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暴く
悪事を暴く初手
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ミレイユ様が患っている夢魔病を治癒する薬草として吸魔草が適している。
なぜなら夢魔病とは、既に退化してしまった人体に不必要な魔力が体を巡り内臓機能を停止させてしまう病だから。
吸魔草は、その名のとおり体内にある魔力を吸う効果が見込まれる。
そして、スムーズに集めた魔力を対外に放出させる効能の薬草と混ぜれば、体内の魔力からの影響を最小限に抑えることができる。
兄はこの薬の調合までは成功していた。
あとは、どうでもいいが味のバランスと吸魔草の栽培方法だ。
「まさか、夢魔病の薬の薬草を我が家の温室だけで栽培することはできないし」
物理的に薬草畑が足りない。
あれ? 前の時間のときはどうしていたのかしら?
まさか、あの温室だけで栽培していた?
いいえ、ジョルダン伯爵家がヴォルチエ国と交易をしているなら、母が作った温室に使われている魔道具と同様の物が用意できたはず。
つまり、第二王子の宮殿のどこかに同じ温室を造ったと考えられる。
この吸魔草の栽培に必要な養分は魔力だと想定して、兄は栽培環境を整えるため思考する。
ミレイユ様に提供する薬の分なら我が家の温室で賄えるけど、兄はきっと夢魔病に苦しんでいるすべての人に薬を与えようとする。
それは貴族だけでなく平民にも、孤児にも。
「でも、値段がねぇ」
私は兄が作った夢魔病の薬……ちょっと大きめな飴にしか見えないが、指でつつく。
結局、魔力を補うために魔獣の体内にあるという魔石を使うことにした。
この魔石を砕いて粉にして土に混ぜる。
あとは、一番効果的な配合を試作を重ねて導きだすのみ。
学園に戻った兄は、研究室では夢魔病の薬には一切手を付けないようにしているので、例の論文用の風邪薬の補助剤の試作を重ねている。
ちゃんと監視役の助手さんもいるから、兄も無謀のことはしないだろう。
オレリアの眼があるところで、夢魔病の薬など研究してほしくないわ。
「どう? ジョルダン伯爵家の隣の領地では僻地の村、その隣の領地では町の孤児院とそのシスターたち。ジョルダン伯爵家の領地では牢屋に入っていたならず者たちが、例の薬で死んでいると思うわ」
バサリとニヴェール子爵家の商会と取引している行商人たちの報告書を広げるアンリエッタ。
ジョルダン伯爵は自領でも被害が出ないと怪しまれると思ったのか、重罪確定の犯罪者に薬を飲ませたみたいだ。
「下位貴族といっても派閥に偏りはなかったの?」
「それはこちらで調べましたわ。第二王子と懇意にしている男爵、子爵家にも被害がありましたが……評判のよくない者たちでしたから、ご実家では安堵しているかもしれませんわね」
フルール様は眉を顰められ扇を広げた。
家族の情としてはあり得ないが、貴族であるならば下手したら一族郎党に及ぶ失態をするかもしれない者がいなくなるのは、胸を撫でおろすことかもしれない。
そして、ていよく使われた後に始末されたとも言える。
「第二王子……いいえ、オレリアの手足となって動いていたんでしょうね」
たぶん、その子息たちが他の子息たちに薬を勧め広めていった。
「そうね。顔も知らない者からの薬なんて口にしないわよ。一応貴族なんだから、毒や媚薬、睡眠薬ぐらいは気にしているでしょう」
アンリエッタも私の考えに賛同してくれた。
「ジョルダン伯爵家がヴォルチエ国と交易している薬草ですが……その薬草自体は違法として取り締まる毒草に当たらないのです。となれば、調合したあとの薬、その薬を作った者、その薬を作らせた者として辿るしかありません」
フルール様が悔しそうに唇を噛む。
「薬を手に入れるのはそのサロンに紛れこめばいいけど、薬を捌いている者も捕まえないとダメね」
「確実にジョルダン伯爵家とオレリアまで辿らなければ、また何かを仕掛けてくるわ」
前の時間で奴らの手の内がわかっている今回だけが、あの人たちの罪を暴く唯一の機会なのだ。
「ジョルダン伯爵家のことと薬を広めている者については我がデュノアイエ家とイレール様が動いています。貴方たちは無理をなさらないように」
フルール様に釘をさされ、私たちは深々と頭を下げた。
「でも、オレリアを捕まえるのにジョルダン伯爵家の悪事を暴くだけでいいのかしら」
私は心に残る不安を吐露する。
既にジョルダン伯爵家の養女となっているオレリアは、共に裁かれる可能性が高い。
彼女が関係していたという証拠が出れば、処罰されるのは間違いない。
「だとしても、薬を使って第二王子たちを焚きつけたことは証明できないのでは?」
私はもう、第二王子がオレリアを使って兄や私たちを陥れたとは思っていない。
彼女が、彼女こそが私たちの敵。
第二王子に王位簒奪という野望を抱かせ、王子が好意を抱いていたフルール様を毒殺させ、自分の兄の親友であるイレール様を苦しめるためにイレール様の最愛の妹の命さえ弄んだディオン殿下は、所詮あの女の操り人形だった。
それは、あの女と対峙した私だからわかる直感だ。
「アンリエッタ。オレリアの過去はわかった?」
「いいえ。孤児院に引き取られる前はわからないままだわ。ただし、この孤児院の近くに小さな港があるの。そこにはときおり外国から船が来るそうよ」
外国からの船?
なぜなら夢魔病とは、既に退化してしまった人体に不必要な魔力が体を巡り内臓機能を停止させてしまう病だから。
吸魔草は、その名のとおり体内にある魔力を吸う効果が見込まれる。
そして、スムーズに集めた魔力を対外に放出させる効能の薬草と混ぜれば、体内の魔力からの影響を最小限に抑えることができる。
兄はこの薬の調合までは成功していた。
あとは、どうでもいいが味のバランスと吸魔草の栽培方法だ。
「まさか、夢魔病の薬の薬草を我が家の温室だけで栽培することはできないし」
物理的に薬草畑が足りない。
あれ? 前の時間のときはどうしていたのかしら?
まさか、あの温室だけで栽培していた?
いいえ、ジョルダン伯爵家がヴォルチエ国と交易をしているなら、母が作った温室に使われている魔道具と同様の物が用意できたはず。
つまり、第二王子の宮殿のどこかに同じ温室を造ったと考えられる。
この吸魔草の栽培に必要な養分は魔力だと想定して、兄は栽培環境を整えるため思考する。
ミレイユ様に提供する薬の分なら我が家の温室で賄えるけど、兄はきっと夢魔病に苦しんでいるすべての人に薬を与えようとする。
それは貴族だけでなく平民にも、孤児にも。
「でも、値段がねぇ」
私は兄が作った夢魔病の薬……ちょっと大きめな飴にしか見えないが、指でつつく。
結局、魔力を補うために魔獣の体内にあるという魔石を使うことにした。
この魔石を砕いて粉にして土に混ぜる。
あとは、一番効果的な配合を試作を重ねて導きだすのみ。
学園に戻った兄は、研究室では夢魔病の薬には一切手を付けないようにしているので、例の論文用の風邪薬の補助剤の試作を重ねている。
ちゃんと監視役の助手さんもいるから、兄も無謀のことはしないだろう。
オレリアの眼があるところで、夢魔病の薬など研究してほしくないわ。
「どう? ジョルダン伯爵家の隣の領地では僻地の村、その隣の領地では町の孤児院とそのシスターたち。ジョルダン伯爵家の領地では牢屋に入っていたならず者たちが、例の薬で死んでいると思うわ」
バサリとニヴェール子爵家の商会と取引している行商人たちの報告書を広げるアンリエッタ。
ジョルダン伯爵は自領でも被害が出ないと怪しまれると思ったのか、重罪確定の犯罪者に薬を飲ませたみたいだ。
「下位貴族といっても派閥に偏りはなかったの?」
「それはこちらで調べましたわ。第二王子と懇意にしている男爵、子爵家にも被害がありましたが……評判のよくない者たちでしたから、ご実家では安堵しているかもしれませんわね」
フルール様は眉を顰められ扇を広げた。
家族の情としてはあり得ないが、貴族であるならば下手したら一族郎党に及ぶ失態をするかもしれない者がいなくなるのは、胸を撫でおろすことかもしれない。
そして、ていよく使われた後に始末されたとも言える。
「第二王子……いいえ、オレリアの手足となって動いていたんでしょうね」
たぶん、その子息たちが他の子息たちに薬を勧め広めていった。
「そうね。顔も知らない者からの薬なんて口にしないわよ。一応貴族なんだから、毒や媚薬、睡眠薬ぐらいは気にしているでしょう」
アンリエッタも私の考えに賛同してくれた。
「ジョルダン伯爵家がヴォルチエ国と交易している薬草ですが……その薬草自体は違法として取り締まる毒草に当たらないのです。となれば、調合したあとの薬、その薬を作った者、その薬を作らせた者として辿るしかありません」
フルール様が悔しそうに唇を噛む。
「薬を手に入れるのはそのサロンに紛れこめばいいけど、薬を捌いている者も捕まえないとダメね」
「確実にジョルダン伯爵家とオレリアまで辿らなければ、また何かを仕掛けてくるわ」
前の時間で奴らの手の内がわかっている今回だけが、あの人たちの罪を暴く唯一の機会なのだ。
「ジョルダン伯爵家のことと薬を広めている者については我がデュノアイエ家とイレール様が動いています。貴方たちは無理をなさらないように」
フルール様に釘をさされ、私たちは深々と頭を下げた。
「でも、オレリアを捕まえるのにジョルダン伯爵家の悪事を暴くだけでいいのかしら」
私は心に残る不安を吐露する。
既にジョルダン伯爵家の養女となっているオレリアは、共に裁かれる可能性が高い。
彼女が関係していたという証拠が出れば、処罰されるのは間違いない。
「だとしても、薬を使って第二王子たちを焚きつけたことは証明できないのでは?」
私はもう、第二王子がオレリアを使って兄や私たちを陥れたとは思っていない。
彼女が、彼女こそが私たちの敵。
第二王子に王位簒奪という野望を抱かせ、王子が好意を抱いていたフルール様を毒殺させ、自分の兄の親友であるイレール様を苦しめるためにイレール様の最愛の妹の命さえ弄んだディオン殿下は、所詮あの女の操り人形だった。
それは、あの女と対峙した私だからわかる直感だ。
「アンリエッタ。オレリアの過去はわかった?」
「いいえ。孤児院に引き取られる前はわからないままだわ。ただし、この孤児院の近くに小さな港があるの。そこにはときおり外国から船が来るそうよ」
外国からの船?
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