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人助けをしましょう

隣人に怒られていました

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つまり・・・隣領地の侯爵様から遠回しにお互いの冒険者ギルドを通じてクレームがきた、と。

「アラスの町からこちらまでの道は元に戻り、駆け出しの冒険者パーティーでも安全に行き来ができるようになったんだが・・・。一度たった悪評は消えないというか・・・」

ヤンさんが困ったように後ろ頭を掻いて、はははと乾いた笑いをする。
アラスの町からここリュイエの町に主に流れてくるのは、冒険者たちと商人たち。

冒険者にはアラスの町で稼いでちょっとゆっくりしたい中堅クラスの冒険者たちと、駆け出しで自分たちだけでは旅ができない弱い冒険者。

商人はいくつもの荷馬車を連なって旅する大きな規模の商人ではなく、一攫千金を夢見る行商人や家族で細々営む商人が多い。

なんで裕福でそこそこ稼ぎになる魔獣が出る隣の侯爵領地ではなく、ゴダール男爵領地に来るかと言えば・・・。

「そりゃ、道中安全に旅ができるからだろ?アラスの町から侯爵領地までは乗合馬車で行くなら馬車賃がかなりかかる。商人なら荷馬車を魔獣や盗賊から守るための護衛を雇う金がかかる」

アラスの町からリュイエの町に移動するだけなら、お金があまりかからないってこと?

「そうですよ。しかも町の規模からして隣の領地とは違いますからね。宿屋の値段、物価、滞在するのにもお金がかかりますから」

ヤンさんに聞くと、宿屋は侯爵領地の最低ランクの値段がリュイエの町の最高ランクの宿屋ってローズさんのところだけど、そことほぼ同じ。
向こうは食事なしの素泊まりなのに、こちらはローズさんの美味しいご飯が朝夕付いてくる。

商人にとっては無事に商いする商品を目的地にまで運ぶことが大事だが、途中での商いも疎かにできない。
ここリュイエの町では、行商人たちが臨時で商いができる貸店舗がある。
しかも賃料は激安だ。
ゴダール男爵様云く、「領民が安くて良い物を手にできれば、それでいい」とのこと。

なのに、侯爵領地での商いは制限が科され、しかも町の中心からかなり外れた治安の悪い場所に高い場所代を払って、やっと許される。
侯爵領地は栄えていて富んでいて、余所者をわざわざ重用しなくていいのだ。

「むしろ、素性が怪しい余所者に厳しい土地柄だな。侯爵様がよく治めていらっしゃるから、余所者が侯爵領地に根を下ろそうと考えたら、周りの者との貧富の差に空しくなるだろうよ」

そんなものなのか・・・。

「でも冒険者ギルドからのクレームって?」

「ああ。本当は侯爵様本人からお叱りがあってもいいぐらいだが、こちらは男爵のラウル様が行方不明だからな。若い男爵夫人や幼い子供に遠慮して、冒険者ギルドに寄こしたんだろうよ」

ほれっと渡された通信文を読む。

「なに、これ?」

アラスの町から来た冒険者が低ランク冒険者用の依頼を根こそぎ受けるので、孤児院やスラムの子供の稼ぎが減っている、とか。
行商人たちが場所代を払わずに町の真ん中の広場に勝手に店を出している、とか。
宿屋に泊まらないで、広場や路地裏にテントを張って野宿している旅人が増えて、ゴミが散乱し町の景観が悪くなった、とか。

「これって、ゴダール男爵の責任?」

「いんや。ゴダール男爵領地の領民が犯したことではないからな。そうは言ってもこちらの町に問題があって流れた旅人が迷惑行為を行っているから、早く男爵領地を立て直して元のようにしなさいって言われてんだ」

むうっ。
こちらに来ないで勝手にあっちに流れた奴らのことなんて、関係ないじゃない!

「そうは言ってもねぇ。このままゴダール男爵領地に人流が途絶えると、町が寂れるし。そうなるとますます旅人はこちらに寄らないし・・・」

ローズさんも困り顔だ。
宿屋だから、冒険者や商人などの旅人が来ないのは死活問題だもんね。

「冒険者ギルドだってそうだぞ。たいした魔獣は出ないがそれでも出るしな。放っておいたらまたゴブリンが溢れるし。町のお手伝いをする奴らもいなくなったら困る町民も出てくるし」

ギルド職員で代行するのも、そろそろ限界だ。

「なにより、収入が下がれば税収が下がる。それは国に納める税が納められなくなることを意味する。それって・・・男爵位の取り上げに繋がる」

「へ?」

「エミール様はまだ幼いからな」

そうですね。
まだ、赤ちゃんですもんね、ばぶー。

「私が貴族の娘だったらよかったんですけど・・・」

ブリジット様が悲しそうにそう呟く。
はて?

「ブリジット様はこのリュイエの町の牧場を営む家のお嬢さんでしょう?平民なんですよ。エミール君が成人するまで後見人となってもらう貴族が必要です。本来は奥様の実家が担うはずなんですが、平民では無理でしょう?」

「後見人がいないから、爵位を取り上げられるの?」

「それだけではありませんが、領地経営に行き詰まり、税を納められないとなると国王陛下に貴族としての義務を果たせないと判断されてもしょうがないと」

なんですって!
せっかく大変な思いまでして助けたエミール君が、そんな理不尽な目に合うなんて!
だって、赤ちゃんなんだから領地経営なんてできるわけないじゃない!
隣の領地の侯爵も文句言う前に、助けてくれればいいじゃないのよっ!

「いやぁ。侯爵領地にだって問題が無いわけじゃないんだぜ?孤児院やスラムのガキの生きていけるのは、冒険者ギルドで低ランク冒険者向けの依頼をこなして小銭を稼いでいるからだ。それがなければ、奴らガキ共は生きるために簡単に犯罪に手を出すだろう」

強い魔獣討伐に旨味を感じている冒険者たちは、町のお遣い程度の依頼には目を向けることはない。
今までは。

「じゃあ、その依頼を横取りしている今は・・・」

「難しいところだな。商人たちだってそうだ。人が集まる広場でそれなりの物を安い値段で売買する。そりゃ売れるだろう?でもな老舗の店の店主はどう思う?」

「・・・・・・」

「それなのに、奴らは広場や路地裏に野宿して金を町に落とさない。宿屋の連中だって面白くないだろう?そしてギスギスした状態が何かの拍子で大騒ぎになることもある」

「確かに」
こりゃ、お互いにまずいわね。
なんとか、冒険者たちや商人たちをこちらに呼び戻さないと。

でも・・・どうしたらいいの?
アラスの町とリュイエの町を結ぶ道は元の状態に戻ったのに、冒険者たちは戻って来ないのに?

「お嬢。・・・いいんじゃないか?」

リュシアンがポンと手を打って言ったのは。

「ほら、だよ。芋料理!」

はああぁぁ?


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