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人助けをしましょう

また会いました

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チラチラッと木々の間から門へと続く街道と、その門を守る衛兵らしき奴等を盗み見る。

「誰も通らないわね」

朝からしばらく街道を監視しているけど、誰も通らない。
そして。

「怪しい奴等が、衛兵気取って門を見張ってるしな」

そうね。
衛兵というよりゴロツキよね。
しかも外部からの侵入者を警戒しつつ、中からの脱出も許さない布陣はなんなのよっ。

「どうやって、中に入ろうかしら?」

正面突破できる実力はあるけど、そんな力技で果たして正解なのだろうか?
そんな危ないことを考えていた私は、グワシッと頭を大きな手で掴まれて、そのまま力を込められる。

「イタイ!イタイイタイイタイ!」

リュシアンの手を頭から剥がそうとワタワタするが、ちっとも力が弛まないっ!

「なんか絶対バカなことを考えただろう?勘弁してくれよお嬢。騒ぎにならないようにこっそり領都に入って、男爵夫人に接触しないといけないんだからなっ!」

私は痛みに涙目になって、懸命に頭を振って頷いた。
ふぅーっ、やっと手が離れた。
頭蓋が割れるわ!バカモンがっ!
腹いせにガシッとリュシアンの脛を蹴って、ササッとアルベールの後ろに隠れる。

「じゃれ合っていないで、移動しますよ。無駄かもしれませんがぐるっと領地の周りを回ってみましょう」

アルベールは魔獣馬バイコーンの手綱をリュシアンに投げ渡して、リオネルとルネを馬車に押し込んでしまう。
私も馬車に乗り込もうとして、馭者席で青白い顔をしているセヴランと目が合ってしまった。
セヴランの目が「怖いんです。代わってください」と訴えているが、親指を立ててサムズアップで誤魔化した。
馬車を牽くのは魔獣馬バトルホースだもんね。
それもティムしていない状態の・・・。
リュシアンがバイコーンに騎乗したままセヴランを慰めに行ったが、もう1頭の魔獣馬に恐怖MAX状態になった彼は、「怖いんですよっ!近寄らないでくださいよっ!」と絶叫していた。





ゴダール男爵。
歴史は浅く、現男爵は3代目になる。
初代の男爵は、ダンジョンから溢れた魔獣の討伐に貢献し、男爵位を賜ることになった元冒険者だ。
そして現男爵は、前男爵夫婦が事故死したため若くして男爵位を継ぐことになった、ラウル・ゴダール。
その彼も、半年前に海難事故に巻き込まれたとして消息不明になる。
残されたのは結婚したばかりの元平民の妻、ブリジット・ゴダール。
そこへ、前男爵の従兄弟と名乗り数多くのゴロツキ共を連れて乗り込んできたのが、ナタン・ゴダールだ。
ゴダール男爵領地は広くない、いやむしろ村よりやや大きい領都以外はゴブリンの巣があったガニーの森と隣の領地まで続く草原のみ。
これといった特産物もなく、アラスから他の主要地へ向かう商隊や冒険者たちが立ち寄ることで潤っている町だった。

「なのに、人の往来を止めたら経営が成り立たないんじゃないの?」

私は、腕を組んでうーんと唸る。

「そうですね。実際アラスの街からゴダール男爵領地を通って王都へ行くルートは廃れて、多少魔獣の危険性は上がるものの別の領地を通る人達が増えたそうです」

ゴダール男爵領地以外は、出没する魔獣がやや強いらしい。
当然、商隊の護衛をする冒険者のランクも上げないと無事に旅を続けることができない。
ランクが上げれば依頼料も高くなる。
商隊にとっては頭の痛い問題よね。
でも実際、ゴダール男爵領地を通ろうとして、例のゴロツキに痛めつけられた商隊や冒険者はかなりいるらしい。

「そのナタンなんとかの思惑が分からない。廃れた男爵領地を継いで何がしたいのか?」

「継げませんよ。男爵であるラウル氏の死亡は確認されていませんし、あの子がいますから」

私とアルベールはルネに抱っこされた赤子を見る。
ええ、鑑定たわよ。

名前 エミール・ゴダール
種族 人族
年齢 3ヶ月
性別 男
状態 やや衰弱

どうやら男爵夫人ブリジットさんは、旦那さんが行方不明になった3ヶ月後に世継ぎとなる男の子を出産した。
そして、ゴブリンの犠牲になった少女は、ナタン本人かその手先に脅されて、生まれたばかりのエミールを拐い逃げた。

「ブリジットさん、心配しているだろうね。この子のこと」

ゴブリンの巣に捕らわれてミルクも無かったろうに、助けた後にポーションを与えていたからか「やや衰弱」状態で留まっている。

「いつまでもポーションあげているのも・・・問題だよね?」

切実に母乳が欲しいわ。
ガタンっと馬車が大きく揺れて停まった。

「うん?とうとうセヴランが恐怖で精神焼き切れたかな?」

「かわいそうなことを言うんじゃありません」

そう窘めるけど、アルベールだって馭者役をセヴランと代わってあげないじゃん。
停まった馬車からぴょんと飛び降りて、タタタッと馭者席に走っていくと、セヴランが大きく目を見開いて一点を凝視していた。

「どうしたの?」

「あ・・・あれですよ!あれ!」

「お嬢。あれなんだ?」

リュシアンまで動揺した声出さないでよ。
セヴランの指の先を辿って視線を移すと、そこには・・・。

「なに、あれ?」

ゴブリンの巣の洞窟前で風と共に去って行った土人形が9体一列に並んで、私たちをお出迎えしていた。

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