣に立って、両手を腰に当て偉そうに私も言い放ってみる。

「そのとき、ノアイユ公爵はどうするのかっていう話よ。新しい時代の王に従うのか、エルフ族を求めて最後まで私たちに反抗するのか」

反抗するならここで倒しちゃうけどね。
ノアイユ公爵は、ふと視線を下げてソファーに深々と背中を預けた。

「・・・くだらない。勝手にすればいい」

ふーっと息を吐くと、ヒラヒラと右手を上げて振り、それを合図に部屋にいたエルフ族が武装を解く。

「興味ないの?私たちが勝つと、もうエルフ族の奴隷は手に入らないんだけど?ほらほら、こういうのが手に入らないわよ?」

私はグイッとアルベールの腕を引っ張り、ズズイとノアイユ公爵の前に突き出す。

「ちょっ、ヴィー!」

ブンブンと腕を振り払ったアルベールは、ゴツンと拳骨を私の頭に落とした。
ううっ!痛いんですけど・・・なによ、ちょっとした冗談じゃないの。

私が頭を両手で押さえて唸っていると、ノアイユ公爵の周りから「クスクス」と笑う声が聞こえる。
ああ、ちゃんと笑えるんだ、このエルフたち。

「奴隷はいらん。この屋敷の奴隷も全て解放されている。どこかに行きたければ勝手にすればいいのだ」

退廃した雰囲気をグッと深めて、やや投げやりな口調なノアイユ公爵の瞳には、生気が感じられなかった。
ここのお屋敷の生気のなさって、主であるノアイユ公爵が反映されているみたい。
ノアイユ公爵からどこへでも行けと言われたエルフたちは、戸惑ったようにお互いの顔を見合わせる。

「もう、いいんだ。私はここで共に朽ちていく。お前たちは自由になったのだから、行くといい。ああ・・・奴隷解放軍に加わりたいのなら好きにしろ」

ノアイユ公爵は、再び右手を上げてヒラヒラと振る。

「・・・あれ?」

いま、ノアイユ公爵の頭がちょっと動いたときに髪の毛がサラサラと流れて見えたんだけど・・・嘘でしょ?

私はダダダッとテーブルを回りこみノアイユ公爵の側に近寄ると、エルフたちが制止する前にガシッとノアイユ公爵の両サイドの髪の毛を掻き上げた。

「なんで・・・?」

両サイドの髪の毛を掻き上げて見えたのは・・・ノアイユ公爵の耳だ。
上辺が切り取られた・・・耳だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。