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出会う
運命の出会い
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兄が学園の卒業論文で新薬「レヴェイエ」を発表したあと、第二王子がその新薬の研究の後ろ盾になることを表明し、我がアルナルディ家の状況は目まぐるしく変わっていった。
学園の卒業式に参加したのは父だけで、その父も群がる貴族たちに邪魔され兄とゆっくり言葉を交わすことができなかったらしい。
そして、兄はアルナルディ子爵領地に帰ることなく、第二王子たちに囲まれ王宮勤めとなり、王都に行くことができなかった私とは会うことのないまま長い時間が過ぎた。
兄に会えず、父と一緒に他人から教えられる兄の話に、なんとも言えないもどかしさを感じていた。
兄が発表した新薬は周りの想像以上の速さで完成し、一部の患者に投与される。
その新薬の完成に多大な貢献をしたと王都で有名になった伯爵令嬢との結婚も、私たち家族には事後報告のようなものだった。
多忙な兄は教会で結婚式をあげることなく、互いに婚姻書類に署名だけして終わらせたということも、かなり後になって知った。
私は、まだ絶縁する前のアンリエッタから、王都で彼女の名声は留まることがなく高まり、新薬完成の立役者としてもてはやされていると聞き、腹を立てていた。
兄が、大好きな領地にも帰らずに没頭して作り上げた薬が、たかが調合を手伝った顔も知らない女性の手柄になっているなんて、と。
ただ……私は兄に会えない寂しさと、たった一人の兄を知らない女性に取られたとの嫉妬で、八つ当たりをしていただけなのだ。
しばらくして、彼女は忙しくて帰れない兄の代わりに、アルナルディ家を訪れる。
彼女の控えめで優しい人柄に絆されて、母のいない代わりに彼女に甘えて、すっかりと心を許した私は彼女のことを「オレリアお義姉様」と呼び慕っていった。
このとき、鋭い観察眼を持つアンリエッタに何度か忠告を受けたが、なぜか私は聞き入れなかった。
むしろ、長年の親友で本当の姉妹のように思っていたアンリエッタに対して嫌悪の感情が沸き上がってきていた。
彼女は貧乏子爵令嬢が憧れる洗練された貴族女性であり、教養もあり話していて楽しかった。
私はいつの日か兄が帰るよりも、彼女の訪れを心待ちにするようになっていて、あの日、彼女は私の世界の全てを変えた。
――デビュタントへの招待
彼女と選んだ白いドレスで王子様の迎えを待つ……パートナーは第二王子殿下から紹介された、イレール・モルヴァン侯爵子息様。
何よりも眩い夢の一日の始まりだった。
オレリア・ジョルダン
貴女はいったい私たちに何をしたの?
あの優しさは、あの献身は嘘だったの?
ギリッと噛みしめた唇から血が滲む。
「もうっ。なんで子爵令嬢が唇から血を垂らしているのよ、驚いたわ」
プリプリと怒りながら、白いハンカチで私の唇を丁寧に拭ってくれるアンリエッタにお礼を言う。
「ありがとう。もう大丈夫よ」
やんわりと彼女の体を押し返すと不満そうにハンカチをしまう。
「じゃあ約束のカフェに行きましょう。……サミュエル様がまだね」
「お兄様も誘ったの?」
お兄様は論文のための研究で忙しくしているのよ?
たしか、もうこの時期はほとんどを研究で借りている私室で過ごしていて、寮の部屋にも帰れない日が続いてたと手紙に書いてあったわ。
「……そう? あなたが熱心に本科の学舎を見ている間にお誘いしたらすぐに返事が返ってきたけど?」
私が窓から復讐相手の観察をしている短い間に、アンリエッタは学園にいる用務員に手紙の配達を頼みしっかりと返事までもらっていた。
登校初日なのに学園に馴染み過ぎている親友に少し慄き、それを悟られないよう兄がいる本科の学舎へと顔を向ける。
「馬車もすぐに来るし、私がお迎えに行ってくるから、シャルロットはここで待っていて」
「いいけど、私が行きましょうか?」
自分の兄の迎えに他家の令嬢を向かわせるのはいかがなものか?
「……あなたは本科へは行かないほうがいいわ。せめて今日ぐらいわね」
パチンとお茶目にウインクを寄越し、スカートを翻して去っていくアンリエッタの姿を呆然と見送る。
あなた……気づいていたの?
私が、第二王子たちの姿を見て動揺したこと、慕っていた義姉がその仲間だったかもしれないことに打ちのめされたことを。
ギュッと両手を握りしめる。
……落ち着かないと、冷静に、感情的になってはダメ。
前の時間の惨劇を繰り返しては絶対にダメ。
そのためには敵を見極めないと、誰が兄を罠に嵌め、アルナルディ家を葬ったのか……復讐する相手は誰なのか。
間違えないように、逃がさないように、慎重にコトを運ばないとダメよ。
目を瞑って、心の底から吐き出すように息を吐いた。
気持ちを立て直し顔を上げた私の目の前には……運命が立っていた。
「大丈夫かい? 気分が悪いのかな? 君は新入生?」
あなたはこの学園には通っていないはずよ。
なぜ、ここにいるの?
あなたと私が出会うのは、策謀渦巻く王宮、デビュタントに参加する私を迎えにくるとき。
まだ、あなたとは出会うはずではないのよ?
「……どうしたの? 悲しいことでもあった?」
私の頬に流れる一筋の涙にオロオロと狼狽えるあなた……イレール・モルヴァン公爵子息。
私を……殺そうとした、愛する旦那様。
学園の卒業式に参加したのは父だけで、その父も群がる貴族たちに邪魔され兄とゆっくり言葉を交わすことができなかったらしい。
そして、兄はアルナルディ子爵領地に帰ることなく、第二王子たちに囲まれ王宮勤めとなり、王都に行くことができなかった私とは会うことのないまま長い時間が過ぎた。
兄に会えず、父と一緒に他人から教えられる兄の話に、なんとも言えないもどかしさを感じていた。
兄が発表した新薬は周りの想像以上の速さで完成し、一部の患者に投与される。
その新薬の完成に多大な貢献をしたと王都で有名になった伯爵令嬢との結婚も、私たち家族には事後報告のようなものだった。
多忙な兄は教会で結婚式をあげることなく、互いに婚姻書類に署名だけして終わらせたということも、かなり後になって知った。
私は、まだ絶縁する前のアンリエッタから、王都で彼女の名声は留まることがなく高まり、新薬完成の立役者としてもてはやされていると聞き、腹を立てていた。
兄が、大好きな領地にも帰らずに没頭して作り上げた薬が、たかが調合を手伝った顔も知らない女性の手柄になっているなんて、と。
ただ……私は兄に会えない寂しさと、たった一人の兄を知らない女性に取られたとの嫉妬で、八つ当たりをしていただけなのだ。
しばらくして、彼女は忙しくて帰れない兄の代わりに、アルナルディ家を訪れる。
彼女の控えめで優しい人柄に絆されて、母のいない代わりに彼女に甘えて、すっかりと心を許した私は彼女のことを「オレリアお義姉様」と呼び慕っていった。
このとき、鋭い観察眼を持つアンリエッタに何度か忠告を受けたが、なぜか私は聞き入れなかった。
むしろ、長年の親友で本当の姉妹のように思っていたアンリエッタに対して嫌悪の感情が沸き上がってきていた。
彼女は貧乏子爵令嬢が憧れる洗練された貴族女性であり、教養もあり話していて楽しかった。
私はいつの日か兄が帰るよりも、彼女の訪れを心待ちにするようになっていて、あの日、彼女は私の世界の全てを変えた。
――デビュタントへの招待
彼女と選んだ白いドレスで王子様の迎えを待つ……パートナーは第二王子殿下から紹介された、イレール・モルヴァン侯爵子息様。
何よりも眩い夢の一日の始まりだった。
オレリア・ジョルダン
貴女はいったい私たちに何をしたの?
あの優しさは、あの献身は嘘だったの?
ギリッと噛みしめた唇から血が滲む。
「もうっ。なんで子爵令嬢が唇から血を垂らしているのよ、驚いたわ」
プリプリと怒りながら、白いハンカチで私の唇を丁寧に拭ってくれるアンリエッタにお礼を言う。
「ありがとう。もう大丈夫よ」
やんわりと彼女の体を押し返すと不満そうにハンカチをしまう。
「じゃあ約束のカフェに行きましょう。……サミュエル様がまだね」
「お兄様も誘ったの?」
お兄様は論文のための研究で忙しくしているのよ?
たしか、もうこの時期はほとんどを研究で借りている私室で過ごしていて、寮の部屋にも帰れない日が続いてたと手紙に書いてあったわ。
「……そう? あなたが熱心に本科の学舎を見ている間にお誘いしたらすぐに返事が返ってきたけど?」
私が窓から復讐相手の観察をしている短い間に、アンリエッタは学園にいる用務員に手紙の配達を頼みしっかりと返事までもらっていた。
登校初日なのに学園に馴染み過ぎている親友に少し慄き、それを悟られないよう兄がいる本科の学舎へと顔を向ける。
「馬車もすぐに来るし、私がお迎えに行ってくるから、シャルロットはここで待っていて」
「いいけど、私が行きましょうか?」
自分の兄の迎えに他家の令嬢を向かわせるのはいかがなものか?
「……あなたは本科へは行かないほうがいいわ。せめて今日ぐらいわね」
パチンとお茶目にウインクを寄越し、スカートを翻して去っていくアンリエッタの姿を呆然と見送る。
あなた……気づいていたの?
私が、第二王子たちの姿を見て動揺したこと、慕っていた義姉がその仲間だったかもしれないことに打ちのめされたことを。
ギュッと両手を握りしめる。
……落ち着かないと、冷静に、感情的になってはダメ。
前の時間の惨劇を繰り返しては絶対にダメ。
そのためには敵を見極めないと、誰が兄を罠に嵌め、アルナルディ家を葬ったのか……復讐する相手は誰なのか。
間違えないように、逃がさないように、慎重にコトを運ばないとダメよ。
目を瞑って、心の底から吐き出すように息を吐いた。
気持ちを立て直し顔を上げた私の目の前には……運命が立っていた。
「大丈夫かい? 気分が悪いのかな? 君は新入生?」
あなたはこの学園には通っていないはずよ。
なぜ、ここにいるの?
あなたと私が出会うのは、策謀渦巻く王宮、デビュタントに参加する私を迎えにくるとき。
まだ、あなたとは出会うはずではないのよ?
「……どうしたの? 悲しいことでもあった?」
私の頬に流れる一筋の涙にオロオロと狼狽えるあなた……イレール・モルヴァン公爵子息。
私を……殺そうとした、愛する旦那様。
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