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初級ダンジョン 探索編
治療不足のままだった
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食堂でわいわいと晩ご飯を食べていたぼくたちは、サロンへと移動しました。
ぼくの体はディータさんの小脇に抱えられて運ばれています。
わーん、ぼくは逃げませんよー!
トサッとソファーに優しく下ろされて、くしゃっとディータさんに髪を乱される。
もうっ、と手櫛で髪を整えていると、みんなもいつもの場所に座ったみたいだった。
……あれ? いつものならここでオスカーさんとハルトムートさんが蒸留酒を楽しみ始め、ディータさんとビアンカさん、ミアさんがミルクティーとスイーツでお喋りするのに?
みんな、真剣な顔で黙って座っています。
ぼくも思わず居住まいを正しました。
レオもぼくの横に大人しくちょこんと座っていてね。
「そんな……父ちゃんの足が本当に治っていなかったなんて……」
ミアさんが苦し気に眉を顰めてハルトムートさんの足を見つめる。
「俺だって信じらんねぇよ。歩けるし走れるし、階段だって平気なのに……。あのときの怪我がまだ治ってねぇなんて」
さすさすとハルトムートさんが怪我した足を摩る。
あのぅ……ぼくの『異世界レシピ』が間違っているってこともありますよね?
なのに、みんなが「それはない」と首を振りました。
「ハルトムート。もう一度怪我したときの話が聞きたい。治療はいつ、何を施した?」
オスカーさんに言われてハルトムートさんは顔を上に向けて、うーんと昔を思い出しているようです。
「とにかく、上級ポーションは重傷の奴に使って、中級は依頼者たちに優先して使って……俺はとにかく血止めのため初級ポーションを足にかけまくっていたなぁ」
ザックリと剣で太腿を切られたハルトムートさんは、傷口から夥しい出血と骨がチラリと見えていたそうだ。
ぎゃあああっ、話しを聞いているだけで痛いですぅぅぅっ。
ぼくは自分の耳を両手で塞ぎ、体をくっと曲げました。
隣でレオもみょんと伸ばした触手で頭の上を押さえているけど、レオの耳ってそこにあるの?
「とにかく、ポーションはないし治癒魔法が使える奴はいないし、初級ポーションで誤魔化しながら町に行ったんだ」
「そこで治癒士の治療を受けたんだよな? その治癒魔法は、中級レベルか? 上級レベルか?」
「へ? そんなのは知らねぇよ。俺の傷口を見て血がいっぱい流れたって話しをしたら勝手に治療されたからな。でも痛みはすぐに引いたぜ。安心したせいか、その後はすぐに気を失い三日三晩目を覚まさなかったけどな」
「父ちゃん……簡単に言わないでよ。すっごく心配したんだから」
ミアさんの悲し気な呟きに苦笑したハルトムートさんは、ミアさんの頭をよしよしと撫でた。
ハルトムートさんの話を聞いて、オスカーさんは難しい顔をして黙り込んでしまった。
ビアンカさんもディータさんも、そんなオスカーさんを心配そうに見つめているが、ハルトムートさんは自分のことなのに少々この話に飽きてきてしまったみたいだ。
「クルト。何か甘いモンはあるか?」
「ありますけど……」
オスカーさんから預かり放しの収納袋から、作り置きのドーナツを取り出す。
洋のおじさん監修の元、ただの揚げ菓子から真ん中に穴が空いた真ん丸の形にして、砂糖をまぶしたり蜂蜜をかけたり、中に果実のジャムを挟んだりしたものだ。
ドーナツを一つ手に取り、ハルトムートさんがあーんと大きく口を開けたとき、オスカーさんがくわっと目を開いた。
「そうか! ハルトムートの怪我の状態が想像できたぞ!」
ガタンと勢い立ち上がってからの大声に、ぼくたちはビクンと体を震わせました。
あー、びっくりした。
オスカーさんの推測では、ハルトムートさんが最初に初級ポーションをいっぱい傷口にかけたので、血止めの効果と傷が表面だけ塞がったのを、治癒魔法士が「たいした怪我ではない」と判断して初級レベルの治癒魔法をかけたのだろうと。
「だから、深い傷が治りきらなかった。長い時間をかけて自然に治ったが、その神経? というところが傷ついたままなのだろう」
「んじゃ、その神経? を治せばいいのか?」
「……。だが、今はその足が完治したと治癒士たちから判断されている。普通の治癒魔法士レベルでは、傷ついた箇所を治すことは難しいのかもしれない。実際クルトのスキルでは、上級レベルの治癒魔法か特上ポーションが必要と判断したのだから」
シーン……。
な、なんでしょう……空気が一段と重くなった気がします。
ここでドーナツを大きな口で食べられるほど、ぼくは図々しくないので大人しくしています。
あ、レオも今は食べちゃダメだよ。
あとで、ビアンカさんに教えてもらったけど、上級の治癒魔法が使える人は少ないしお値段がとっても高いらしい。
特上ポーションも値段は高いし、そこら辺に売っている物でもないし、その素材も希少な薬草ばかりで集めることも難しいらしい。
えー、じゃあハルトムートさんの怪我は治せないってことですか?
自分のスキルだけど、「家庭の医学」の齎した結果が腹立たしいなぁ。
結局、ハルトムートさんに叶わない思いを今更させただけじゃないか!
「いや。クルトのスキルはもう一つの治し方を教えてくれた。その人体組織図を私が熟知して治癒魔法をかければ、ハルトムートの足は治ると」
オスカーさんが右手をぐっと握りしめて「私が治す」と宣言しましたけど、こんな分厚い本を読んだだけで治癒魔法のレベルを上げることができるんですか?
ぼくの体はディータさんの小脇に抱えられて運ばれています。
わーん、ぼくは逃げませんよー!
トサッとソファーに優しく下ろされて、くしゃっとディータさんに髪を乱される。
もうっ、と手櫛で髪を整えていると、みんなもいつもの場所に座ったみたいだった。
……あれ? いつものならここでオスカーさんとハルトムートさんが蒸留酒を楽しみ始め、ディータさんとビアンカさん、ミアさんがミルクティーとスイーツでお喋りするのに?
みんな、真剣な顔で黙って座っています。
ぼくも思わず居住まいを正しました。
レオもぼくの横に大人しくちょこんと座っていてね。
「そんな……父ちゃんの足が本当に治っていなかったなんて……」
ミアさんが苦し気に眉を顰めてハルトムートさんの足を見つめる。
「俺だって信じらんねぇよ。歩けるし走れるし、階段だって平気なのに……。あのときの怪我がまだ治ってねぇなんて」
さすさすとハルトムートさんが怪我した足を摩る。
あのぅ……ぼくの『異世界レシピ』が間違っているってこともありますよね?
なのに、みんなが「それはない」と首を振りました。
「ハルトムート。もう一度怪我したときの話が聞きたい。治療はいつ、何を施した?」
オスカーさんに言われてハルトムートさんは顔を上に向けて、うーんと昔を思い出しているようです。
「とにかく、上級ポーションは重傷の奴に使って、中級は依頼者たちに優先して使って……俺はとにかく血止めのため初級ポーションを足にかけまくっていたなぁ」
ザックリと剣で太腿を切られたハルトムートさんは、傷口から夥しい出血と骨がチラリと見えていたそうだ。
ぎゃあああっ、話しを聞いているだけで痛いですぅぅぅっ。
ぼくは自分の耳を両手で塞ぎ、体をくっと曲げました。
隣でレオもみょんと伸ばした触手で頭の上を押さえているけど、レオの耳ってそこにあるの?
「とにかく、ポーションはないし治癒魔法が使える奴はいないし、初級ポーションで誤魔化しながら町に行ったんだ」
「そこで治癒士の治療を受けたんだよな? その治癒魔法は、中級レベルか? 上級レベルか?」
「へ? そんなのは知らねぇよ。俺の傷口を見て血がいっぱい流れたって話しをしたら勝手に治療されたからな。でも痛みはすぐに引いたぜ。安心したせいか、その後はすぐに気を失い三日三晩目を覚まさなかったけどな」
「父ちゃん……簡単に言わないでよ。すっごく心配したんだから」
ミアさんの悲し気な呟きに苦笑したハルトムートさんは、ミアさんの頭をよしよしと撫でた。
ハルトムートさんの話を聞いて、オスカーさんは難しい顔をして黙り込んでしまった。
ビアンカさんもディータさんも、そんなオスカーさんを心配そうに見つめているが、ハルトムートさんは自分のことなのに少々この話に飽きてきてしまったみたいだ。
「クルト。何か甘いモンはあるか?」
「ありますけど……」
オスカーさんから預かり放しの収納袋から、作り置きのドーナツを取り出す。
洋のおじさん監修の元、ただの揚げ菓子から真ん中に穴が空いた真ん丸の形にして、砂糖をまぶしたり蜂蜜をかけたり、中に果実のジャムを挟んだりしたものだ。
ドーナツを一つ手に取り、ハルトムートさんがあーんと大きく口を開けたとき、オスカーさんがくわっと目を開いた。
「そうか! ハルトムートの怪我の状態が想像できたぞ!」
ガタンと勢い立ち上がってからの大声に、ぼくたちはビクンと体を震わせました。
あー、びっくりした。
オスカーさんの推測では、ハルトムートさんが最初に初級ポーションをいっぱい傷口にかけたので、血止めの効果と傷が表面だけ塞がったのを、治癒魔法士が「たいした怪我ではない」と判断して初級レベルの治癒魔法をかけたのだろうと。
「だから、深い傷が治りきらなかった。長い時間をかけて自然に治ったが、その神経? というところが傷ついたままなのだろう」
「んじゃ、その神経? を治せばいいのか?」
「……。だが、今はその足が完治したと治癒士たちから判断されている。普通の治癒魔法士レベルでは、傷ついた箇所を治すことは難しいのかもしれない。実際クルトのスキルでは、上級レベルの治癒魔法か特上ポーションが必要と判断したのだから」
シーン……。
な、なんでしょう……空気が一段と重くなった気がします。
ここでドーナツを大きな口で食べられるほど、ぼくは図々しくないので大人しくしています。
あ、レオも今は食べちゃダメだよ。
あとで、ビアンカさんに教えてもらったけど、上級の治癒魔法が使える人は少ないしお値段がとっても高いらしい。
特上ポーションも値段は高いし、そこら辺に売っている物でもないし、その素材も希少な薬草ばかりで集めることも難しいらしい。
えー、じゃあハルトムートさんの怪我は治せないってことですか?
自分のスキルだけど、「家庭の医学」の齎した結果が腹立たしいなぁ。
結局、ハルトムートさんに叶わない思いを今更させただけじゃないか!
「いや。クルトのスキルはもう一つの治し方を教えてくれた。その人体組織図を私が熟知して治癒魔法をかければ、ハルトムートの足は治ると」
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