死に戻りの処方箋

沢野 りお

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暴く

魔力とは

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温室での作業が終わると兄はミレイユ様用の薬を作るため自室に籠るのだが、今日は私も付いていく。

兄が摘んだ花の蕾や花びら、葉や茎を乾燥させたりそれを粉々に潰したり、煮出して濾したりするのを眺めながら、頭の中を整理する。

つまり、下位貴族の爵位を得られない子息が集まるサロンにて広まった粗悪な薬は、酒よりも悪質で中毒性が強く身を滅ぼすものであるということは理解した。

でも、それを広めてどうするのかしら?
自分たちの思うように操れるならともかく、結果廃人になるなら、それは毒薬と変わらない。

下位貴族たちに広まり、そのあと第一王子の陣営に広まるその薬は解毒薬なんてなかったはず。
兄が作った悪魔の薬として劇薬に指定され、やがて所持することも作ることも禁止された。
作ったとされる兄も即処刑されたもの。

第二王子たち、あのオレリアが作った毒薬と考えるなら、目的は第一王子の力を削ぐため。
あとは、中毒性が強いことを利用して、薬を与えることを褒美に何かしらの利益を得ていたとか?

「今は実験中……かしら?」

「ん? 今は味の調整中だよ?」

「……お兄様。今は夢魔病の薬のことではありませんわ。しかも味の調整って、薬ができたみたいなことを……もしかして、できたのですか?」

座っていたソファーからガバリと身を起こして、兄の持つガラス製の容器を凝視する。
中にはユラユラと薄いビンク色の液体が揺れていた。

「ああ。正直夢魔病が魔力過多の状態によるものなら、その魔力を外に出せばいいと思ってね。ミレイユ嬢にあげた飴で症状が改善したのなら、あとはその飴の成分をどのくらいにすればいいのかって問題だけだ。ミレイユ嬢には申し訳ないが治験者としていろいろと試してもらう。その代わりせめて味ぐらいはね」

兄は私に見せるようにユラユラと容器を揺らす。
味……確かにアンリエッタも苦い薬は飲めなかったから、こだわるべきところだけど……。

「むしろ問題は吸魔草の栽培だよ。母上が造った温室では問題なく栽培できるけど、他の場所ではどうだろうか?」

「まさか、吸魔草なだけに魔力がないと育たないとは言いませんよね?」

私は冗談のつもりで口にした言葉だったが、兄はクワッと目を見開きツカツカと私に歩み寄ると両手で私の両手を握った。

「そう! そうだよ! どおりで王都では栽培に失敗したはずだ。魔力……そうか、吸魔草の養分は魔力だったのか……」

ブツブツと独り言を呟き自分の世界に入ってしまった兄の姿に、私はため息を吐いた。
兄がこうなってしまったら、もうダメだ。
何かしらの答えを見つけるまでは、籠りきりになるだろう。

私は兄の思考の邪魔にならないように、そっと兄の部屋から出て行った。













王都にはない素朴な焼き菓子を口に運び、ハーブティーとは名ばかりの雑草茶を楽しむ。

「健康には良さそうだけど、慣れないとこの味は微妙ね」

今回は一緒にアルナルディ家まで帰ってきたアンリエッタと午後のティータイムだ。
兄は部屋に籠りきりで昼食にも顔を出さなかった。

「それで、その粗悪な薬が出回っているのが、シャルロットは実験だと考えてるの?」

「ええ、そうよ。ジョルダン伯爵家が船で密輸したヴォルチエ国の薬草で作った薬を、下位貴族の子息が集まるサロンで密かに売買して、その効果を確かめていると思うの」

安価でバラ撒いた薬の効果、頻度による中毒性、廃人までの期間……薬の効果的な使い方を模索できるうえ小金を得ることができる。
彼ら、いいえオレリアにとっては最適な実験場だわ。

「ふむ。じゃあ、私はジョルダン伯爵家の近くでその薬らしきものが出回っていないか調べるわ。特に平民……それも貧民街や酒場とか」

「どうして?」

「いきなり貴族で試すわけないでしょ? その薬を作り上げるまでの実験体として平民、それも貧民や破落戸たちが犠牲になっていると思うわ。貴族子息に与えられた薬はその犠牲の元作られた試作品よ。少なくとも多少の死人が出ているから、自領でバラ撒くほどバカじゃないでしょ。だから近隣の領地を調べるのよ」

「下位貴族たちの前に、既に実験済ってことね」

私は頭が痛くなってきた。
薬を扱う人間でありながら、人の命を軽く扱いすぎるわ。

「そして下位貴族である程度の効果がわかれば、改良して政敵や邪魔者に飲ます。地位の高い者に使い、自分たちの駒として操る……なんて考えているんでしょう」

アンリエッタは、ハッと鼻で笑うと怖い顔で私を睨む。

「な、なによ」

「いい? 絶対にその薬とサミュエル様を繋げてはいけないわ。どんな手を使ってもそのオレリアという毒花にサミュエル様を近づけない! いいわね?」

私は親友の見たこともない迫力に呑まれ、コクコクと何度も頷いたのだった。

「それにしても、ヴォルチエ国から密輸している薬草って何かしら?」

アンリエッタがちょっと嫌そうにハーブティーの香りを嗅ぐ。

「そうねぇ。あれじゃない? 魔力が豊富で魔法使いのいる国だったとしたら、その薬草も魔力がある薬草ではないかしら?」

その魔力のある薬草と何かを混ぜて作った薬は、人の心を惑わせて壊してしまう恐ろしいものだ。
魔法を使えなくなった私たちにとっては、魔力というものは毒なのかもしれない。
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