みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお

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運命の鐘を鳴らしましょう

私はただのヴィーでした

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アルベールもリュシアンも項垂れながらも、あのときのことをポツポツと語りだした。

「第2王子の奴は剣を振り下ろしてヴィクトル殿下を斬り倒したけど、あいつの剣の技量はそんな大したものじゃない。柔らかい肉は切れても骨を断つことはできない」

う~ん?ユベールはヴィクトル兄様を剣で斬ったけど、傷は浅かったってこと?

「そうだ。それは第2王子の技量の問題とは別に、ヴィクトル殿下の咄嗟の判断力の賜物でもある」

「・・・具体的には?」

「つまりヴィクトル殿下は剣で斬られるときに、僅かに重心を後ろにズラして剣を避けている。しかも防刃付与がある服でも着込んでいたのか出血が少ないように見えた」

ふむ。
剣で深く斬られないように後ろに体を反らして刃を避け、しかも危機管理能力が高いのか防刃加工の服を身に付けていたので、致命傷にはならなかったと。

「でも、剣で斬られたことは確かだ。そのまま放っておけば出血多量で死んでしまう。なのに・・・俺たちは・・・」

「・・・助けることはしませんでした」

そりゃそうでしょ。
だって、あんたたちはあのとき、私を守ることを最優先に、私の目的である奴隷の魔法陣破壊作戦を実行しようとしていたんだし。
なのに、あのときヴィクトル兄様の救出に方向転換していたら、ユベールたちと全面対決でしょ?
下手したら、こっちもバッサリ斬られるじゃないの。
いや、まあ、私のチート能力がフル活用できれば楽勝だけど・・・私が対人攻撃できればねぇ・・・。

「それで、ずっと私に黙っていたの?」

アルベールとリュシアンは顔を見合わせた後、コクリと黙って頷いた。

・・・でもさぁ、リュシアンが黙っていたのは私の兄様を見殺しにしてしまったって罪悪感でしょ?
なんかアルベールは別の理由っぽいんだよなぁ・・・。
私は、パンッと両手を打ち鳴らした。

「もういいよ。私を守るためにした二者択一なんだから、私はふたりにお礼を言っても文句は言いません!」

ニカッとリュシアンに笑って見せると、リュシアンはホッとしたように肩の力を抜いた。

「でも、あの広間からよく逃げ出せたわね?怪我をしていたのは間違いないのに・・・」

しかも放っておけば死ぬ程の出血でしょ?

「たぶん・・・リュシアンに気づいた獣人が、同じ広間にいたのでは?」

「獣人が?あの場所に?奴隷なのに?」

「いや、王宮の衛兵や下働きの中にはイザックたちの仲間が潜り込んでいたはずだ」

いやいや、それだって王宮の中枢、第1王子の側使えに亜人が配置されるって無理でしょう?

「リシュリュー辺境伯と繋がっていたのは疑う余地もなく、となれば、ミゲルたちとも繋がっているでしょう。なら、持っていたはずですよ、貴方が作った魔道具を」

私が作った魔道具・・・て、あれか、けもミミとか隠しちゃう奴か!

「もともとは王族の亜人奴隷だったかもしれないが、その魔道具で人族のフリをしてヴィクトル殿下の側に控えていたんじゃねぇのか?だから、あの騒ぎのとき主人であるヴィクトル殿下を助け、王宮から脱出した」

「ええ。そのままミゲルの店か冒険者ギルド・・・。いや、ミゲルの店にでしょうね、逃げ込んだ」

「広間さえ出れば、イザックたちの仲間である衛兵たちの助けを借りて逃げられるかも・・・」

あの広間はザンマルタン家の兵たちに閉鎖されていたけど、私たちが魔法陣を壊した後、奴隷だった亜人たちが暴れて大変だったはずだから、そのどさくさに紛れれば。

「落ち着いた後、王子の身代わりを用意して敵を誤魔化したんでしょう。幸いに葬儀は行われないまま遺体は埋葬されてしまったでしょうから」

「・・・全てはユベールがバカだったから・・・。ってか、あいつは本当にバカだな」

私は第2王子のバカ面を思い出す。

「じゃあ、ヴィクトル殿下がアンティーブ国にいる理由ってなんでしょうかね?」

セヴランの単純な疑問。
・・・そうね。

「リシュリュー辺境伯の領地まで逃げたならそのまま潜伏して力を付けて、改めて王都へ攻め入ればいいのに・・・、なんでアンティーブ国?」

「たぶん、ミュールズ国の関与を確信したんでしょう。となれば、ミュールズ国ごと倒さなければ意味がない」

「ミュールズ国に対抗するために・・・同じ大国であるアンティーブ国へ助力を頼みにきたの?」

・・・アンティーブ国へ助力を頼みたいのはわかるけど・・・助けてくれないでしょう?
今までトゥーロン王国は亜人差別を堂々と行っていて、違法な奴隷に貶めていたのに・・・。
ここは獣人が治めるアンティーブ国だよ?
むしろ、ヴィクトル兄様がトゥーロン王国の王族ってバレたら殺されちゃうよ?

「ツテがあるんだろうよ」

「どこに?」

「ベルナール様は、お母様が獣人でしたよね」

・・・ベルナール様のお母さんがアンティーブ国出身だから?
そんな関係でアンティーブ国が動くと思ってんの?

「・・・その出身がどこかってことですよ。ベルナール様がアンティーブ国に来て面会しているのは、貴族や有力な商人などです」

「ベルナール様のお母さんって貴族出身とか?」

「その可能性はあります」

・・・うーんうーん、頭が痛くなってきた。

「・・・それで、ヴィー、どうするの?」

ひととおり出されたおやつを食べ終わったリオネルがポツリと放った言葉にあれ?と思う。
リオネル、ちゃんと話を聞いてたんだね、偉いぞ・・・じゃなくて、私がどうするって・・・どうする?

「え?私も何かするの?」

「え?そんな面倒なことに首を突っ込む気ですか?折角、トゥーロン王国から逃げてきて、やっと冒険者としての暮らしに慣れてきたのに?」

セヴランが、私の言葉にギョッと目を剥いて驚く。

「だよねぇ。あれ?私ってば、何かしなきゃダメなの?」

そうだよ。
もう、私はトゥーロン王国に戻るつもりはない。
国民に対して薄情だが、私は王族としての責務なんて、とっくに放棄しているのだ!

「ヴィーはヴィクトル殿下とともに、トゥーロン王国への助力をアンティーブ国に申し出るつもりはありますか?」

私は、ブルブルと頭を左右に振る。

「あー、お嬢はヴィクトル殿下を助けたいとか思うか?会って話したいとか?」

はて?
首を傾げて考えてみる。
アルベールと私は、実は私がトゥーロン王国の王族の血を引いていないことを知っている。
ヴィクトル兄様と呼んでいるが、他人なのだ。
人として助けてあげたい気持ちはあるが、それは自分が安全地帯に居てできることだ。
非情かもしれないが、巻き込まれるぐらいなら知らんぷりしていたい。

場の雰囲気が緊張しているので、お茶にもお菓子にも手を付けずにじっとしている、かわいい黒猫ルネ。
お菓子も沢山食べて、お茶も飲み干して、睡魔に襲われ始めた子虎な猛獣、リオネル。
糸目でうさんくさいお兄さん感が満載なのに、私を心配して耳も尻尾もしょんもりしている人の良い狐、セヴラン。
精悍で頼りになる兄貴肌で、ちょっとおバカな狼、リュシアン。
そして・・・私の保護者で麗しい容貌とは裏腹に人嫌いで皮肉屋なエルフ族、アルベール。
守りたい者は間違えない。

「私はヴィー。ただの冒険者だよ。王子様に知り合いはいない」

みんなを安心させるため、とびっきりの笑顔でそう言い切った。
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