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人助けをしましょう
考えることが増えました
しおりを挟む私は、宿屋の女主人のローズさんに貰ったジュースをちびちび飲みながら、ふたりの話に耳を傾けている。
今はちょうど、無人の冒険者ギルドとギルマスの話に移っていた。
この男爵領にも冒険者ギルドはあるが、そんな難度の高い依頼があるわけでもなく、アラスの街で稼いだ冒険者が暇つぶしにガニーの森で小さな魔獣を狩って買取に出したり、町のお遣いをチビ冒険者たちが遊び半分にこなしてみたりしている。
なんとも長閑な冒険者ギルド運営だったらしい。
ギルド職員もほとんどが地元採用で顔見知り同士だ。
この町には商業ギルドがなく、その役目も冒険者ギルドが担っていた。
ただし、ギルドマスターとサブマスターはちゃんと冒険者ギルド本部から派遣されてきた職員で、たぶん元凄腕の冒険者のはず、らしい。
「だがなぁ。あいつがこの町に来て、そんな活躍するとこは見てないしなぁ。いつもこの店で飲んだくれてる親父だったしな・・・」
うーんと首を傾げて腕を組むガストンさん。
「そうよねぇ。サブマスだって事務仕事が得意で、よく小遣い稼ぎに役場の仕事やラウル坊の仕事を手伝ってたもの。腕が立つようには見えなかったわ」
ほうっと息を吐きながら、頬に手を添えるローズさん。
そこへ、私のために赤ちゃんの必需品を買いに行っていたエリク君が、両手いっぱいに荷物を持って帰ってきた。
「ふわあ。重たかったぁ。買ってきましたよ、オムツとか着替えとかミルクと・・・」
袋からあれこれと買ってきた物を出して、テーブルに並べていく。
「あ、ありがとう。これ・・・お金、です」
チャリと手の平に硬貨を乗せてローズさんに差し出すと、その手ごとぎゅっと大きな手で握られた。
「いいのよ。困ったときはお互いさまだもの。お父さんたちが戻ってくるまで、ここで待っていてもいいのよ?宿屋だけど、泊っている客もいないし」
「あ・・・えっと・・・」
どうしよう。
帰らないとアルベールたちが心配するし、でもここで帰るのも・・・怪しまれるかな?
オロオロと私がしていると、リオネルはグッグッとジュースを一気に飲み干し、ぴょんと椅子から飛び降りて私の手を取り、
「ごちそうさま。みんながまってる。かえる。じゃあね」
とにっこり笑って言い、ダッと駆け出した。
しっかり、私と繋いだ手の反対の手に買ってきてもらった袋を持って。
あれ?いつのまに、袋に買ってきた物を詰め直したの?
いやいや、それより、ちゃんとお礼言ってないのに・・・。
「おい!坊主、待ってって!」
ガストンさんが呼び止める声を無視して走り去る私たち。
そこへエリク君が気になる言葉を・・・。
「さっき冒険者ギルドに誰か人が居たみたいだったよ?」
えーっ?冒険者ギルドはどうなってんの?
ギルマスは?サブマスは?
ちょっと待って!もっと話をー!話を聞かせてーっ!
はあはあはあ、ぜえぜえぜえ。
はーっはーっ、ゴッホゴッホ・・・スーハー。
「し・・・しぬ・・・」
この子の全力疾走に付き合わされたら、死んでしまう。
途中、「身体強化」を使わなかったら・・・「返事がない。屍のようだ」状態になってたわよ!
でも、リオネルはきょとんとした可愛い顔で。
「え?ゆっくりはしったよ」
とか言いやがるのよ。
きーっ!腹が立つ!
私たちは来た道をぽてぽて歩いて戻っている。
荷物はリオネルが持ってくれている。
重たいから「無限収納」に入れようか?て聞いたのに、頭をプルプル振って「ぼくがもつ!」と言われたら、お姉ちゃんも無理は言えないわ。
「んー。もっと情報が欲しいなぁ」
「どんな?」
「そうね。ギルマスたちの情報。ナタンの味方なのかどこかに捕らわれているのか。それとブリジット様の実家はどこにあるのか。ラウル様の海難事故は本当に事故なのか?」
「調べてどうするんです?」
「そりゃ、ナタンたちを排除するのに、もし内通者がいてそいつらを見逃がしたら、またエミール君が危険な目に合うかもしれないし。ラウル様が事故じゃなくてどこかに捕らわれているなら助けなきゃ・・・て、あれ?」
私は誰と話しているのかな?
リオネルがこのゴダール男爵領地の事情なんて気にしているわけがない。
だとしたら・・・。
私はギギギと軋む音が立つような気分で後ろを向いた。
「・・・アルベール・・・」
そこには涼しい顔したエルフが立っていました。
「また、余計な事にまで頭を突っ込もうとしていますね?」
「なによ。エミール君を無事に帰すために、ナタンを排除するのは決定事項でしょ!」
ふんっと胸を張って言い切ると、瞬時にアルベールの指が私の柔らかい頬を摘まむ。
しかも両方を。
「ひぇいひぇぇぇい!」
「まったく。ナタンを排除するのはいいですが、ゴダール男爵領地の問題まで解決する気はないですよ?もしギルマスたちがナタンの仲間に捕らわれているなら、それはギルドの手落ちです。ラウル様が捕らわれていても故意に起こされた事故の犠牲になっていても、私たちには関係ないです」
「ひえい!」
酷い!と言ったつもりだったが、言葉にならなかった。
リオネルは頬が伸びている私の顔を可笑しいのか、クスクス笑っている。
おかしいな?私ってば美少女に転生したはずなのに!
「とにかく、大人しくしていてください!どこまでどうするのか、ちゃんとみんなと相談して決めてからです!ひとりで突進して行かないでくださいね!」
私は必死に頷いて、頬を解放することに成功した。
くっそう!アルベールの冷血感め!
私を守るためでも、そんなドライな対応だと、嫌われちゃうぞ!
私は頬をさすさすと摩って、みんなが待つ場所へと足を進める。
「帰ったら第1回作戦会議ね!」
「呑気ですね。ヴィーは」
「いいじゃない。ねえ、リオネル」
「うん」
さあ、悪い奴等をどうしてやろうかしら。
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