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ギルド
ギルドの名前
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無言で食べてる。
みんなが無言で、しかもニヤニヤとした顔で食べてる。
――プリン、そんなに衝撃を受けるほどおいしいのかな?
ぼくも一匙掬って口に入れてみる。
うん、何回も卵液を漉したから口当たりは滑らかでプルンとしている。
甘さもちょうどいいし、焦がさないように作ったカラメルが少しビター風味でいいアクセントだ。
いっぱい食べてお腹がパンパンだったけど、このスイーツは苦もなく食べきることができた。
「はー、おいしかった」
はっ! ぼくも無言で食べてしまった。
「クルト!」
「ひゃい!」
珍しくディーターさんが大声でぼくの名前を呼んだ。
「これ、これ!」
プリンをスプーンでツンツンして、ぼくに何かを訴えているけど、なんだろう?
「ふふふ。ディーターはね、甘い物が大好きなのよ。だから、このスイーツが気に入ってお代わりが欲しいんだと思うわ。あたしもお代わりちょーだい」
ビアンカさんの説明にぼくはホッと胸を撫で下ろしたけど、「お代わり」の言葉に全員がお皿を突き出してきた。
レオ、お前もか……。
「お代わりはありますけど。そんなに食べて大丈夫ですか?」
食べすぎでお腹が痛くなりませんか?
「「「「大丈夫!」」」」
見事に声が揃ったし、レオまで頷くように頭を上下に振らなくてもいいんだよ?
ぼくはみんなにプリンのお代わりを配って、特別にミアさんにお土産として渡しました。
「いいの?」
「はい。お父さんと一緒に住んでいるんですよね? お父さんと一緒に召しあがってください」
ニコッとプリンの入った袋を手渡すと、ミアさんはプルプルと震えたあと、ギューッとぼくをハグした。
「いい子や! クルト君はいい子やな!」
むぎゅっ。
く、苦しいですぅぅぅぅ。
「あ、いかん。忘れていた」
オスカーさんがプリンを食べたあとの幸福感を満喫していたのに、急に立ち上がった。
「ギルドの名前を決めないと」
「「あっ!」」
うっとりした恍惚感から、みんな現実に戻ってしまいました。
「一人ずつ考えた名前を出してくれ。ミアも考えてきたよな?」
オスカーさんの目がいつもと違ってキランと光ました。
「えー、やっばうちも考えないとダメか……」
みんな、自分が考えたギルドの名前に自信がないのかな? 嫌ぁーな顔をしています。
よしっ! ここはまずは見習いのぼくから発表しましょう。
「はい! オスカーさん。ぼくが考えてきたギルドの名前です」
「クルト。どんな名前なんだ?」
オスカーさんの期待の籠った表情に、ぼくは胸を張って告げました。
「美味しい食卓です!」
…………。
シーン…………。
あれ?
「うん。うーん。いいとは思うけど……な。そのぅ」
「冒険者ギルドじゃなくて、料理ギルドだと思われないかしら?」
「レストランだと誤解されるかもしれん」
「食材限定の採取依頼が舞い込みそうだね」
「…………ダメでした?」
あ、みんなが苦笑しながらうんと頷いた。
ちぇっ、ダメか……。
そのあともビアンカさんの「愉快な仲間たち」が却下されて、ミアさんの「天上の神々」という名前が恐れ多いと遠慮された。
「なによーっ。じゃあオスカーは何がいいのよ?」
自分の案が却下されて少しむくれているビアンカさんに、オスカーさんは困った顔を向けてボソボソと呟きます。
「え? なに? 聞こえないんだけど?」
「だから…………仲のいい家族……だ」
仲のいい家族……いや、素敵だと思いますけど、やっぱり冒険者ギルドに似付かわしい名前かと聞かれれば微妙です。
「オスカー……」
ビアンカさんとミアさんがかわいそうな子を見る目でオスカーさんを暖かく見つめます。
徐々にオスカーさんの顔が赤くなっていきました。
「わかってる。この名前はなしだ! ディーターは? ディーターの考えて来た名前は?」
オスカーさんにしては早口で捲し立てて、ディーターさんを指名する。
「…………」
あれ? まさかディーターさん、考えなかったとか?
みんながゴクリと唾を飲み込みディーターさんに注目する。
ディーターさんはコクコクとカップに残った紅茶を飲み干し、カチャリとソーサーに戻す。
「……白い輪」
「白い?」
「輪」
ディーターさんはみんなの顔を一人ずつゆっくり見回したあと、コクリと頷きました。
「白はこれから何色にも変わる可能性を。輪は仲間同士の絆」
「ヴァイス」
「クライス」
みんなが口の中で繰り返す言葉。
「いいですね。ぼく、気に入りました!」
「そうだな。いいな。白い輪ギルド」
レオも気に入ったのか、ディーターさんの前でくねくねと体を揺らしている。
「白い輪ギルド。ここから始めよう!」
「「「「おーっ!」」」」
気持ちが盛り上がったのにパーティーがお開きになるのは淋しいけど、これからオスカーさんは決まったギルド名を登録にギルド支部へと出かけなきゃいけないし、ミアさんの帰りが遅くなってもお父さんが心配するだろうし。
ディーターさんはミアさんを送って行くので、一緒にギルドハウスを出ていく。
ぼくとレオ、ビアンカさんでお皿を洗ってお片付けです。
いや、ぼくのスキルを使うのであっという間にキレイになりますけどね。
「ほーんと、クルトのスキルはずこいわね。もう終わっちゃった」
ビアンカさんにはお皿をまとめてシンクまで持ってきてもらって、洗って乾いたお皿をしまってもらいました。
「みなさんが問題なく生活できるためにぼくがいるので」
褒められて嬉しいから、ちょっと照れかくしです。
「あら、魔法郵便だわ」
ぼくたちの前にヒラヒラと鳥の形の紙が飛んできました。
オスカーさん宛でしたが、ビアンカさんが差し出した手の上でパラリと手紙が開いてしまったので、内容が目に入ってしまったのです。
「えっ!」
「ええっ!」
なんと! オスカーさんが実家の侯爵家に頼んでいた大工さんたちが、明日にはこちらへ到着するそうです。
え? じゃあ、明日からこのギルドハウスは工事中で住めなくなるの?
みんなが無言で、しかもニヤニヤとした顔で食べてる。
――プリン、そんなに衝撃を受けるほどおいしいのかな?
ぼくも一匙掬って口に入れてみる。
うん、何回も卵液を漉したから口当たりは滑らかでプルンとしている。
甘さもちょうどいいし、焦がさないように作ったカラメルが少しビター風味でいいアクセントだ。
いっぱい食べてお腹がパンパンだったけど、このスイーツは苦もなく食べきることができた。
「はー、おいしかった」
はっ! ぼくも無言で食べてしまった。
「クルト!」
「ひゃい!」
珍しくディーターさんが大声でぼくの名前を呼んだ。
「これ、これ!」
プリンをスプーンでツンツンして、ぼくに何かを訴えているけど、なんだろう?
「ふふふ。ディーターはね、甘い物が大好きなのよ。だから、このスイーツが気に入ってお代わりが欲しいんだと思うわ。あたしもお代わりちょーだい」
ビアンカさんの説明にぼくはホッと胸を撫で下ろしたけど、「お代わり」の言葉に全員がお皿を突き出してきた。
レオ、お前もか……。
「お代わりはありますけど。そんなに食べて大丈夫ですか?」
食べすぎでお腹が痛くなりませんか?
「「「「大丈夫!」」」」
見事に声が揃ったし、レオまで頷くように頭を上下に振らなくてもいいんだよ?
ぼくはみんなにプリンのお代わりを配って、特別にミアさんにお土産として渡しました。
「いいの?」
「はい。お父さんと一緒に住んでいるんですよね? お父さんと一緒に召しあがってください」
ニコッとプリンの入った袋を手渡すと、ミアさんはプルプルと震えたあと、ギューッとぼくをハグした。
「いい子や! クルト君はいい子やな!」
むぎゅっ。
く、苦しいですぅぅぅぅ。
「あ、いかん。忘れていた」
オスカーさんがプリンを食べたあとの幸福感を満喫していたのに、急に立ち上がった。
「ギルドの名前を決めないと」
「「あっ!」」
うっとりした恍惚感から、みんな現実に戻ってしまいました。
「一人ずつ考えた名前を出してくれ。ミアも考えてきたよな?」
オスカーさんの目がいつもと違ってキランと光ました。
「えー、やっばうちも考えないとダメか……」
みんな、自分が考えたギルドの名前に自信がないのかな? 嫌ぁーな顔をしています。
よしっ! ここはまずは見習いのぼくから発表しましょう。
「はい! オスカーさん。ぼくが考えてきたギルドの名前です」
「クルト。どんな名前なんだ?」
オスカーさんの期待の籠った表情に、ぼくは胸を張って告げました。
「美味しい食卓です!」
…………。
シーン…………。
あれ?
「うん。うーん。いいとは思うけど……な。そのぅ」
「冒険者ギルドじゃなくて、料理ギルドだと思われないかしら?」
「レストランだと誤解されるかもしれん」
「食材限定の採取依頼が舞い込みそうだね」
「…………ダメでした?」
あ、みんなが苦笑しながらうんと頷いた。
ちぇっ、ダメか……。
そのあともビアンカさんの「愉快な仲間たち」が却下されて、ミアさんの「天上の神々」という名前が恐れ多いと遠慮された。
「なによーっ。じゃあオスカーは何がいいのよ?」
自分の案が却下されて少しむくれているビアンカさんに、オスカーさんは困った顔を向けてボソボソと呟きます。
「え? なに? 聞こえないんだけど?」
「だから…………仲のいい家族……だ」
仲のいい家族……いや、素敵だと思いますけど、やっぱり冒険者ギルドに似付かわしい名前かと聞かれれば微妙です。
「オスカー……」
ビアンカさんとミアさんがかわいそうな子を見る目でオスカーさんを暖かく見つめます。
徐々にオスカーさんの顔が赤くなっていきました。
「わかってる。この名前はなしだ! ディーターは? ディーターの考えて来た名前は?」
オスカーさんにしては早口で捲し立てて、ディーターさんを指名する。
「…………」
あれ? まさかディーターさん、考えなかったとか?
みんながゴクリと唾を飲み込みディーターさんに注目する。
ディーターさんはコクコクとカップに残った紅茶を飲み干し、カチャリとソーサーに戻す。
「……白い輪」
「白い?」
「輪」
ディーターさんはみんなの顔を一人ずつゆっくり見回したあと、コクリと頷きました。
「白はこれから何色にも変わる可能性を。輪は仲間同士の絆」
「ヴァイス」
「クライス」
みんなが口の中で繰り返す言葉。
「いいですね。ぼく、気に入りました!」
「そうだな。いいな。白い輪ギルド」
レオも気に入ったのか、ディーターさんの前でくねくねと体を揺らしている。
「白い輪ギルド。ここから始めよう!」
「「「「おーっ!」」」」
気持ちが盛り上がったのにパーティーがお開きになるのは淋しいけど、これからオスカーさんは決まったギルド名を登録にギルド支部へと出かけなきゃいけないし、ミアさんの帰りが遅くなってもお父さんが心配するだろうし。
ディーターさんはミアさんを送って行くので、一緒にギルドハウスを出ていく。
ぼくとレオ、ビアンカさんでお皿を洗ってお片付けです。
いや、ぼくのスキルを使うのであっという間にキレイになりますけどね。
「ほーんと、クルトのスキルはずこいわね。もう終わっちゃった」
ビアンカさんにはお皿をまとめてシンクまで持ってきてもらって、洗って乾いたお皿をしまってもらいました。
「みなさんが問題なく生活できるためにぼくがいるので」
褒められて嬉しいから、ちょっと照れかくしです。
「あら、魔法郵便だわ」
ぼくたちの前にヒラヒラと鳥の形の紙が飛んできました。
オスカーさん宛でしたが、ビアンカさんが差し出した手の上でパラリと手紙が開いてしまったので、内容が目に入ってしまったのです。
「えっ!」
「ええっ!」
なんと! オスカーさんが実家の侯爵家に頼んでいた大工さんたちが、明日にはこちらへ到着するそうです。
え? じゃあ、明日からこのギルドハウスは工事中で住めなくなるの?
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