上 下
74 / 226
人助けをしましょう

ギルド会議をしました

しおりを挟む

リュシアンとルネは朝早くリュイエの町から出て、隣領地へと続く道をやや機嫌の悪いカヌレに乗って行った。

私は約束の時間に間に合うように、朝食を食べゆっくりと身支度をしてから出かけた。
ブリュレもその場で蹄をカツカツ鳴らしてましたが・・・教育的指導をこっそりしたら大人しくなりましたよ?
ヴィーが不思議そうに見ていましたが、魔法でお尻を叩いたのでわからなかったでしょ?

のんびりアラスの町へと進んでいると、徐々に見えてくるのは例の森だ。
アラスの町の冒険者ギルドにゴブリンの巣の討伐を報告してから、後始末に何人かの冒険者と犠牲になった冒険者のパーティーが訪れたらしい。

そういえば、ヴィーが魔法で封印した洞窟の入口に体を埋め込み、守りの番人と化したゴーレムがいましたね?
あれは、どうしたんでしょうか?
その報告も是非聞いておきたいです。

ゴブリンの犠牲になった方たちの遺品はアラスの冒険者ギルドに一旦集められ、その後身元がわかった者の遺品は遺族に返し、不明な物はしかるべきところへと送られた。
リュイエの町でも、何人かの町民がアラスの町の冒険者ギルドへと訪れ、家族の遺品を胸に抱いて帰ってきたらしいです。

ヴィーの「町おこし」とやらの行動で、リュイエの町はこれからどんどん賑やかな町に変わっていくだろう。
たぶん以前よりも活気のある町になるはずだ。
商人と冒険者が集う町で廃れる所なんて、私は長いエルフ生でも知らない。
でも、その希望すらも家族を、愛しい人を失った町民には届かないのだろう。
ヴィーもそんな人たちがいることに、気が付いている。

あの、幼い体に前世の記憶が入り、妙に大人ぶった子供に進化した目の離せない私の家族。
普段は賢しいことをスラスラと宣って、大胆な行動に移すのに、悲しむ町民に手を差し出したくて、でもできないでいる、ただの無力な子供。

「もう少し、大人に頼ってもいいと思うんですけどね」

中身は大人だから~と、ツルペタな胸を偉そうに反らしてますが、私からしたらルネとリオネルとちっとも変わらないんですよ?

「もう少しリュシアンやセヴランに成長してもらわないと、ダメですかね?」

そう、ヴィーが私たちを頼らないのは、弱音を吐かないのは・・・一緒に行動しているあのふたりが頼りないから。

ふむ。
ダンジョンに入るまでの間に、もう少し鍛えることとしましょう。

アルベールはひとつ納得すると、軽くブリュレの腹を蹴りアラスの町に向かって疾走する。

「そうと決まったら、ギルド会議などさっさと終わらせましょう」

どうせ、旅の冒険者たる私には、難しい問題なんて関係ないですし?









アラスの町の冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋には、ギルドマスターのヴァネッサとリュイエの町のギルドマスターのヤン、たぶんアラスの町の領主代理とゴダール男爵領地と隣接する侯爵領の代表数名が固い表情で座っていた。
私はその重い空気にひょいと肩を竦めると、空いている席に座る。

「ようやく揃ったね」

ヴァネッサが私を一瞥した後、机の上にバサッと書類を広げた。

「リュイエの町で発見された違法魔道具の鎧とビーストについて・・・、話し合おうじゃないか」

その後、それぞれがそれぞれの立場から喧々囂々とやり合うのを右から左に聞き流して、私はここアラスの町と王都の冒険者ギルドからの調査結果に隅から隅まで目を通す。

ナタンたちの仲間に紛れ込んだ魔導士の男。
その男がナタンに与えた分銅鎖を操る鎧と、獣人の特徴がありながら種族不明の男、ビーストの調査は、アラスの町にいる冒険者ギルドでは調べきることができず、証拠品として王都に送られた。
そして、王都の冒険者ギルドでも持て余したそれらは、王宮へと送られ、王立騎士団と魔法兵団のトップを巻き込み調査された。

ここに記されている内容は、末端の冒険者ギルドに教えてもいい些末な事柄ばかりだと思うけれど、見る人が見れば何かの糸口は見つけられるわけで・・・。
わかっても発言しませんよ?
そんな無駄なことを言って、王都からの使者でもある侯爵領の人間に目を付けられたくはないですし?
でも必要な情報は仕入れたいのです。
私たち・・・逃亡者ですしね。

「・・・なんだい、そんな紙きれを真剣に見て。何か、わかったのかい?」

「いいえ。何度読み返してもわかりません。魔道具は製作者不明ですし。帝国の癖はあっても使われている魔法陣の解析を断念したと書かれています。古代語ならエルフの私がお役に立てるかもと思いましたが・・・」

「すでに王立魔法兵団所属のエルフ族の者に確認させました。解読不能・・・だそうです」

そう重々しく告げるのは、侯爵領の代理人だ。

「そうですか・・・。ビーストの方も解析不明で、帝国の開発したビーストだと断定はできない・・・ですか」

「断定するべきではないとの見解です。帝国と事を構える訳にはいきませんし・・・今の帝国の状態だとどこに抗議すればいいのか・・・」

ふむ、こちらは本心のようですね。

「そうだね。わざわざ藪を突く必要はないさね」

ヴァネッサはガシガシと頭を掻いて、疲れた表情を見せる。

「とにかく、リュイエの町にその問題の魔導士はいなかったし、被害のあった我らが匿う理由はない。あとはナタンの証言からそいつを手配して追いかけてるなり捕まえるなりしてくれ」

うんざりとした顔でヤンが、侯爵領の代理人に言うが、そんな態度だとあとで王都のギルドからお小言もらうぞ?

「私たちアラスの町も協力するのは吝かではないが、そんな怪しい男を匿ってはいない。しかるべき手順で手配をかけるのがいいだろう」

アラスの町の領主代理がまとめて、この会議という名前の探り合いは終わった。

たいした収穫はなかったですね。
早くリュイエの町に帰って、頼りない大人のふたりを鍛えるメニューでも考えましょうか。

私は王都からの使者に捕まる前に、ブリュレに乗ってアラスの町を出てリュイエの町へ向かいました。
王都の奴等と話しても良いことなんてひともないですし、面倒なだけですから。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。