63 / 85
初級ダンジョン 探索編
コメはお預け
しおりを挟む
『精米』
玄米の糠を削り取る。
このとき、胚芽も剥がれ落ちる。
『玄米』
稲の実「籾」から籾殻を除去したもの。
「う、うーん。つまりこの穀物の名前は稲で、ここから精米するとカズが欲しがっていたコメになるんだね」
ぼくは『異世界レシピ』に表示された説明文を読み上げる。
この稲から茶色い所を除いて、糠という部分を剥がすと白い粒になるらしい。
「そうじゃ、坊主」
カズが袋の中で稲の実に埋もれて喜んでいるけど、問題はどうやって籾殻を取り除いて糠を削るかだよ。
「いつものようにレオに頼めば?」
ビアンカさんが手の中で数粒の籾を興味深そうにコロコロしている。
そうだけど……ショーガをすりおろすのも、野菜の皮を剥いてキレイに切るのも、卵の浄化もレオに頼んでいるけど、今回はどうだろう?
試しに籾を数粒手に取り、レオに差し出してみる。
「レオ、やってみてくれる?」
水色スライムのレオは、ぼくの手の中の籾を見て左右に体を揺らしたあと、パクリと体に取り込んだ。
むぐむぐ、もごもご。
ぺっ、と吐き出された籾は白い粒……ではなくて粉砕された何か。
「あー、ダメか」
レオがちょっぴり落ち込んで、プルンとした雫型の頭をしょんもりと下げている。
ぼくはレオの頭をよしよしと撫でて、粉砕された粒を見つめた。
「力加減なのかな?」
「レオも初めて見るものだから、扱いがわからなかったんだろう」
オスカーさんが粉砕された粒を指で触って確かめている。
「麦と同じやり方ではダメなのだろうか?」
え? 麦ですか?
「たしか、大麦の外皮を剥く加工方法があったと思う」
「あたし、聞いたことないわ」
「俺も」
「……なんか、大麦栽培の農家に聞いたことがあるような?」
さすが、冒険者としてあちこちの国を渡り歩いていたハルトムートさんは、その方法に心当たりがあるようだ。
「また実家を頼ることになるが、うちと取引のある商会に行き頼んでみよう」
「はい。お願いします」
ペコリと頭を下げると、オスカーさんは笑って「私も食べてみたいんだよ」と言ってくれた。
まあ、念願のコメを前にお預けになったカズは、ショックでボトリと袋の外に落ちてしまったけど、ちょっとぐらい我慢してよね。
コメを食べるのは精米ができてからとなったので、今日はボア肉を焼きトマトとガーリックのソースで食べます。
ポテトフライもたくさん添えました。
ああ、サラダも食べてくださいね。
ディータさんが不思議そうに見ているその根菜は、素揚げしたものです。
ハルトムートさん、お酒のペースが早いと思います。
「ぷはっ! 仕事の後の酒はうめぇな! んで、次はどうすんだ?」
「次? 次ってなによ」
「決まってんじゃねぇか。初級ダンジョンを今日めでたく踏破したんだ。次は中級ダンジョンに挑戦するのか?」
ハルトムートさんの言葉にビアンカさんたちの手がピタリと止まる。
「……中級ダンジョン……」
ムムムと難しい顔をするオスカーさんに、ぼくは嫌な予感がしました。
まさか、まさかですよね?
ぼくがダンジョンに行くのは初級ダンジョンまで、でしたよね?
いやいや、ハズレドロップアイテムを手に入れるためには中級ダンジョンに挑戦したい気持ちもあるけど……ぼくが行かなくてもいいわけだし。
そう、そのためにハルトムートさんがギルドに入ったんだし……ぼくの役目は終わりですよね?
な、なんでみんなしてぼくの顔をじーっと見るんですか!
「クルト……そのぅ、中級ダンジョンだけどな」
「そんな、最上階まで付き合えなんて言わないわ!」
「中間ぐらいまでなら……」
ひっ、やっぱり!
「い、行きませんよ! 怖いですよ! ぼくの魔法なんてショボいですよ? しかもまだ目を瞑っちゃうときあるし」
連れて行くなら、レオにしてくださいーっ。
「あー、クルトなぁ。俺、考えたんだけどクルトって全属性の魔法を使えるんじゃないか?」
酔っ払いハルトムートさんが何かおかしなことを言い始めましたよ?
「そんなわけないでしょう。ぼくのスキルは『器用貧乏』ですよ?」
「そう、だけど。『器用貧乏』スキルが生活魔法限定なら、クルトが水魔法が使えるのはなんでなんだろうなぁ」
モグモグと大きなお口でボア肉を噛み千切って咀嚼するハルトムートさんの探るような厳しい視線に、ひゃぁっと背中が冷たくなりました。
「そ、それは『異世界レシピ』スキルの効果で『器用貧乏』スキルの能力じゃないから……あっ」
ハルトムートさんの迫力にあわあわしながら言い訳紛いに説明していると、シュンと半透明の画面が目の前に現れました。
「んん?」
「どうした? クルト」
どうしたも何も、なんですか? これ。
その半透明の画面には、『異世界レシピ』からのメッセージが書かれていた。
――おめでとうございます! スキルのレベルがアップしました――
新しい機能 「家庭の医学」
レベルアップ特典 体に異常のある人を特定します。
該当者 ハルトムート
部位 足
ええーっ!!
玄米の糠を削り取る。
このとき、胚芽も剥がれ落ちる。
『玄米』
稲の実「籾」から籾殻を除去したもの。
「う、うーん。つまりこの穀物の名前は稲で、ここから精米するとカズが欲しがっていたコメになるんだね」
ぼくは『異世界レシピ』に表示された説明文を読み上げる。
この稲から茶色い所を除いて、糠という部分を剥がすと白い粒になるらしい。
「そうじゃ、坊主」
カズが袋の中で稲の実に埋もれて喜んでいるけど、問題はどうやって籾殻を取り除いて糠を削るかだよ。
「いつものようにレオに頼めば?」
ビアンカさんが手の中で数粒の籾を興味深そうにコロコロしている。
そうだけど……ショーガをすりおろすのも、野菜の皮を剥いてキレイに切るのも、卵の浄化もレオに頼んでいるけど、今回はどうだろう?
試しに籾を数粒手に取り、レオに差し出してみる。
「レオ、やってみてくれる?」
水色スライムのレオは、ぼくの手の中の籾を見て左右に体を揺らしたあと、パクリと体に取り込んだ。
むぐむぐ、もごもご。
ぺっ、と吐き出された籾は白い粒……ではなくて粉砕された何か。
「あー、ダメか」
レオがちょっぴり落ち込んで、プルンとした雫型の頭をしょんもりと下げている。
ぼくはレオの頭をよしよしと撫でて、粉砕された粒を見つめた。
「力加減なのかな?」
「レオも初めて見るものだから、扱いがわからなかったんだろう」
オスカーさんが粉砕された粒を指で触って確かめている。
「麦と同じやり方ではダメなのだろうか?」
え? 麦ですか?
「たしか、大麦の外皮を剥く加工方法があったと思う」
「あたし、聞いたことないわ」
「俺も」
「……なんか、大麦栽培の農家に聞いたことがあるような?」
さすが、冒険者としてあちこちの国を渡り歩いていたハルトムートさんは、その方法に心当たりがあるようだ。
「また実家を頼ることになるが、うちと取引のある商会に行き頼んでみよう」
「はい。お願いします」
ペコリと頭を下げると、オスカーさんは笑って「私も食べてみたいんだよ」と言ってくれた。
まあ、念願のコメを前にお預けになったカズは、ショックでボトリと袋の外に落ちてしまったけど、ちょっとぐらい我慢してよね。
コメを食べるのは精米ができてからとなったので、今日はボア肉を焼きトマトとガーリックのソースで食べます。
ポテトフライもたくさん添えました。
ああ、サラダも食べてくださいね。
ディータさんが不思議そうに見ているその根菜は、素揚げしたものです。
ハルトムートさん、お酒のペースが早いと思います。
「ぷはっ! 仕事の後の酒はうめぇな! んで、次はどうすんだ?」
「次? 次ってなによ」
「決まってんじゃねぇか。初級ダンジョンを今日めでたく踏破したんだ。次は中級ダンジョンに挑戦するのか?」
ハルトムートさんの言葉にビアンカさんたちの手がピタリと止まる。
「……中級ダンジョン……」
ムムムと難しい顔をするオスカーさんに、ぼくは嫌な予感がしました。
まさか、まさかですよね?
ぼくがダンジョンに行くのは初級ダンジョンまで、でしたよね?
いやいや、ハズレドロップアイテムを手に入れるためには中級ダンジョンに挑戦したい気持ちもあるけど……ぼくが行かなくてもいいわけだし。
そう、そのためにハルトムートさんがギルドに入ったんだし……ぼくの役目は終わりですよね?
な、なんでみんなしてぼくの顔をじーっと見るんですか!
「クルト……そのぅ、中級ダンジョンだけどな」
「そんな、最上階まで付き合えなんて言わないわ!」
「中間ぐらいまでなら……」
ひっ、やっぱり!
「い、行きませんよ! 怖いですよ! ぼくの魔法なんてショボいですよ? しかもまだ目を瞑っちゃうときあるし」
連れて行くなら、レオにしてくださいーっ。
「あー、クルトなぁ。俺、考えたんだけどクルトって全属性の魔法を使えるんじゃないか?」
酔っ払いハルトムートさんが何かおかしなことを言い始めましたよ?
「そんなわけないでしょう。ぼくのスキルは『器用貧乏』ですよ?」
「そう、だけど。『器用貧乏』スキルが生活魔法限定なら、クルトが水魔法が使えるのはなんでなんだろうなぁ」
モグモグと大きなお口でボア肉を噛み千切って咀嚼するハルトムートさんの探るような厳しい視線に、ひゃぁっと背中が冷たくなりました。
「そ、それは『異世界レシピ』スキルの効果で『器用貧乏』スキルの能力じゃないから……あっ」
ハルトムートさんの迫力にあわあわしながら言い訳紛いに説明していると、シュンと半透明の画面が目の前に現れました。
「んん?」
「どうした? クルト」
どうしたも何も、なんですか? これ。
その半透明の画面には、『異世界レシピ』からのメッセージが書かれていた。
――おめでとうございます! スキルのレベルがアップしました――
新しい機能 「家庭の医学」
レベルアップ特典 体に異常のある人を特定します。
該当者 ハルトムート
部位 足
ええーっ!!
21
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~
楠富 つかさ
ファンタジー
地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。
そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。
できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!!
第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!
地球からきた転生者の殺し方 =ハーレム要員の女の子を一人ずつ寝取っていきます
三浦裕
ファンタジー
「地球人てどーしてすぐ転生してくんの!? いや転生してもいいけどうちの世界にはこないで欲しいわけ、迷惑だから。いや最悪きてもいいけどうちの国には手をださんで欲しいわけ、滅ぶから。まじ迷惑してます」
地球から来た転生者に散々苦しめられたオークの女王オ・ルナは憤慨していた。必ずやあのくそ生意気な地球人どもに目にものみせてくれようと。だが――
「しっかし地球人超つえーからのう……なんなのあの針がバカになった体重計みたいなステータス。バックに女神でもついてんの? 勝てん勝てん」
地球人は殺りたいが、しかし地球人強すぎる。悩んだオ・ルナはある妙案を思いつく。
「地球人は地球人に殺らせたろ。むっふっふ。わらわってばまじ策士」
オ・ルナは唯一知り合いの地球人、カトー・モトキにクエストを発注する。
地球からきた転生者を、オークの国にあだなす前に殺ってくれ。
「報酬は……そうじゃのう、一人地球人を殺すたび、わらわにエ、エッチなことしてよいぞ……?」
カトーはその提案に乗る。
「任せとけ、転生者を殺すなんて簡単だ――あいつはハーレム要員の女を寝取られると、勝手に力を失って弱る」
毎日更新してます。
休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった…
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました
峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
貞操逆転で1/100な異世界に迷い込みました
不意に迷い込んだ貞操逆転世界、男女比は1/100、色々違うけど、それなりに楽しくやらせていただきます。
カクヨムで11万文字ほど書けたので、こちらにも置かせていただきます。
ストック切れるまでは毎日投稿予定です
ジャンルは割と謎、現実では無いから異世界だけど、剣と魔法では無いし、現代と言うにも若干微妙、恋愛と言うには雑音多め? デストピア文学ぽくも見えるしと言う感じに、ラブコメっぽいという事で良いですか?
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……
猫缶@睦月
ファンタジー
大学入試試験中の僕、「黒江 一(くろえ はじめ)」は、試験最後の一問を解き、過去最高の出来になるであろう試験結果に満足して、タイムアップの時を待ち軽く目をつぶった……はずだった。
真っ黒な空間で、三年前に死んだ幼馴染『斎藤 一葉(さいとう かずは)』の姿をしたそいつは、遅刻するからと、そのまま僕を引き連れてどこかへと移動していく。
そいつは女神候補生の『アリアンロッド』と名乗り、『アイオライト』という世界に僕を連れて行く。『アイオライト』は、女神への昇級試験なのだそうだ。『アリアンロッド』が管理し、うまく発展させられれば、試験は合格らしい。
そして、僕は遅刻しそうになって近道を通ろうとした『アリアンロッド』に引っ掛けられ、地球から消滅してしまったようだが、こいつ僕のことを蟻とかと一緒だと言い切り、『試験会場への移動中のトラブルマニュアル』に従って、僕を異世界『アイオライト』に転生させやがった。こちらの要望を何一つ聞かず、あいつ自身の都合によって。
大学に合格し、ノンビリするはずの僕は、この世界でどうなるんだろう……
※ 表紙画像は『プリ画像 yami』さん掲載の画像を使用させていただいております。
* エロはありません。グロもほとんど無いはず……
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる