みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお

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運命の鐘を鳴らしましょう

脅してみました

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「その名前は捨てた名前よ!私の名前は、ヴィー・シルヴィー。の冒険者よ!」

高らかにそう宣言した私を、不思議そうに見るアンティーブ国王陛下と王弟クリストフさん。
ちょっと悲しそうに顔を歪めたヴィクトル兄様と、驚いて耳と尻尾をピーンと立てた獣人従者。
アルベールは満面笑顔で、リュシアンは苦笑している。

とりあえず、私の立場は主張したから、陛下の御前に行ってやろうじゃないの!
私の隣にはアルベールがピタッと付いて、やや後ろには護衛のリュシアンが控える。
歩き出す直前セヴランが小声で「ちゃんと逃走経路は確保しておきますので」と伝えてきて、内心驚いた。
アンタ・・・アンティーブ国の王城で、何を仕組んでるのよ?

「王城には魔法を行使できないように細工されている部屋があるので、セヴランの妖術でちょっとね」

アルベールがこそっと教えてくれた内容に、さらに内心ビックリよ・・・。
ルネとリオネルは物理で逃走経路を確保するつもりなのか、広間後方の私たちが入ってきた扉へと走っていった。

「さて、わざわざ亜人が治めるアンティーブ国に何用かな?トゥーロン王国の王族よ」

陛下が気を取り直して、そう尋ねる。
ヴィクトル兄様は片膝を付いてまま、頭を下げ続けている。
陛下から許しが出てないからだ。

「・・・それは・・・」

どう、答える?
一番揉めないのは、アンティーブ国王族の血を引くベルナール様をトゥーロン王国から助け出し、彼の保護を求めて来た・・・ていうシナリオよねぇ。

でも、これって両刃の剣。
だって、そもそもベルナール様のお母様、王姉であるジャンヌ様がトゥーロン王国で亜人奴隷だったわけだし。
その亜人差別の政策は、トゥーロン王国の王族が推し進めていることだし。
どの面下げて、言いやがる!とクリストフさんに抜刀されても文句は言えない。
今のヴィクトル兄様には、この国での強い後ろ盾もないしね。

他人事のように冷めた気持ちでそう考えていた私は、ヴィクトル兄様の行動に何度も瞬きすることになる。
ヴィクトル兄様はそのまま両膝を床に付き、頭を深く深く下げ、額を床に擦りつけながら、大声で懇願する。

「・・・どうかっ、どうか、私、ヴィクトル・トゥーロンに、助力を・・・お願いします!どうか、私とともに、トゥーロン王国を貪るザンマルタン家を排する力をお貸しくださいっ!」

リュシアンもアルベールも予想外の行動だったのか、目をパチパチ。

「おれ・・・いえ、私からもお願いします!ヴィクトル殿下はトゥーロン王国の王族ですが、かの国にて亜人奴隷解放を目指しリシュリュー辺境伯と・・・ぅんぐ」

それ以上ベラベラとトゥーロン王国の内情を喋るな!とリュシアンが奴の口を塞ぐ。
この子は、交渉するつもりないのかっ!
なんでもあけすけに話せばいいってもんじゃないでしょ!
誠意を見せるのも大事だけど、国と国の交渉なんだから、全部喋らないでよーっ。

「ふむ。シルヴィー・・・ヴィーとやらも同じ気持ちか?」

私は自分を指さして首を傾げてみせると、クリストフさんがそうだと頷いた。

「・・・別に。トゥーロン王国は名前と同じで捨てた国だし。亜人差別の激しい、レベルの低い国だわ。どこぞの国に併合されてもかまわないと思うけど・・・」

「思うけど、なんだ?」

「今のままだと併合するのは、ミュールズ国が有力ね。帝国は自らの皇位争いで他国のことに首を突っ込んでいる場合じゃないし、連合国の中で抜け駆けする国があったらギリギリに保っていた均衡が崩れる」

ニヤリと子供らしくない笑いを浮かべた後、分かりきった未来を語る。

「今まではトゥーロン王国を傀儡にして悪事を行っていたミュールズ国が、トゥーロン王国を堂々と併合したら、次はどう出るのかな?アンティーブ国との国力にも差が出るわね?」

つまり、このままトゥーロン王国を放って置いたら、ジリジリと自分たちの喉笛に刃が迫ることになるのよ?と脅してみる。

実際は、ミュールズ国がトゥーロン王国を併合することは無いと思う。
悪いことをしているトゥーロン王国にさえ、慈悲の手を差し伸べるミュールズ国・・・このイメージを崩さないと思うんだ。

「嬢ちゃん・・・本当に子供か?」

「失礼ね!正真正銘、8歳の美少女よ」

ちなみに、私たちはヴィクトル兄様たちと違って、陛下に対して膝は付いてないわ。
不敬にも立ったままで、陛下たちと言葉を交わしています。
しかも、タメ口で。
だって、冒険者は舐められたら終わりって、リュシアンが教えてくれたんだもーん。

トゥーロン王国の忘れられた離宮で、ひとりぼっちで使用人に虐められていた妹の激変ブリに、土下座していたヴィクトル兄様も驚愕の表情でこちらを見ています。

「ふむ。つまりヴィクトル王子に手を貸すのは、我が国の利益にもなると・・・アピールしているつもりか?」

ぶわっと陛下から、覇王が纏うような気迫が放たれる。
ビリビリと肌に感じる・・・これは、畏怖?
でも、私は負けずに足を踏ん張って立って、ギリッと眦を吊り上げて睨んでやる。
負けるもんか!
睨み合うこと暫し、額に、つうーっと汗が伝うほどの間。

「いい加減にしてください!こんな子供に大人げない。これ以上くだらないことに時間を費やすなら・・・私、アルベール・シルヴィーがお相手しますよ?」

パンパンと手を叩いて、場の雰囲気を変えた後、冷たい気迫を同じようにアンティーブ国の王族ふたりへと叩きつけた。

「おい!止めろ、アルベール!わかったわかった、ちゃんと話をするから、その冷気を抑えてくれ!」

堪らず、クリストフさんが叫ぶ。

このやりとりに巻き込まれたヴィクトル兄様は、冷や汗をかいて苦しそうに膝だけでなく上体まで床に付けていて、護衛のはずの獣人従者はゴロリと横になって倒れていた。
それを見たリュシアンが、「ちっ、情けねぇな」と吐き捨てた。

「じゃあ、落ち着いて話しましょう。できたらお茶とお菓子が戴けると嬉しいです」

広間で立ったまんまで交渉したくないです。

「ふうーっ。とんでもない王女だな・・・。よし、部屋を移して腹を割って話そうではないか。カミーユもビーストのことがある、付き合ってくれ」

「いいですけど、僕はヴィーさんの味方ですよ?愛する弟がいるので」

今まで柱の影にこっそり身を潜めていたのに、しれっと出てきてブレない態度のカミーユさん。
さてさて、どうなることやら。

「なあ、お嬢。お嬢は・・・どこまで協力するつもりなんだ?」

リュシアンが不安そうな顔をしている。

「?協力なんてしないわよ。だって・・・もう私に関係ないもの」

そう、トゥーロン王国の王座に誰が座ろうとも、私には関係の無いことなのだ。

ただ、ヴィクトル兄様がなぁ・・・、見捨てておけないつーか・・・放ってあけないつーか・・・。
困ったもんだよ。

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