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運命の鐘を鳴らしましょう

獣人は即断即決でした

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トゥーロン王国の現状は、停滞しているままとでも言おうか?
まず、国王は政務に復帰していますが、公の場には姿を現しておらず、ザンマルタン侯爵にがっちりと命の緒を握られているとみていいでしょう。
たぶん、宰相派がザンマルタン侯爵に掛け合って、政務が滞ることのないようにしたのだろう。

なんて言っても、未だにユベールとエロイーズの間で王位継承争いを続けているからだ。
流石に、暗殺とかヤバいことはしていないらしいが、お互い使用人に命じて嫌がらせをし、賄賂をバラまいて貴族の味方を増やそうとしているとか。
トゥーロン王国の財政も厳しいらしいわよ?亡くなった王族の葬儀もまだなのに、ユベールとエロイーズが国庫から金目の物を持ち出したり、遣い込んだりしているから。

結果、ザンマルタン侯爵すらもどちらに王位を継がせればいいのか分からず、国王を亡き者にできない状態。
宰相派はこっそりと私こと第4王女のシルヴィー・トゥーロンを探しているしね。

ザンマルタン侯爵が貴族の中でも嫌われていたのか、後継のふたりのバカっぷりに呆れたのか、トゥーロン王国の貴族たちは様子見で、ザンマルタン侯爵派はその規模を増やせないでいる。

ヴィクトル兄様のお祖父様である、ジラール公爵派は、亜人奴隷解放軍に加担したままの貴族は極僅かで、ほとんどは中立を謳っているらしい。
日和見って奴ですね?

「動向が分からないのは、ノアイユ公爵派です、ノアイユ公爵とその嫡男、第2妃だったアデライド妃、第3王子フランソワ、第3王女ジュリエット亡き後、次男が後を継ぎましたが・・・喪に服すとして社交に参加もせず、不気味なほどの静寂さを保っています」

ただ、ノアイユ公爵の領地は王都に近い一等地だし、その派閥も裕福な貴族が多い。
敵に回れば厄介な勢力だ。

「あとは、リシュリュー辺境伯ですが、戦支度を始めていますし、王都や周辺国に諜報のため人を放っております。例の亜人奴隷解放軍とも連携を強めています」

うん、こっちは順調だね。
ベルナール様も、リシュリュー辺境伯の情報を聞いてホッしたように息を吐いていた。

「・・・以上となります」

小人さんは最後に連合国の様子と帝国の情報を告げて、ペコリと頭を下げて、タタタと小走りで去って行った。
帝国の内戦は激しさを増す一方で、こちら側に目を向ける余裕はないだろうってこと。
これが、帝国の皇帝が決まって内戦による民の不満の目を背けるために、こっち側に戦を仕掛けられたら、万事休すだったから良かったわ。

当然、ミュールズ国に攻め入るかどうか、トゥーロン王国の無力な王子に助力するかどうかをアンティーブ国側が話し合う場面なんだけど、すっごく嬉しそうに「はーい」とヴァネッサ姉さんが手を上げている。
な・・・なんだろう、嫌な予感がする・・・。

「ヴァネッサ。お前に発言権はないだろう?」

クリストフさんが窘めるが、ヴァネッサ姉さんはそのまま大きな声で話し始める。

「なんだよ、いいじゃないか!トゥーロン王国で暴れるつー話だろう?トゥーロン王国の王都の冒険者ギルド、リシュリュー辺境伯領地の冒険者ギルドは我らギルドの息が掛かった者がいるぞ!王都の商業ギルドにもいると聞いたぞ!」

フン!どーだ!とドヤ顔のヴァネッサ姉さん。
へー、そうなんだ。
トゥーロン王国は亜人差別が酷く、各ギルド、教会からは破門にされているので、全て独自のギルドで運営されている。
まあ、国営みたいなものだ。
でも、そこに正規のギルド職員が潜り込んでいるとなれば・・・。

「アルベール、もしかしてロドルフさんとサブマスのモーリスさんって正規ギルドの職員?」

「そうでしょうね。イザックたちもそちらの仲間かもしれません。となればギルドからの支援も見込めますね」

勿論、勝算が無ければ協力なんてしないシビアな機関ですけどね、と呟く。
さぁ、情報は出揃ったなかな?
これから長丁場になるわねぇ!
・・・て、国同士の話って大きすぎて、もう私たちには関係ないんじゃないの?










「さて、結論だ。アンティーブ国王として命じる。ミュールズ国のビースト計画を阻止する!トゥーロン王国ヴィクトル殿下への助力も惜しまない!以上だ」

ハハハハハって、豪快に笑っているけど・・・。
王様、協議しないで結果出すなよ!どんな暴君だよ?
え?これでいいの?みんな「はっ!」といい声で応じているけど?
きょとん顔で小首を傾げていたのは、私だけではない。
ヴィクトル兄様もベルナール様もきょとん顔をしている。

「・・・アンティーブ国はこういう国なんですよ。獣人である故か直感で決めるんです。たぶん前の会議のときには気持ちは決まっていたんでしょう」

この会議は情報を共有するために開かれただけでしょうね・・・て、そんなことってある?

クリストフさんとヴァネッサさんがいい笑顔でこちらに来て、アルベールの背中をバンバンと叩く。
痛そう・・・。

「いやあ、またお前らと暴れると思ったら楽しいな!」

「ヒドイ男だよ、アンタは。ビーストなんて面白い物をひとり占めしているなんて」

目的がズレている・・・気がするわ。
私はこっそりとヴィクトル兄様に近づき、服の裾をツンツンと引っ張って、こしょこしょと内緒話。

「え?」

私は、コックリと深く頷く。
これで決定!て簡単な話じゃないでしょ!
なによりも、舞台になるもうひとつの国を無視していい訳ないじゃん。

「あ・・・あのう」

ヴィクトル兄様が、ヴァネッサ姉さんみたいに右手を上げる。
全員の注目を浴びたあと、陛下の「なんだ?」という問いかけに、ヴィクトル兄様はゴクリと喉を鳴らして。

「俺・・・いや私、トゥーロン王国第1王子ヴィクトル・トゥーロンは、アンティーブ国とミュールズ国との三国会談を望みます!」

そうよ、ミュールズ国もこちら側に引きずり込まなきゃ!

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