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幸せになりましょう

ノアイユ公爵邸を訪問しました

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さて、アルベールの冷たい怒りでテントが氷河期を迎えた夜の翌日、ノアイユ公爵邸の門扉前です。

今回、公爵邸を訪れるのは、リシュリュー辺境伯家代表ベルナール様と、トゥーロン王国家代表の私、シルヴィーと、護衛としてリュシアン、生贄としてアルベールになりました。
リシュリュー辺境伯騎士団四名とセヴランとルネとリオネルは、屋敷の中には入らずにお庭で待機します。
カミーユさんは邪魔なので、騎士団のテントの中に置いてきました。
今頃は、魔獣馬と飛竜の健康診断でもしていると思いますよ?

このメンバーになったのは、まずリシュリュー辺境伯家ではモルガン様とレジス様が拒否したから。
なんでも、ノアイユ公爵家の者とは、話が徹頭徹尾噛み合わないから嫌だそうです。
そりゃね、唯美主義のお貴族様と脳筋一族の騎士精神じゃ、共通点を探すほうが難しいでしょ?
でもさぁ、国の大事な局面だっていう意識があるのに、子供みたいな理由で嫌がるってどういうつもりなのよ!

「こういう腹の探り合いは母上かレイモンが担当なのだ」

きゅーん、とレジス様が大きな体を縮めて厳つい顔を情けなくさせていたら、どうでもいいやと思いました。
二人とも、大して役にも立たなさそうだし。
ベルナール様が、相手の油断を誘うためにわざわざ獣人の姿を晒して行くと覚悟を持っていてくれるし。

こちらのメンバーは通常運転で、私の素性をバラすのは、中立派としてのノアイユ公爵がどっちに転ぶかわからないからね。
亜人奴隷解放に舵を切らないなら、王族の一員の私にどう対応するのか、見極めなきゃ!
私は決して、面談の餌として連れて行くアルベールへの人質ではない・・・はず。

王族として顔が知られているヴィクトル兄様は、まだ国内では死んだことになっているので、今回はスルーしてもらい、騎士団を数名連れてこっそりと王都へ侵入作戦に参加です。
目的地は王都の奴隷解放の中心、冒険者ギルド。
きっとヴィクトル兄様のことを心配していると思うよ、ミゲルの店のみんなやギルマスたちが。
あと、ミュールズ国のミシェル殿下に頼まれた、弟殿下の捜索ね。
リリアーヌ姉様の死の真相を確かめにトゥーロン王国へ潜入して、連絡不通になってしまったミュールズ国の第二王子様。
大人しく冒険者ギルドにいてくれればいいけど。

「お嬢。どうせノアイユ公爵は中立派なんだろう?・・・手っ取り早く潰しちまえばいいじゃん」

「・・・リュシアンのおバカ。すでにリシュリュー辺境伯たちはジラール公爵派をかなりの数潰したのよ?ザンマルタン侯爵派も丸ごと潰すだろうし、なのに中立派まで潰したら貴族がいなくなっちゃうでしょ?」

そうなったら、ヴィクトル兄様を王位に即けたところで、誰もいなくなっちゃうでしょうが。
内政も外交もめちゃくちゃになるわよ。
リュシアンは鼻白んで、腕を頭の後ろで組む。

「王なんていなくてもいいけどなー」

「同感だけど、いきなり王制を廃止しても、民にその意識がなければ意味がないわ」

支配されることに、搾取されることに慣れた民が、自分たちで奮い起して成した革命でさえ失敗するのよ?
今回はリシュリュー辺境伯主導で行われた改革で、しかも亜人奴隷解放を基軸にしているわ。
民たちにとっては、雲の上の出来事と同じ感覚だわよ。

「王制廃止を王家や貴族が主導して行うことができればいいんだけどね」

でも、この世界ではちょっと難しいと思うの。
いつか、文明がもっと発展して教育も行き届いて・・・そんな未来がきたら、もしかしたら・・・。

「・・・ノアイユ公爵にその話はしないでくださいね。この方たちは政治に興味なんてないらしいですから。古くからある公爵家でありながら政治の要職に就いたことがないそうです」

ベルナール様の情報に、私たちは口をポカーンと開けてしまう。
・・・公爵家なら大臣でも宰相でも・・・やりたい放題だったのでは?

「ノアイユ公爵が公爵位を持ち続けたのは、ひとえにエルフ族の奴隷を確保するため・・・と貴族間では有名な話とか」

やーめーてー!またアルベールから吹雪がーっ!

「そ、そろそろ行きますか」

私は、あはははと乾いた笑いを浮かべ、右手と右足を一緒に出して歩き出した。








うん、約束の時間にノアイユ公爵邸の門扉は開けられました。
綿の白いシャツと黒いズボンを穿いたエルフ族の男の人の手で。

ノアイユ公爵邸は、さすが唯美主義の人が住むお屋敷!と讃嘆したくなるほど綺麗でしたよ?
木々や咲いている花々がきっちりと計算されたお庭や噴水とか、お屋敷は真っ白な壁に窓枠やあちこちに金が施されていてキラキラしていて、左右対称の造りで。

うん・・・とっても素晴らしいですよ・・・ただ・・・なんか、暗いんです。
本来は清掃が行き届いている庭は折れた枝や落ちた葉や花びらが散乱していて、噴水の水は止まっていて溜まった水が淀んでいるし、馬車の通る道にまで雑草が生えている。
お屋敷には、重くて暗い雰囲気がドヨヨヨンと帯びている気配がして・・・とっても不穏な感じ。
私だけでなく野性の勘のリュシアンも、長い冒険者経験で鋭い勘のアルベールも、うっと顔を歪ませている。
ベルナール様だけが、そんな私たちにきょとんとしているけど・・・このお屋敷には「生気」が感じられないのですよ。

お屋敷の扉の前で躊躇していると、ガチャリと中から開けられた。
そこには二人の女性、綿の黒いワンピースを着たエルフ族の女性だ。
アルベールの眼が眇められる。
女性たちは「どうぞ」と声で促すこともなく、クルリと背中を向けると付いてこいとばかりにスタスタと歩き進んでいく。
私たちはお互いの顔を見合わせたあと、二人の女性の後を付いていくことにする。

私は、気が付いていた。
このお屋敷には、人族の使用人の姿が全く見ないことと、会うエルフ族の人たちが奴隷の契約から解放されいることを。

「・・・どうなってんのかしら?」

私は薄暗い廊下をキョロキョロと見回しながら、大人しくエルフ族の女性の背中を追っていった。

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