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初級ダンジョン 探索編
戦闘訓練開始
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なんとなく初級ダンジョンの地下三階に降り立ってみると、他の階と違ってひんやりとした空気に包まれた気がした。
首を捻ってその感覚に戸惑っているぼくに、ビアンカさんはニヤニヤと笑い、ぼくの背中をバチンと強めに叩く。
「あら、クルト。二階と三階の違いに気がついたみたいね。なかなか冒険者としてのセンスもいいんじゃない?」
「違い?」
「そうよ。ここからはホーンラビットも出没するから、複数の魔物が持つ魔力で多少空気が変わる感覚がするのよ。クルトもなんとなく違うって思ったんでしょ?」
ビアンカさんにコクンと頷いて、ぼくは改めて三階を見まわしてみた。
あ、二階は孤児院の子供たちが多くいたのに、三階はほとんどが薬師ギルドの人で、集団には必ず一人か二人、盾や剣を持った護衛の人がついている。
「ホーンラビットって強いんですか?」
「んー、初心者だと油断をして怪我をすることもあるな。敏捷な動きについていけないと、角で一突きされる。ただ、その角では肉を深く裂くことはできないから、防具をつけていれば問題はない」
オスカーさんが説明しながら、ぼくの防具をチェックする。
防具が弛んでいないか、隙間ができていないか、丁寧に確認してくれた。
「それに、ポーションもある」
ディーターさんがぼくを安心させるように、ボソッと呟いた。
「さあさあ、ここもサクサク進むわよ。ホーンラビットは出没するけど、たまーに出るぐらいなんだから。早く四階に降りてクルトの戦闘訓練しましょう」
ビアンカさんがディーターさんを追い越して早足で歩いていく。
えっと……ぼくは戦闘訓練をしたいわけではないので、ゆっくりでもいいんですよ?
そんなに三階の奥までは時間もかからずに辿り着いてしまった。
この初級ダンジョンの低層階はあまり広くないみたいだ。
そして、階段で冒険者グループが何組が立ち止まっている。
「何かありました?」
オスカーさんに尋ねると、笑って緩く頭を左右に振られてしまった。
「四階からは魔物がそれなりに出没するから、ああして時間を置いてから降りていくのさ。魔物の取り合いになってしまったり、攻撃が違うギルドの人間に当たったりするのを防ぐためにね」
ぼくたちの前には、三人グループのギルドと四人グループのギルドが待っている。
ぼくたちが最後だった。
十五分ごとぐらいの間隔で、それぞれが階段を降りていく。
「さあ、行こう」
オスカーさんの言葉に盾を置いて座って休んでいたディーターさんが立ち上がり、ビアンカさんが大きく伸びをする。
「クルト。ここからは魔物との戦いもある。気をつけるんだぞ」
「はい!」
わーっ、とうとうダンジョン攻略が始まるんだ……、うっ、緊張してきたかも。
鞄の中からレオがぼくの様子を気にしている。
「……レオ。ちゃんと隠れていて」
鞄の蓋をしっかりと閉めて、大きく深呼吸して、いざ、四階へ!
階段を降りても、今までと変わらない薄暗い洞窟の空間だった。
ただ、前に降りていった冒険者たちが魔物と戦っている声と剣戟の音か微かに聞こえてくる。
「ビ、ビアンカさん。ここからはどんな魔物が出るんですか?」
ちょっと声が震えちゃったけど、こ、怖いわけじゃありません!
「クルトは急にダンジョンアタックが決まったものね。次からは事前に攻略するダンジョンの知識も入れておかないと。えっとね、ここからはスライム、ラット系、ホーンラビットの他にマッドドッグが出るわよ。他の領地にある初級ダンジョンにも共通しているのは、魔法を使う魔物は五階までは出ないことよ」
「だが、弱いが動きが俊敏な魔物が多く、マッドドッグは群れる場合があるから気をつけろ」
「は、はい」
ギュッと鞄のベルトを握りこむぼくに、ディーターさんが目線で杖を持つように訴えてくる。
そ、そうだった。
今日のぼくは魔法使いなので、武器はこの杖だった。
「クルトの魔法の練習にもなるように、私かディーターが魔物の動きを封じたタイミングで魔法を打つように」
「はい。が、がんばります」
昨日のギルドハウスの地下魔法訓練場では魔法が使えるかどうかの確認だけで、実戦らしい練習はしていない。
つまり、ぼくは今日初めて魔物に対して魔法を放つことになる。
静止している的ではなく、動いている魔物に、生きている魔物に魔法を使うのだ。
あ、意識したら足がガクガク震えてきちゃった。
「オスカー。とにかく実践あるべしよ。どうせ、たいしたドロップアイテムはないんだし、とっとと移動して魔物を見つけましょ」
ビアンカさん、なんでそんなに好戦的なんですか?
「あたしはヒマだなー。ここだと弓の練習はできないし……ちぇっ」
確かに、まだ近くに他の冒険者たちがいるから素人の腕前で弓を放つのは危ないですけど、そのフラストレーションをぼくにぶつけないでぇーっ。
「お、ホーンラビットだ。いくぞ!」
なんで、オスカーさんもこんなに早く魔物を見つけちゃうかな?
「ひーん。ま、待ってくださーい」
ホーンラビット相手に攻撃魔法を打つことができるのか、ちょっと不安だけど、ぼく、頑張ります!
首を捻ってその感覚に戸惑っているぼくに、ビアンカさんはニヤニヤと笑い、ぼくの背中をバチンと強めに叩く。
「あら、クルト。二階と三階の違いに気がついたみたいね。なかなか冒険者としてのセンスもいいんじゃない?」
「違い?」
「そうよ。ここからはホーンラビットも出没するから、複数の魔物が持つ魔力で多少空気が変わる感覚がするのよ。クルトもなんとなく違うって思ったんでしょ?」
ビアンカさんにコクンと頷いて、ぼくは改めて三階を見まわしてみた。
あ、二階は孤児院の子供たちが多くいたのに、三階はほとんどが薬師ギルドの人で、集団には必ず一人か二人、盾や剣を持った護衛の人がついている。
「ホーンラビットって強いんですか?」
「んー、初心者だと油断をして怪我をすることもあるな。敏捷な動きについていけないと、角で一突きされる。ただ、その角では肉を深く裂くことはできないから、防具をつけていれば問題はない」
オスカーさんが説明しながら、ぼくの防具をチェックする。
防具が弛んでいないか、隙間ができていないか、丁寧に確認してくれた。
「それに、ポーションもある」
ディーターさんがぼくを安心させるように、ボソッと呟いた。
「さあさあ、ここもサクサク進むわよ。ホーンラビットは出没するけど、たまーに出るぐらいなんだから。早く四階に降りてクルトの戦闘訓練しましょう」
ビアンカさんがディーターさんを追い越して早足で歩いていく。
えっと……ぼくは戦闘訓練をしたいわけではないので、ゆっくりでもいいんですよ?
そんなに三階の奥までは時間もかからずに辿り着いてしまった。
この初級ダンジョンの低層階はあまり広くないみたいだ。
そして、階段で冒険者グループが何組が立ち止まっている。
「何かありました?」
オスカーさんに尋ねると、笑って緩く頭を左右に振られてしまった。
「四階からは魔物がそれなりに出没するから、ああして時間を置いてから降りていくのさ。魔物の取り合いになってしまったり、攻撃が違うギルドの人間に当たったりするのを防ぐためにね」
ぼくたちの前には、三人グループのギルドと四人グループのギルドが待っている。
ぼくたちが最後だった。
十五分ごとぐらいの間隔で、それぞれが階段を降りていく。
「さあ、行こう」
オスカーさんの言葉に盾を置いて座って休んでいたディーターさんが立ち上がり、ビアンカさんが大きく伸びをする。
「クルト。ここからは魔物との戦いもある。気をつけるんだぞ」
「はい!」
わーっ、とうとうダンジョン攻略が始まるんだ……、うっ、緊張してきたかも。
鞄の中からレオがぼくの様子を気にしている。
「……レオ。ちゃんと隠れていて」
鞄の蓋をしっかりと閉めて、大きく深呼吸して、いざ、四階へ!
階段を降りても、今までと変わらない薄暗い洞窟の空間だった。
ただ、前に降りていった冒険者たちが魔物と戦っている声と剣戟の音か微かに聞こえてくる。
「ビ、ビアンカさん。ここからはどんな魔物が出るんですか?」
ちょっと声が震えちゃったけど、こ、怖いわけじゃありません!
「クルトは急にダンジョンアタックが決まったものね。次からは事前に攻略するダンジョンの知識も入れておかないと。えっとね、ここからはスライム、ラット系、ホーンラビットの他にマッドドッグが出るわよ。他の領地にある初級ダンジョンにも共通しているのは、魔法を使う魔物は五階までは出ないことよ」
「だが、弱いが動きが俊敏な魔物が多く、マッドドッグは群れる場合があるから気をつけろ」
「は、はい」
ギュッと鞄のベルトを握りこむぼくに、ディーターさんが目線で杖を持つように訴えてくる。
そ、そうだった。
今日のぼくは魔法使いなので、武器はこの杖だった。
「クルトの魔法の練習にもなるように、私かディーターが魔物の動きを封じたタイミングで魔法を打つように」
「はい。が、がんばります」
昨日のギルドハウスの地下魔法訓練場では魔法が使えるかどうかの確認だけで、実戦らしい練習はしていない。
つまり、ぼくは今日初めて魔物に対して魔法を放つことになる。
静止している的ではなく、動いている魔物に、生きている魔物に魔法を使うのだ。
あ、意識したら足がガクガク震えてきちゃった。
「オスカー。とにかく実践あるべしよ。どうせ、たいしたドロップアイテムはないんだし、とっとと移動して魔物を見つけましょ」
ビアンカさん、なんでそんなに好戦的なんですか?
「あたしはヒマだなー。ここだと弓の練習はできないし……ちぇっ」
確かに、まだ近くに他の冒険者たちがいるから素人の腕前で弓を放つのは危ないですけど、そのフラストレーションをぼくにぶつけないでぇーっ。
「お、ホーンラビットだ。いくぞ!」
なんで、オスカーさんもこんなに早く魔物を見つけちゃうかな?
「ひーん。ま、待ってくださーい」
ホーンラビット相手に攻撃魔法を打つことができるのか、ちょっと不安だけど、ぼく、頑張ります!
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