みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお

文字の大きさ
上 下
53 / 226
人助けをしましょう

攻撃できませんでした

しおりを挟む
男爵邸の中でも比較的広くて調度品が豪華なこの部屋は、お貴族様たちが舞踏会でも開くような煌びやかな雰囲気とは真逆な、暴力と血と恐怖が満ちた闘技場と化していた。
そして、俺は敵の武器に攻めあぐねている。

敵の男は、中肉中背の平凡にも見える弱そうな男だった。
服と靴は粗末な物なのに、上半身を覆う銀色の鎧だけが立派で、そこに違和感を持った。

その鎧は・・・魔道具だったのだ。
相手の力量から楽勝と思い、部屋に入ると同時にダッシュで相手に迫り、大剣を両手で振り下ろした。
その剣先は、奴の鎧の背中から突如伸びた鉄の鎖に阻まれる。
ジャラジャラと幾本もの鎖が背中から伸びて、奴の体をぐるぐると巻くようにうねうねと生き物のように自ら動き、俺の攻撃を防御した。

カツーンと弾かれた剣先に後ろに重心がずれて、たたらを踏んだ俺の体に向かって、奴の背中から別の鎖がジャラジャラと鋭く伸びてきた。
咄嗟に体を捩じって除け、ステップを踏んで部屋の入口まで戻る。

油断した。
確かにこの部屋に来てあいつを見るまでは、ここに強い奴がいると分かっていたのに。

奴の足元には奴自身を守るように、鎖が幾重にも巻かれた状態であり、その他の鎖は奴の背後をうねうねと動きながら、俺を攻撃する隙を狙っている。
攻撃用の鎖は、体を貫けるようになのか鋭い錘が付いている分銅鎖だった。

今度は用心して一歩一歩ゆっくり近づくと、ヒュン!と一本の鎖が伸びてくる。
カキーン!と大剣の先で薙ぎ払う。
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
絶え間なく襲ってくる分銅鎖をひとつずつ大剣で振り払う。
徐々に歩くスピードを上げ、大剣を八の字に描くように振り回しながら、男の頭を目掛けて剣を大きく振りかぶる。

ガッキーン!

「ちっ!」

剣を蛇のような鎖で弾かれたあと、素早くその場を離れる。

「俺が離れたら、守りの鎖は緩まるのか・・・」

男の後ろには、震える体を小さく縮めたおっさんがいたのが確認できた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔をした弱そうなおっさんが、首謀者のナタン・ゴダールだろうか?
貴族様のようなヒラヒラフリフリの服を着ていたのが、滑稽だと思った。

「ふうーっ」

あの鎖男は、ちょっと厄介だな。
大剣の間合いより分銅鎖の間合いの方が有利だし、攻撃してもあの鎖を体にぎっちりとミイラのように巻かれたら手も足もでない。

チラリと手に握った剣を見る。
・・・冒険者時代の愛剣だったら、こんな鎖ぐらいは斬れたのだ。
奴の使っている分銅鎖は、ただの鉄の鎖だ。
俺の愛剣だったら、スパッと簡単に切り離し鎖をバラバラにすることができたのに。
この剣じゃ、鉄も満足に斬れねぇし、なんだったらこの攻撃数回で刃が毀れてやがる。

「うーん、俺と相性が悪いな」

ちょっと困ってリュシアンは、頭をボリボリと掻いた。
分銅鎖の攻撃を躱しきれなくても、お嬢の造った防御の魔道具で防ぐことができたから、奴に近づいて剣を振るうことは簡単にできるのだが、あの鎖の鎧を斬ることができない。

「詰んだか?」

あの男を倒さないと、ナタンを捕らえて拘束することができない。
考えている間にもヒュン!ヒュン!と分銅鎖は飛んでくる。
たまに剣でカツンと弾き、放っておいてもヴィーの魔道具が守ってくれる。
リュシアンも男もお互いに攻めあぐねているのだ。

「・・・何をしているんですか?」

リュシアンの背後にいつのまにか、駆けつけてきたアルベールが立っていた。

「あ!アルベール、いいところに。なぁ、あいつを魔法で倒してくれないか?」

リュシアンは、満面の笑顔でアルベールにムチャブリをした。






男爵邸の離れの邸の大階段の半ばで、セヴランは恐怖に腰が抜けてその場に座り込んでいた。

「・・・ははは」

どうしよう。
ガラの悪い男が剣を持って、めちゃくちゃいい笑顔で自分をロックオンしている。

「おうっ、兄ちゃん。ここに何しに来たんだ?・・・もしかして俺たちの邪魔をしにきたのか?」

邪魔をしにきたどころか、捕らえにきたのです・・・なんて言えるわけがない。
ただ、首を横に振ってすうーっと目を反らした。
男は、ゆっくりと近づいてくる。

「兄ちゃん。ここは大事な金蔓がいるんだ。無断で入ったらダメだぜ。・・・うっかり、殺しちゃうだろう?」

「ひっ。ひいいいいぃぃぃ」

ズリズリと立たない腰で這って、階段の手摺に両腕で抱き着いて悲鳴を上げる。
そのセヴランの悲鳴に驚いたのか、エリク君がセヴランの所まで戻ってきてしまった。

「どうしたの・・・。あっ!あいつ、ナタンの仲間だ!」

「んだ?クソガキ、ぶっ殺すぞ」

あっという間に階段を駆け上がってきた男は、ぶっとい腕でエリク君の首を絞めて小さな体をぶ~んと持ち上げてしまう。

「あ・・ああ、エ、エリク君・・・」

「ほお、いい玩具が手に入ったなぁ。おい、兄ちゃん。仲間がいるならすぐにこの邸から出て行くように言いなっ!いや、この町から出て行けや!じゃないと、このガキがどうなるか、わかるだろう?」

・・・万事休すです。
誰か・・・助けてください。

セヴランは絶望の色を顔に浮かべ、無頼漢の顔を見上げた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。