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運命の鐘を鳴らしましょう

意外な理由でした

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「アンティーブ国の偽りの国王よ!お前は、その玉座に相応しいと思うのか?我が母から簒奪した、その玉座が!」

ほげええぇぇっ!
な、何を言い出したの?ベルナール様!
私と向かいに座るヴィクトル兄様は、あんぐりと口を開けた情けない顔で、ベルナール様の背中を見つめた。

「そう、きましたか」

楽しそうにアルベールが何かを呟いたけど、聞こえなかった。

それどころではないのよ!
えっ?ベルナール様がここまで来たのって、アンティーブ国の王位の正当性を訴えるためなの?
もしかして、自分の方が王様に相応しいとかこと思ってんの?
そんなの・・・トゥーロン王国のバカ王子ユベールと同じ属性じゃない!
私はペチンと額を叩いて、ぐったりと椅子に体を預けた。
これって・・・すんごい面倒な事になるんじゃないの?

「母・・・。貴殿の名前は?」

「ベルナール。ベルナール・リシュリューだ。アンティーブ国第一王女とトゥーロン王国リシュリュー前辺境伯第一子との間に生まれた」

ベルナールは立ち上がり、ビシッと玉座に座る国王陛下を不敬にも指差して、再びイタイ発言をかます。

「お前が座っているその玉座は、我が母のものだった。それを、お前とお前に味方する卑劣な奴等が、母をこの国から追い出し、亜人差別で悪名高いトゥーロン王国へ奴隷として売り飛ばした!」

「そ、それは、誤解だっ!」

クリストフさんは、掴んでいた剣の柄から手を離し、2、3歩ベルナール様へと歩み寄る。

「近寄るな!お前たちの奸計により、国を追われた母はあのような野蛮な地で命を落とすことになったのだ・・・。私のような半端者を産み落として・・・」

まるで自分が生まれたことが悪いことのように、グッと両拳を強く握りしめ、唇を噛みしめるベルナール様。

私は両腕を組んで考える。
リシュリュー前辺境伯夫人のオルタンス様の話では、ベルナール様のご両親は恋愛結婚でとても仲良しで、両親ともに生まれたベルナール様を溺愛されていたらしいんだけど?
リシュリュー辺境伯一族の中には、獣人の特徴を持って生まれたベルナール様に複雑な思いをする人もいたらしいけど、あのリシュリュー辺境伯の皆さんたちは、気になさらなかったでしょう。
特に辺境伯様は・・・。
レイモン様もお兄様大好き派だったし、ベルナール様が隠されて育てられたのは、ただ獣人とバレて亜人奴隷として王城に連れて行かれるのを避けるためだったと思う。
あのトゥーロン王国の非道貴族どもなら、リシュリュー辺境伯への切り札としてベルナール様を誘拐監禁ぐらいしそうだもん。
特に、ご両親の死と関係しているザンマルタン家が。

ベルナール様が、今は亡きご両親やリシュリュー辺境伯の皆さんの愛情を疑っているのは、何故だろう?
あの地にちょっとしか滞在してなかった私でさえ、察することができたのに。

私はベルナール様を守るように布陣している、たいして強そうにも見えない獣人たちをジロリと睨む。
もしかして、こいつらに何か吹き込まれたか?
それも、最近ではなく、ご両親を失って不安定な幼い心に。

「お待ちなさい、ベルナール。貴方がお姉様の御子なら、私は貴方の叔母です。どうか心を落ち着けて話を聞いてください!」

陛下の後ろに居た小柄な獅子族の女性が、玉座の左隣に進み出てきた。
ベルナール様が訝し気に彼女を見て、フンと鼻で笑った。
ベルナール様って性格が捻くれてんだろうなーとは思っていたが・・・こんな子供っぽい人だと思わなかった。
どうやら私が、彼を評価していたらしい。

「何の話を?当人がもう話せないことをいいことに、自分たちに都合のよい話をするだけだろう」

聞き耳持ちやしねぇー。
私だけでなく、アルベールもリュシアンもやや呆れ顔だし、セヴランなんかゴソゴソと後ろで何かを仕組んでいる。
ルネとリオネルは・・・隠れておやつ食べるの止めなさい!
チラッと見たヴィクトル兄様は、何も知らされていなかったのだろう、目を白黒させていて動揺しまくりだ。

「ふうーっ。とにかくお姉様がこの国を追い出されたというのはありえません!」

妹姫様の言葉に、陛下とクリストフさんは、うんうんと深く何度も頷く。

「そんなわけない!この国は長子が継ぐ。なのに母は王位を継ぐどころか、トゥーロン王国で亜人奴隷兵士として従軍していた!大国の王冠を約束された高貴な姫が、時には泥を被り柔肌に消えない傷を負い、長剣を振るい馬に乗り・・・。母はお前たちに嵌められてそのような境遇に落とされたのだ!」

ベルナール様の悲痛な訴えに、ついもらい泣きアーンド同情してしまいそうだが。
いささかアンティーブ国の王族の方々の表情が・・・なんつーか、困惑しているっていうか・・・、疲れているつーか。

「・・・そうですね。普通の姫ならそのような境遇に耐えられるわけがないでしょう。でも・・・姉は違うのです」

妹姫様が、言いにくそうに言葉に詰まる。

「はっ!私が母の顔も覚えていないと思って適当に言うな!母ほど美しく優しく・・・貴婦人らしい貴婦人はいない!」

お前、マザコンかよ?と、私が不謹慎な突っ込みを心の中でしていると、王族の3人はベルナール様の母親語りにパッカーンと口を開けた。
クリストフさんはいいけど、国王陛下と妹姫様が、その顔っていいの?
陛下なんて肩から赤いマントがズルッと落ちましたけど?

なんか・・・私たちって、いつまでここにいなきゃいけないの?
アンティーブ国の内輪モメなら、私たちは帰りたいんだけど・・・。

「あのう・・・いいですかー」

「ちょっと、お嬢」

リュシアンが、私の肩が掴んでガクガク揺さぶるが無視する。

「じゃあ、ベルナール様のお母様って、なんでアンティーブ国から出奔したんですか?」

ここが問題なんでしょ?
なのに、王族3人はパッカーンと開いてた口をキュッと閉じて、お互いを見合いながらなかなか喋ろうとしない。
おい!

「・・・クリストフ。話が進まない。ハッキリしろ」

私と同じくイライラしていたアルベールが冷たく言い放つ。

「私が・・・。私がお話します。お姉様は・・・この国に自分に相応しい者がいないと仰って・・・そのう、世界を周って探しに行くと出て行かれたのです」

「・・・?えーと。何を探しに?」

「お姉様は武勇に優れた方でした。騎士団の中で誰よりも強く。冒険者の中でも強く。・・・その、前からご自分の伴侶は自分より強い者しか認めないと豪語されていて・・・」

「つまり、姉貴は旦那を探しに旅に出たのだ!俺たちに無断で、勝手に!」

ダンッ!と足を鳴らして、クリストフさんが昔を思い出したのか、イラついた顔で教えてくれた。

・・・へ?
結婚相手を探しに、全国へ武者修行に出たの?
第一王位継承者のお姫様が?
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