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人助けをしましょう

大きくなりました

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林を抜けてやや開けた場所に出ると、そこには傷ついて体のあちこちから出血する黒猫と、禍々しい気を纏い斧を掲げて立つ見たことのない獣人がいた。

「ガルルル!」

考えるより先に、手が足が動いた。
ダッとその場から駆け出し高く飛び上がり、敵の獣人の斧を持つ腕に自前の幼い爪を突き立てた。

「ウーッ、グアアアアッ!」

ずんぐりとした体型の敵は、その短い腕を滅茶苦茶に振り回し、まだ小さな体をポーンと振り払う。
そのまま投げ出され受け身を取ったが、かなりの衝撃を体に受け次の攻撃に移れない。

自分が守るべき家族に視線を向けると、青白い顔で肩で息をして、でもキュッと上がった眦で敵を睨んでいる。

腰に付けた魔法鞄から、自分の武器を取り出す。
まだ自分の爪では、あの敵に深手を負わせることはできない。
さきほどの攻撃もうっすらと爪痕を残しただけで、奴はぺろりと舌で舐めて痛みすらも感じてないようだった。

カチャンと金属の高い音をさせ、両手に鉄爪を装着する。
素早さでは仔虎姿の方が早いが、あの体は軽すぎる。
・・・攻撃には体重を乗せて重くしないと、皮膚を裂き肉を抉ることはできない。

ギラッと子供とは思えない目付きで敵を見据え、さりげなくルネの前に出て彼女を庇う。
・・・ここからは、自分がる!








「なんで?」

私とセヴランは一瞬、口を開けてポカーンとしてしまった。
いや、状況はなかなかにハードな展開なんだけど、目に映るものが信じられないっていうか・・・、なんでこうなったの?
林の中に入って走ること少し、ようやくルネたちのいる所まで来たと思ったんだけど・・・。

「ヴィーさん。とにかく私はルネを保護します!あの子、あなたの魔道具を付けてません!」

「わ、わかった」

確かに、私の作った防御の魔道具を付けていたなら怪我をするわけがない。
なのに、ルネは全身に細かい傷を負っているようであちこちから出血をしていて、顔も血の気が引いて青白かった。
戦闘服だ!と喜んで着ていた黒ずくめの装束はボロボロだし・・・。

セヴランは鞭を片手に、敵である獣人を警戒しながらルネの元に。
ルネもセヴランの腕に抱かれて安心したのか、ふっと気を失ってしまったようだ。
セヴランと一緒にいれば、彼の付けている魔道具がふたりを守ってくれるだろう。

「さて・・・、やっぱり、この虎ってリオネルよね?」

私の目の前には、白虎が四肢を赤く血で染めて、敵の獣人に襲いかかっては振り払われているのだけど。

「なんでリオネルが成体の虎になってんの?」

そうなのだ。
リオネルは虎の姿に、いわゆる獣体に変化できる能力がある。
流石、希少種の白虎族で王が持つスキルと言われる「カリスマ」スキルを持っているだけはある、である。

でも、虎の姿になっても仔虎のはず。
うーんと首を捻って考えてみるがわからないものはわからん!

まずは、リオネルの戦いに助力をせねば!
私はピンと指を弾いて周りの木立の枝を動かす。

どうもあの獣人は体が固いようだ。
リオネルの爪攻撃・・・自前の爪で攻撃しているが、全く効いてない。
しかも、リオネルに持たしていた鉄爪の武器が粉々になって辺りに散らばっているところを見ると、奴には武器さえも全然効かなかったとわかる。
ルネにも幾つか武器を渡していたが、どうやらそちらも役に立たなかったみたいだ。

シュルシュルルルと周りの木の枝が幾本もしなりながら、敵の四肢と首を拘束していく。
まず、あの太い腕や足でリオネルが攻撃されるのを防がないとね。
ついでに、大きくて物騒な斧を取り上げて、ポイと遠くへ放り投げておく。
ズドン!とセヴランの近くに突き刺さった斧の刃に、セヴランのか細い悲鳴が聞こえた。
あ、ごめん。

「グルルルル」

あ、リオネルからも「余計なことすんなっ」て威嚇が・・・・

「しょうがないでしょ!あんたそんな傷だらけで、相手に全然攻撃が効いてないじゃない。とりあえず息を整えなさいっ!」

私が怒鳴ると、耳と尻尾がしょんもりと下がる。
相手に自分の攻撃が効いてないのは自覚があったみたいね。

「闇雲に爪を立てればいいわけじゃないのよ。相手に打撃が無効なら作戦を考えなさい!自分ひとりで戦ってるなら好きにしてもいいけど、あんた、守るために戦ってんでしょ?」

リオネルにゆっくりと歩いて近づき、ポンポンと大きくなった背中を優しく叩いてやる。

「ガル・・・」

しょぼんと頭を下げて落ち込むリオネル。
しかし・・・。

「なんで、大きくなってんの?」

「ガルルル」

私の問いに首を左右に振って答えるリオネルに、ええーっと動揺する。
つまり、自分じゃわからないけど何かがきっかけで急に成体の虎になったのか・・・、まあ、それって命の危険が迫ったからの緊急避難的な感じ?
リオネルの四肢の血の汚れはリオネル自身の傷からの出血だし、背中に触った感じ打撲がひどい。

「あれって、魔法は効くの?」

今は木の枝の拘束に大人しくしているけど、ウーウーと唸ってはいる。
喋れないのか?
見た目が愚鈍そうで、ついつい油断してしまいそうな風貌だわ。

「ガウ?」

こてんと首を傾げる大きな虎。
やべ、こんな時なのにもふりたくなる。

「あんたたち、アルベールにちゃんと魔法を習っておきなさいよ。いざとなったときに使えないと困るでしょ?特に、こういうときは」

パチンと指を鳴らし、セヴランを襲っていた敵のように氷漬けにする。
分厚い氷でカチンコチンです。
私は、リオネルから離れて氷の像となった敵をマジマジと見て観察。

「こいつ、何の獣人だろう?」

皮膚が固くて、額と鼻に角が生えていて、四肢が太く短い。

「・・・サイ?」

前世の記憶でよく似た動物がいたんだけど、この世界にサイっているのかな?

さて、こいつをどうしようか?
このまま氷を砕けばその身も砕けて死んでしまうだろう。
うーん、この場に放置しても大丈夫かな?
捕縛にきた別の人が被害に遭っても困るしな・・・でも、殺すのは躊躇うな・・・と呑気に考えていたら後ろの方でドスンと重たい物が倒れる音がした。
驚いて振り向く前に、セヴランの切羽詰まった声が・・・。

「リオネルーっ!」

あ、こっちも大変!
私はすぐに収納からポーションを取り出して、ジャボジャボとリオネルの体に注ぎまくるのだった。




ピシン!ピキピキ・・・。

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