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人助けをしましょう

町の復興について話し合いました

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ゴダール男爵領都のリュイエの町の冒険者ギルドのギルドマスター、ヤンさんは、善は急げとばかりに私が用意した荷車に罪人となったナタンの仲間たちをポイポイと放り込んでしまった。

サブマスともうふたりギルド職員が牽引する馬車に乗り込み、冒険者らしき男が馭者席に座った。
リュシアンがカヌレとブリュレを馬車に繋いで、馭者席に座った冒険者にいくつかの注意事項を話している。

「んで、この特別仕様の荷車は幾らで譲ってくれるんだい?」

ヤンさんが上体を屈めて私に尋ねてくる。
私は首をコテンと傾げて。

「なんで私に聞くの?」

「お嬢ちゃんが作ったんだろう?」

そうですけど?
値段交渉するならアルベールにしてよ。
可憐な少女の私にそんなこと聞かれても困るわ。
私はアルベールの上着の裾を引っ張り、こちらに注意を向ける。

「ねぇ、アルベール。この荷車の値段どうする?」

アルベールはひょいと片眉を上げて、面白そうにヤンさんの顔を見る。

「そうですねぇ。実際、かなりの冒険者への依頼料が浮くはずですからねぇ」

ふふふと嬉しそうに笑ってヤンさんにじりじりと迫っていくアルベール。
その荷車は材料費ぐらいしかかかってないけど、高く売ってください。
あと、ガストンさんたちへの支払い分もお願いします。

「あぁん?こっちの分はいいぞ。嬢ちゃんがもらっとけ。鉄の廃材で作ったし、なかなか面白いモンが作れたから、いい気分だぜ」

ガストンさんったら、男前ですな!

そうして、調べの終わった罪人を荷車に積み込み終わると、リュシアンの合図でカヌレとブリュレは爆走していった。
もう、土煙が凄くて、何も見えません・・・。

「ありゃ、今日中に往復して帰ってくるかもな・・・」

「あははは。まっさかー」

「いや、お遣いを無事に終えたらお嬢の作るお菓子を褒美にくれてやるって言ったから・・・」

ああ・・・あの子たち、お菓子大好物だもんねぇ。








それから、数日後。
アラスの町の冒険者ギルドへナタンとナタンの仲間たちを全員護送することができ、リュイエの町に穏やかな日常が・・・。

「戻ってこないんだ・・・」

何が?
そして、なんで?

私とアルベールとリュシアンの3人はゴダール男爵本邸のサロンにいて、これまたいつの日かの再現か、ブリジット様とローズさんとガストンさん。
そして、ギルドマスターのヤンさんにギルド職員らしき人と冒険者の人が集まっているのです。
セヴランとルネとリオネルはエミール君と一緒にお庭で遊んでいます。

「困りましたね・・・」

ブリジット様も頬に手をあてて、ほうっと深く息を吐きました。
ローズさんもガストンさんも、やや暗い顔で腕を組んで黙っている。

「どうしたらいいのか・・・」

いやいや、何?この暗くて重たい雰囲気?
そして、なんで私たちがここに呼ばれてんの?
アルベールはそんな雰囲気など気にした風でもなく、出された紅茶を飲みお茶菓子に手を伸ばす。

「おい、エルフ!お前、何を呑気に菓子なんて食ってる?」

「はて?おかしなことを聞きますね?出されたからお菓子を食べているのですよ?それに、貴方がたが何かを憂えているのかはわかりますけど、旅の冒険者たる私たちになんの関係が?」

「はっ!そうだよ。この人たちには関係なかったよ。ついこの場に呼んじまったけど」

ローズさんとガストンさんが、あ!みたいな顔でこちらを見る。

「こちらとしては、ナタンたち一味の捕縛とブリジット様やエミール君の保護。ギルドの解放と罪人の護送と随分とお役に立った気がするんですけどね。しかも、で!」

エルフのにっこり。
私は気まずい気持ちで、ズズッと紅茶を啜る。
荷車代でそこそこの金銭はせしめたんですけど・・・。
リュシアンも居心地悪そうにソファに座ったお尻をもぞもぞさせる。

「このうえ、さらに厄介事を持ち掛けられるとは思いませんでしたよ?。そろそろ別の町へ移動しようと思っていたのに。ねぇ?」

え?そんな話してないよ?
でもこうなったアルベールには逆らえないので、曖昧に笑ってみせた私とリュシアン。

「そんな冷たいこと言うなよ。ギルド運営や領地の後始末はアラスのヴァネッサ姉さんが幾人か人を寄こしてくれたから、なんとかなっているけど、寂れた町を復興させるのは俺たちの仕事なんだよー」

「貴方たちのでしょ?私になんの関係が?」

キラリーンと光るアルベールの切れ長の瞳。

「まあまあ。アルベールも話だけでも聞こうよ。そもそも町の復興ってなに?ナタンたちが壊した物は徐々に直されていると思うけど?」

「まあな。でも・・・それだけじゃ、脚が遠のいた冒険者と商人は戻って来ないんだよぅ」

ヤンさんの情けない言葉に、ローズさんたちがうんうんと頷いている。
冒険者と商人が来ないと・・・問題なの?


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