みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお

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悪を倒しましょう

外の様子は問題なし、訪問者あり?

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咄嗟に動いてしまったの。

リュシアンが自分を犠牲にしようと声を張り上げたとき。
ガブリエルがリュシアンへと襲いかかったとき。
助けなきゃ!リュシアンが死んじゃう!
それしか、私の頭の中にはなかったの。

防御魔法をリュシアンに重ねがけして、「身体強化」を自分にかけてリュシアンへと走り寄って。
二人の間に体を滑り込ませたときには、リュシアンを助けられたとホッとしたわ。
でもね・・・冷静に考えたら、それって私が危険だということよねぇぇぇ。
だって、ガブリエルってば右手でリュシアンの胸を貫こうとしていたんだもの。
ご丁寧に自分の血液を右手に纏わせて。
そんなので胸を貫かれたら傷口はドロドロに溶かされて縫合することもできないし、そもそも心臓を貫かれたら即死よね?

んで、私はリュシアンを庇って、ガブリエルの前に躍り出たわけよ。
つまり、まだ子供の私の胸に奴の禍々しい右手がめり込んで、下手したら貫通するんじゃないかしら?
え?呑気する感想だって?
だって、しょうがないじゃない・・・。
私だって「死んじゃう・・・私が!」と愕然としたとき、胸に痛みを感じる間もなく、辺りを眩しい光が包んで・・・。
何もわからなくなってしまったんだもの・・・。

ねえ・・・ここって、どこなの?








後ろにいるヴァネッサを気にすることもできずに、ただ無心で階段を昇りきりそのまま扉を蹴破って外へと走りでた。

「はあはあはあ、はーぁ」

ヤバイ、年かもしれん。
久しぶりの全力疾走でちょっと・・・肺が苦しいんだが・・・。

「やあねぇ、鈍ったんじゃないの?クリストフ」

膝に手を付いて、屈んで息を整えていた俺の隣に立つヴァネッサは、腰に手を当てて余裕だった。

「あー、ちょっとぬるま湯に浸かり過ぎていたな・・・」

王都のギルマスなんて、詰まらない仕事に長く就きすぎたんだろう。
よっ、と愛用の剣を肩に担いでって・・・真ん中から剣はポッキリと折れてしまったが、外の状況を把握しようと辺りを見回す。

「・・・なんじゃ、こりゃ」

「ねぇぇぇ。なんか、悪い夢を見ているようだわ」

ヴァネッサも額に手を当てて、軽く頭を振っている。
俺の目に映るのは、楽しそうに高ランク魔獣であるコカトリスを逆さまに縛り上げて自前の爪で喉を掻っ切る魔獣学者のカミーユと、その横で自分の何倍もの大きさのブラックベアの首をやっぱり自爪で切り落とそうとしている子供の獣人。

「あっちもよ」

ヴァネッサが指差すところには、知能が高い猿の魔獣クレイジーモンキー数頭を、素早い動きで一撃必殺とばかりに倒していく小柄な少女の獣人。
それと・・・。

「俺の見間違いでなければ、魔獣馬が自分よりランクが上の魔獣を踏みつぶしてるようだが・・・」

二頭の魔獣馬が、狼やら猪やらの魔獣をボコボコにしている。
あれって・・・バイコーンだよな?

「嬢ちゃんたちの従魔だったような?」

俺は、その従魔らしからぬ強さと肚の強さに、首を捻った。

「貴方の国が誇る騎士団は、私の可愛いAランクの冒険者たちと一緒に雑魚掃除をしているわよ」

クイクイとヴァネッサが親指で示すところには、いかにも悪人です!とした顔つきの人族が乱暴に縛られていて、騎士たちが剣先を突き付けていた。
そこから少し離れたところには、何人かの亜人の姿が。

「やっぱり捕まっていたか・・・ここで助けられてよかった」

「亜人だけじゃないわ。あっちの人族は・・・もしかしてビースト研究に関わりがあるんじゃない?」

ふむ・・・人族であれば亜人奴隷を売買している奴らか、ミュールズ国王の手先か・・・でも、あそこにいる人族は武器など持ったこともなさそうな優男ばかりだな。

「もしかして、地下にいた奴のことを何か知っているかもな」

「そうね。私たちの武器も欲しいけど、どうせロクな物は用意できないわ。だったら奴を弱らせる方法を聞き出しましょう」

パン!と派手な音をさせて俺の背中を叩くと、ヴァネッサは大股でその人族のほうへと足を進める。
俺もヴァネッサの後を追いかけるが・・・。

「ん?」

今・・・何か聞こえた・・・ような。
俺は頭の上にある獅子の耳をピクピクと動かし、音を拾おうとする。

「・・・馬車の音か?」

夜が明ける前の暗闇の中、ミュールズ国側の道から聞こえるガラガラとした馬車の音が聞こえた気がした。
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