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昔の部下と今の友
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成人して冒険者となり、薬草採取依頼や町の清掃など地味な仕事をこなすこと数年。
我と元勇者は立派な冒険者と成長していた。
えっへん!
しかし……あいつの異常に女にモテる病気はどうにかならんのか?
今日も依頼のあった魔物の討伐を無事に終えて、日が暮れるよりもやや早く冒険者ギルドに帰ってくれば、二重、三重にと女に囲まれる。
最近では、見慣れたビキニアーマーのお姉さんたち以外にも、年下枠やらケモミミ枠やらレパートリーが賑やかになってきた。
奴が冒険者パーティーのメンバーを募集したら、女しか集まらないだろう……いや、もしかしたら余り者目当てて男も来るのか?
何度もいろんな女からパーティーに誘われたようだが、奴が首を縦に振ることはなかった。
そう、それは我がいつも共にいるからだっ!
意味もなくない胸を張って心の中で自慢気に言い放ってみたが、元勇者は我という幼馴染がいるから他の奴らとはつるめないのだ。
我……目つきが鋭くクールで無口な、はっきり言えば人とコミュニケーションなんざ取れるわけもない性格だから、奴以外の冒険者と一緒に行動なんてできない。
言い切るぞ、一緒に行動なんてできない!
おかしいな? 大賢者だったときには何人かの友人と弟子もいたし、その次の孤児のときは村の子供と毎日一緒に走り回っていたのに、なぜこんなとっつきにくい性格になったんだ?
やっぱり……ひとつ前の、魔王時代の弊害なんだろうなぁ……。
当然、冒険者窓口の受付お姉さんと会話なんて無理だから、奴が、元勇者が今日も魔物の討伐報告へ行ってくれている。
しかも、ここ冒険者ギルドには、なぜか我を溺愛する父親が勤めているから、できるなら我はここには近寄りたくない。
冒険者ギルドの少々汚れた壁に凭れながら、元勇者が戻ってくるのを静かに待つ。
なんだか隣に嫌な気配を感じるが、我がそれに気づいているとバレれたら我の負けだ。
ツーンと無視してやろう。
「お嬢さん、お一人ですか?」
ぎゃーっ! あからさまに無視していたのに、図々しく声をかけてきたーっ!
キッと眦を上げて睨みつければ、そこに立っていたのは想像と違う、仕立ての良い貴族服を着た細身の優男だった。
あれ? 我、間違えたか?
てっきり、懐かしい知っている魔力だと思ったのに……。
「わたくしは、ここから馬車で二日ほど離れた町を治めています……ダンダリオンと申します」
町を治めているとは、貴族かそれに準ずる立場のはずなのに、冒険者の小娘に向かって深々と頭を下げて挨拶をするこの男。
むむ? やはり怪しいな。
「……お前」
「お久しぶりでございます。マイ・ロード」
下げていた顔を上げたそいつの顔は、恐ろしいほどに美々しく整った人形のような容貌で、血のような唇がニイッと弧を描いていた。
魔王だったとき、傍らにいた魔族がいた。
代わる者もいたが、何人かは同じ魔族が侍っていた気がする……興味がなかったからよく覚えてない。
そのうちの一人、確か小賢しい奴だったから魔国の面倒なことは全て投げていた気がする奴、それがこの隣でニコニコと笑っている奴だと思う。
あれれ? あいつは黒い髪に真っ赤瞳で頭に羊みたいな立派な巻角があったよな?
「ダンダリオン?」
「はいっ!」
こんな隣の家で飼っている犬みたいな奴だったけ?
そして始まる魔族の昔語りが。
……いや、お前ら魔族の寿命を考えろよ、どれだけ長い話になると思うんだっ!
悪かったよ、お前らのことまるっと忘れて、勝手に勇者と不可侵契約を結んで魔国に眠りの魔法を使ったことは。
ああ、その後ムカついたからって事前相談もなしで結界を解いて、魔国の奴らの眠りの魔法を解除したのもスマンかった。
ええ? 眠りから覚めたら我が死んでいた?
そりゃ、勇者が死んで虚しくなって心の蔵を自分の手で抉り出したからなぁぁぁって、泣くなよっ、こんな所で泣くな!
は? 探していた? 我を? なんで? 生まれ変わるとは限らないんだぞ?
そんなことより、新しい魔王が卵から孵っているんだろう? そっちの面倒みなくていいのか?
冒険者ギルドの端っこで、貴族風の男とコソコソ小声で話していたら、元勇者が依頼の報酬を手に戻ってきた。
「クロエ? なにやってんの。そいつ、誰?」
「へ?」
元勇者、ア、アーサーのそんな怖い顔、我、初めて見るんだが?
大賢者でこの世のすべてを知り尽くした叡智と、元魔王であらゆる魔法を行使できる莫大な魔力を有する我が、元勇者の怖い笑顔にビビッてます。
ひええええっ。
我と元勇者は立派な冒険者と成長していた。
えっへん!
しかし……あいつの異常に女にモテる病気はどうにかならんのか?
今日も依頼のあった魔物の討伐を無事に終えて、日が暮れるよりもやや早く冒険者ギルドに帰ってくれば、二重、三重にと女に囲まれる。
最近では、見慣れたビキニアーマーのお姉さんたち以外にも、年下枠やらケモミミ枠やらレパートリーが賑やかになってきた。
奴が冒険者パーティーのメンバーを募集したら、女しか集まらないだろう……いや、もしかしたら余り者目当てて男も来るのか?
何度もいろんな女からパーティーに誘われたようだが、奴が首を縦に振ることはなかった。
そう、それは我がいつも共にいるからだっ!
意味もなくない胸を張って心の中で自慢気に言い放ってみたが、元勇者は我という幼馴染がいるから他の奴らとはつるめないのだ。
我……目つきが鋭くクールで無口な、はっきり言えば人とコミュニケーションなんざ取れるわけもない性格だから、奴以外の冒険者と一緒に行動なんてできない。
言い切るぞ、一緒に行動なんてできない!
おかしいな? 大賢者だったときには何人かの友人と弟子もいたし、その次の孤児のときは村の子供と毎日一緒に走り回っていたのに、なぜこんなとっつきにくい性格になったんだ?
やっぱり……ひとつ前の、魔王時代の弊害なんだろうなぁ……。
当然、冒険者窓口の受付お姉さんと会話なんて無理だから、奴が、元勇者が今日も魔物の討伐報告へ行ってくれている。
しかも、ここ冒険者ギルドには、なぜか我を溺愛する父親が勤めているから、できるなら我はここには近寄りたくない。
冒険者ギルドの少々汚れた壁に凭れながら、元勇者が戻ってくるのを静かに待つ。
なんだか隣に嫌な気配を感じるが、我がそれに気づいているとバレれたら我の負けだ。
ツーンと無視してやろう。
「お嬢さん、お一人ですか?」
ぎゃーっ! あからさまに無視していたのに、図々しく声をかけてきたーっ!
キッと眦を上げて睨みつければ、そこに立っていたのは想像と違う、仕立ての良い貴族服を着た細身の優男だった。
あれ? 我、間違えたか?
てっきり、懐かしい知っている魔力だと思ったのに……。
「わたくしは、ここから馬車で二日ほど離れた町を治めています……ダンダリオンと申します」
町を治めているとは、貴族かそれに準ずる立場のはずなのに、冒険者の小娘に向かって深々と頭を下げて挨拶をするこの男。
むむ? やはり怪しいな。
「……お前」
「お久しぶりでございます。マイ・ロード」
下げていた顔を上げたそいつの顔は、恐ろしいほどに美々しく整った人形のような容貌で、血のような唇がニイッと弧を描いていた。
魔王だったとき、傍らにいた魔族がいた。
代わる者もいたが、何人かは同じ魔族が侍っていた気がする……興味がなかったからよく覚えてない。
そのうちの一人、確か小賢しい奴だったから魔国の面倒なことは全て投げていた気がする奴、それがこの隣でニコニコと笑っている奴だと思う。
あれれ? あいつは黒い髪に真っ赤瞳で頭に羊みたいな立派な巻角があったよな?
「ダンダリオン?」
「はいっ!」
こんな隣の家で飼っている犬みたいな奴だったけ?
そして始まる魔族の昔語りが。
……いや、お前ら魔族の寿命を考えろよ、どれだけ長い話になると思うんだっ!
悪かったよ、お前らのことまるっと忘れて、勝手に勇者と不可侵契約を結んで魔国に眠りの魔法を使ったことは。
ああ、その後ムカついたからって事前相談もなしで結界を解いて、魔国の奴らの眠りの魔法を解除したのもスマンかった。
ええ? 眠りから覚めたら我が死んでいた?
そりゃ、勇者が死んで虚しくなって心の蔵を自分の手で抉り出したからなぁぁぁって、泣くなよっ、こんな所で泣くな!
は? 探していた? 我を? なんで? 生まれ変わるとは限らないんだぞ?
そんなことより、新しい魔王が卵から孵っているんだろう? そっちの面倒みなくていいのか?
冒険者ギルドの端っこで、貴族風の男とコソコソ小声で話していたら、元勇者が依頼の報酬を手に戻ってきた。
「クロエ? なにやってんの。そいつ、誰?」
「へ?」
元勇者、ア、アーサーのそんな怖い顔、我、初めて見るんだが?
大賢者でこの世のすべてを知り尽くした叡智と、元魔王であらゆる魔法を行使できる莫大な魔力を有する我が、元勇者の怖い笑顔にビビッてます。
ひええええっ。
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