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人助けをしましょう
ギルド会議をしました
しおりを挟むリュシアンとルネは朝早くリュイエの町から出て、隣領地へと続く道をやや機嫌の悪いカヌレに乗って行った。
私は約束の時間に間に合うように、朝食を食べゆっくりと身支度をしてから出かけた。
ブリュレもその場で蹄をカツカツ鳴らしてましたが・・・教育的指導をこっそりしたら大人しくなりましたよ?
ヴィーが不思議そうに見ていましたが、魔法でお尻を叩いたのでわからなかったでしょ?
のんびりアラスの町へと進んでいると、徐々に見えてくるのは例の森だ。
アラスの町の冒険者ギルドにゴブリンの巣の討伐を報告してから、後始末に何人かの冒険者と犠牲になった冒険者のパーティーが訪れたらしい。
そういえば、ヴィーが魔法で封印した洞窟の入口に体を埋め込み、守りの番人と化したゴーレムがいましたね?
あれは、どうしたんでしょうか?
その報告も是非聞いておきたいです。
ゴブリンの犠牲になった方たちの遺品はアラスの冒険者ギルドに一旦集められ、その後身元がわかった者の遺品は遺族に返し、不明な物はしかるべきところへと送られた。
リュイエの町でも、何人かの町民がアラスの町の冒険者ギルドへと訪れ、家族の遺品を胸に抱いて帰ってきたらしいです。
ヴィーの「町おこし」とやらの行動で、リュイエの町はこれからどんどん賑やかな町に変わっていくだろう。
たぶん以前よりも活気のある町になるはずだ。
商人と冒険者が集う町で廃れる所なんて、私は長いエルフ生でも知らない。
でも、その希望すらも家族を、愛しい人を失った町民には届かないのだろう。
ヴィーもそんな人たちがいることに、気が付いている。
あの、幼い体に前世の記憶が入り、妙に大人ぶった子供に進化した目の離せない私の家族。
普段は賢しいことをスラスラと宣って、大胆な行動に移すのに、悲しむ町民に手を差し出したくて、でもできないでいる、ただの無力な子供。
「もう少し、大人に頼ってもいいと思うんですけどね」
中身は大人だから~と、ツルペタな胸を偉そうに反らしてますが、私からしたらルネとリオネルとちっとも変わらないんですよ?
「もう少しリュシアンやセヴランに成長してもらわないと、ダメですかね?」
そう、ヴィーが私たちを頼らないのは、弱音を吐かないのは・・・一緒に行動しているあのふたりが頼りないから。
ふむ。
ダンジョンに入るまでの間に、もう少し鍛えることとしましょう。
アルベールはひとつ納得すると、軽くブリュレの腹を蹴りアラスの町に向かって疾走する。
「そうと決まったら、ギルド会議などさっさと終わらせましょう」
どうせ、旅の冒険者たる私には、難しい問題なんて関係ないですし?
アラスの町の冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋には、ギルドマスターのヴァネッサとリュイエの町のギルドマスターのヤン、たぶんアラスの町の領主代理とゴダール男爵領地と隣接する侯爵領の代表数名が固い表情で座っていた。
私はその重い空気にひょいと肩を竦めると、空いている席に座る。
「ようやく揃ったね」
ヴァネッサが私を一瞥した後、机の上にバサッと書類を広げた。
「リュイエの町で発見された違法魔道具の鎧とビーストについて・・・、話し合おうじゃないか」
その後、それぞれがそれぞれの立場から喧々囂々とやり合うのを右から左に聞き流して、私はここアラスの町と王都の冒険者ギルドからの調査結果に隅から隅まで目を通す。
ナタンたちの仲間に紛れ込んだ魔導士の男。
その男がナタンに与えた分銅鎖を操る鎧と、獣人の特徴がありながら種族不明の男、ビーストの調査は、アラスの町にいる冒険者ギルドでは調べきることができず、証拠品として王都に送られた。
そして、王都の冒険者ギルドでも持て余したそれらは、王宮へと送られ、王立騎士団と魔法兵団のトップを巻き込み調査された。
ここに記されている内容は、末端の冒険者ギルドに教えてもいい些末な事柄ばかりだと思うけれど、見る人が見れば何かの糸口は見つけられるわけで・・・。
わかっても発言しませんよ?
そんな無駄なことを言って、王都からの使者でもある侯爵領の人間に目を付けられたくはないですし?
でも必要な情報は仕入れたいのです。
私たち・・・逃亡者ですしね。
「・・・なんだい、そんな紙きれを真剣に見て。何か、わかったのかい?」
「いいえ。何度読み返してもわかりません。魔道具は製作者不明ですし。帝国の癖はあっても使われている魔法陣の解析を断念したと書かれています。古代語ならエルフの私がお役に立てるかもと思いましたが・・・」
「すでに王立魔法兵団所属のエルフ族の者に確認させました。解読不能・・・だそうです」
そう重々しく告げるのは、侯爵領の代理人だ。
「そうですか・・・。ビーストの方も解析不明で、帝国の開発したビーストだと断定はできない・・・ですか」
「断定するべきではないとの見解です。帝国と事を構える訳にはいきませんし・・・今の帝国の状態だとどこに抗議すればいいのか・・・」
ふむ、こちらは本心のようですね。
「そうだね。わざわざ藪を突く必要はないさね」
ヴァネッサはガシガシと頭を掻いて、疲れた表情を見せる。
「とにかく、リュイエの町にその問題の魔導士はいなかったし、被害のあった我らが匿う理由はない。あとはナタンの証言からそいつを手配して追いかけてるなり捕まえるなりしてくれ」
うんざりとした顔でヤンが、侯爵領の代理人に言うが、そんな態度だとあとで王都のギルドからお小言もらうぞ?
「私たちアラスの町も協力するのは吝かではないが、そんな怪しい男を匿ってはいない。しかるべき手順で手配をかけるのがいいだろう」
アラスの町の領主代理がまとめて、この会議という名前の探り合いは終わった。
たいした収穫はなかったですね。
早くリュイエの町に帰って、頼りない大人のふたりを鍛えるメニューでも考えましょうか。
私は王都からの使者に捕まる前に、ブリュレに乗ってアラスの町を出てリュイエの町へ向かいました。
王都の奴等と話しても良いことなんてひともないですし、面倒なだけですから。
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