上 下
50 / 226
人助けをしましょう

突入しました

しおりを挟む
「ギ・・・ギルマス?一体、そのゴーレムみたいなふざけた人形は、なんなんですか?」

冒険者ギルドの地下にある隠し部屋に、天井から侵入したシルヴィーのゴーレムたちは、若い男の失礼な物言いに鋭く顔を向けて圧をかける。

「うっ・・・!」

「せっかく、助けにきてくれたこの子たちに、失礼なことを言ったお前が悪い。とうとう、待っていた外からの連絡だ。ギルドの仲間ではないが、ガストンのサインもあるから信用して大丈夫だろう」

ぴらっと読んでいた手紙を、ゴーレムに凄まれて顔色を悪くした、まだ若いヒラ職員に渡す。

「ええ・・・町の者がどうにかできる相手ですか?・・・て、Aランク冒険者がひとりじゃないですか?」

ぎゅむと眉間にシワを寄せて、難しい顔をするヒラ職員。

「・・・これ、本当ですか?」

後ろからこっそり手紙を盗み読んでいたサブマスが、ギルマスに確認をとる。

「ああ。確かにAランク冒険者ひとりで状況を変えることはできないかもしれないが・・・。エルフのアルベールなら」

「このゴーレムが証明してますが、我々がこの部屋から脱出できれば、ナタンたちを捕らえることも可能です。いささか乱暴な手段を取りますが」

ギルマスは、ニヤリと口元を歪めて楽しそうに言う。

「あぁん?構うものか。ギルドに対しての攻撃と判断して、迎撃するだけだ。それに・・・ナタンは男爵位を継ぐ立場じゃない。正統な跡継ぎがいるからな!」

ギルマスは、一緒に捕らわれた職員と一部の冒険者たちの顔をひとりひとり見つめ、脱出のための下準備に入る。
ヒラ職員はチラリと上、天井を見上げた。

「ふぅーっ、やっとですね・・・」

ヴィーたちは冒険者ギルドに正面と裏手から突入しナタンの仲間たちを攪乱し、その間に隠し部屋の天井からギルマスたちを脱出させる作戦を立てた。
ゴーレムが天井ならすり抜けられたので、できるかどうか分からない施錠している魔道具の解除よりも、天井に穴を開けて梯子を垂らす単純な方法をとることにしたのだ。

隠し部屋には外の音は聞こえないし、外に音を伝える術もない。
ただ静かにそのときを待つだけ。

ぴょこん!ぴょこん!
大人しくしていた2体のゴーレムが小さく跳ねた。
ちょこちょこと柱を昇って、よじよじと天井を這っていく。
部屋にいる囚われ人は、じぃーっとその様子を見つめている。

ぱらり・・・。
天井から、ぱらぱらと土塊が落ち始めた。





「リュシアン!ルネ!」

セヴランは焦った。
そういえば、ヴィーさんに「セヴランはルネの護衛でゴダール男爵邸の方をよろしくね」と命じられたが、細かい作戦を知らされていなかった。
でも、これは違うと確信を持って言える。
なんてたって、ゴダール男爵邸は敵の本拠地だし、人質の男爵夫人が捕らわれている。
慎重に慎重を重ねて行動するべきだ。
なのに・・・。

「なんで正面突破していくんですかーっ!!」

リュシアンとルネは男爵邸の門を蹴り上げて破壊し、「うおおおおっ!」と雄叫びまで上げて一直線に走って行く。
侵入したのが、ナタンの仲間たちにバレバレである。
焦ったセヴランはふたりを追いかけようとして、隣の少年の存在に気づき、はっ、と走り出そうとした足を止める。

「ああああぁぁ。どうしたらいいんだ。こんな状況で、もし人質に何かあったら・・・。あああ」

「・・・大丈夫ですか?」

頭を抱え込んでしゃがみ込んだダメな大人に、エリク君は優しく声を掛ける。
正直、ナタンたちのいる所に突撃するつもりだったので、エリク君としてはリュシアンとルネの行動に不安はない。
むしろ、急に叫びだしてパニック状態になった、ちょっと弱そうな狐獣人のお兄さんが心配だった。

「えっと・・・。町の人も結構強い人がいるし大丈夫ですよ?おばさんたちは本邸に行かないでブリジット様がいる離れに向かいましたし・・・。僕たちもそっちに行きましょう?」

蹲ったセヴランの腕を掴んで立たせようとするエリク君。

「・・・そう、ですね。もう、私は知りません。あとはあの脳筋ふたりがゴダール男爵邸を制圧するのを信じるしかないです。私たちは離れに行って男爵夫人たちを保護したら、すぐに戻ってきましょう」

「・・・・・・。そ、そうですね」

あ、この人は戦わないんだ、と思ったエリク君でした。







ガストンさんたち鍛冶師仲間は裏手から、鍵がかかっていようがとにかく力技で突入するぜ!とばかりに、その小さな体には不釣り合いな大槌を振り上げて走って行った。
正面には元冒険者のおじさまが、剣や大剣を手に扉をぶち破って突入して行った。
ま、正面組にはリオネルが参加しているから、戦力的には問題はないでしょう。

くふふふ。
引退した冒険者のおじさまたちも、それなりに体調は万全だろうし、ね!

「ヴィー・・・。あなた、何かしましたね?」

うっ!秒でバレたし・・・!

「・・・いや、元冒険者のおじさまたちって、ほら、怪我して引退した人が多かったからぁ・・・。えー、ポーション飲ませました」

怖いからアルベールから顔を背けて、早口で言った。
だって、足か痛いとか腕の筋がちょっととか、それこそ歳で腰が痛いとかいうおじさまばっかりなんだもん。

ちょっと戦力に不安があったから、昨日ローズさんの店に集合してもらったときのお茶に・・・、私お手製の、効き目のいい奴を1~2滴垂らして・・・。

さっき、おじさまたちと合流したら、皆が口々に「体が軽い」とか「腕が上がるようになった」とか「走れるぜ!」とか言っていたので、ポーションの効力が抜群だなぁと感心していたのでした。

「ふぅ。しょうがない。場合が場合ですし。でも、もうダメですよ!今度からポーションを使うときは相談してください!」

「はぁ~い」

怒られた。
ま、怒られるかなぁ?と思っていたから、そんなに凹んではいない。

「アルベール。私たちも行きましょう。ギルマスたちを解放して一気にナタンたちを倒すわよ!」

えいえいおー!と片腕を突き上げると、足元のゴーレムもおー!と片腕を突き上げていた。
アルベールは縄梯子を担ぎ、剣を抜く。

「では、行きます」

「うん!」

ギルド内から乱闘の激しさが分かる破壊音と人の叫び声が響いている。
攪乱作戦は充分だと思うけど、念のため隠蔽魔法をかけてから、さぁ、行くぞ!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの
ファンタジー
記憶を失った少女は森に倒れていたところをを拾われ、特殊部隊の隊長ブレイクの娘になった。 スペックは高いけどポンコツ気味の幼女と、娘を溺愛するチートパパの話。 ※誤字報告、感想などありがとうございます! 書籍はレジーナブックス様より2021年12月1日に発売されました! 電子書籍も出ました。 文庫版が2024年7月5日に発売されました!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。