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君の声を聞かせて
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昔見たアニメのヒーローに憧れた。画面の中のヒーローはどんな大人よりもかっこよく見え、見る子供皆を魅了させた。自分ももちろんその一人で、すっかりハマってしまった。
歳を重ねるに連れ、その憧れは消えはしないが形を変え、アニメの世界に憧れは足を踏み入れた。
現実ではありえない超能力や、事件などが羨ましく見えた。
その世界のキャラ達に憧れるあまり、「キャラ」になりたいと思った僕は、声真似を始めた。
喋り方から声の出し方、色々な発声法を独学ではあったが身に付け、今では、一度聞いた声なら真似できるようになっていた。
それが高校では凄く受けた。色々な有名なキャラの声真似をするだけでクラスメイトから黄色い声援を貰った。男子には国民的アニメのキャラをすれば受けて、女子にはカッコイイ声と評判の声優の声真似をすればモテた。
すごく、楽しかった。
大学生になってもそれは変わらなかった。
漫研というアニメ好きが集まるサークルに入ったり、大学の連れとバンドを組んだりと色々した。そういう活動をしているうちにイケボと噂になり、ちょっとした有名人にもなった。
こうして人気者になって、当然というべきなのかは分からないが、恋人も出来た。もちろん高校生の時も出来たのだが、なぜかあまり長く続くことはなく、キスをしたという程度までの経験止まりだった。
大学生になってから出来た恋人とは、大学生らしい付き合いをした。簡単に言えば、ちょっと自堕落な付き合いだった。
お互い一人暮らしという事もあり、誰の目を気にする訳でもなく、盛った。
「ねぇ、今日は〇〇の声でヤろうよ」
彼女がそうねだってきた。
風情も雰囲気も何も無い言い方だが、付き合って一年にもなるとこういう感じになる。
彼女はオタクの部類に入る人で、お気に入りのイケメンキャラが多数いた。結構頻繁にそのキャラの声真似をせがまれ、時にはそのキャラになりきって性行為をしようと言われた。
特技であるそれで彼女がそれで喜ぶなら、と僕は受け入れていた。
だが____
「あぁっ、いぃっ...!好きぃ...!〇〇...!」
途中、彼女はそう言った。
興奮に滾っていた身体も、たったその一言でなりを潜めた。
「どうしたの...?」
彼女が怪訝そうな顔をして覗き込んでくる、
「ねぇ、好きなのは、その〇〇なの...?」
思わず声真似も何もせず、いつからか出さなくなった地声が久しぶりに出た。
彼女が小さく、えっ、と漏らしたのだけは耳に入った。
「僕のことは...」
彼女は時々、巫山戯てそのキャラの事を彼氏とか夫と呼称して他の人に画像を見せてる時があった。今思えばその時に胸にチクリと何かが刺さる痛みを感じていた。
その時はたかがアニメのキャラに嫉妬なんて、と心の中で自分を嘲笑していた。
でも......。
「僕は〇〇の代わりなの...」
今ここで、高校の時になぜ恋人が出来ても長く続かなかったのか、分かった気がする。
僕は常に、誰かの声で話すことを当たり前とされ、その誰かになりきることを求められてきたからだ。
「もう、いい...」
彼女が何かを言っていた気がするが、僕の耳には届かない。
さっさと服を着て、すぐさま靴を履き、すかさず自宅に向かった。
家に着いた瞬間、部屋着に着替えもせずにソファベッドに倒れ込んだ。
視界が歪む。知らず知らずの間に涙が零れ落ちていたようだ。意外と精神的にくる。
今までしてきた恋愛全てが偽物のごっこ遊びだったのかと思い知らされた感覚は、金槌で頭を殴られたぐらいに衝撃的だった。自分を凄いと褒めてくれた人はどういうつもりだったのだろう。自分に近付いてきた女性はどんな想いだったのだろう。全てが偽物に思えてしまった。
大学を二週間もサボっていると流石に親に連絡が行ったのだろう、親から叱責の電話が入った。
これ以上サボるなら学費は出さないと脅された以上、サボるわけには行かない。行きたくないと我儘を言う身体を叱咤し、無理矢理着替えて家を出た。
大学に着くと、色々な名前も朧気な人達から心配してたと声を掛けられるが、全て無視した。
どうせ、僕は何かのキャラの代わりなのだろ。そう心から侮蔑していたからだ。
そして授業に向かうやいなや、忘れていた。あの彼女と同じ授業だったという事に。
「あ...」
僕の方を見て、何やら不味いという苦虫を噛み潰し顔をした。
それもそうだろう。彼女は男と腕を組んでいたならだ。あの日から連絡を取らなくなり、関係は自然消滅した。それからたった二週間。いやもっと早かったのかもしれないが、もう既に別の恋人ができたそうだ。
「......」
挨拶をする事もなく、教室に入り、隅っこの方の席を陣取った。
結局、みんなそうだ。僕は、僕じゃない誰かを期待してるのか。
そして僕の世界から色が失われた____。
歳を重ねるに連れ、その憧れは消えはしないが形を変え、アニメの世界に憧れは足を踏み入れた。
現実ではありえない超能力や、事件などが羨ましく見えた。
その世界のキャラ達に憧れるあまり、「キャラ」になりたいと思った僕は、声真似を始めた。
喋り方から声の出し方、色々な発声法を独学ではあったが身に付け、今では、一度聞いた声なら真似できるようになっていた。
それが高校では凄く受けた。色々な有名なキャラの声真似をするだけでクラスメイトから黄色い声援を貰った。男子には国民的アニメのキャラをすれば受けて、女子にはカッコイイ声と評判の声優の声真似をすればモテた。
すごく、楽しかった。
大学生になってもそれは変わらなかった。
漫研というアニメ好きが集まるサークルに入ったり、大学の連れとバンドを組んだりと色々した。そういう活動をしているうちにイケボと噂になり、ちょっとした有名人にもなった。
こうして人気者になって、当然というべきなのかは分からないが、恋人も出来た。もちろん高校生の時も出来たのだが、なぜかあまり長く続くことはなく、キスをしたという程度までの経験止まりだった。
大学生になってから出来た恋人とは、大学生らしい付き合いをした。簡単に言えば、ちょっと自堕落な付き合いだった。
お互い一人暮らしという事もあり、誰の目を気にする訳でもなく、盛った。
「ねぇ、今日は〇〇の声でヤろうよ」
彼女がそうねだってきた。
風情も雰囲気も何も無い言い方だが、付き合って一年にもなるとこういう感じになる。
彼女はオタクの部類に入る人で、お気に入りのイケメンキャラが多数いた。結構頻繁にそのキャラの声真似をせがまれ、時にはそのキャラになりきって性行為をしようと言われた。
特技であるそれで彼女がそれで喜ぶなら、と僕は受け入れていた。
だが____
「あぁっ、いぃっ...!好きぃ...!〇〇...!」
途中、彼女はそう言った。
興奮に滾っていた身体も、たったその一言でなりを潜めた。
「どうしたの...?」
彼女が怪訝そうな顔をして覗き込んでくる、
「ねぇ、好きなのは、その〇〇なの...?」
思わず声真似も何もせず、いつからか出さなくなった地声が久しぶりに出た。
彼女が小さく、えっ、と漏らしたのだけは耳に入った。
「僕のことは...」
彼女は時々、巫山戯てそのキャラの事を彼氏とか夫と呼称して他の人に画像を見せてる時があった。今思えばその時に胸にチクリと何かが刺さる痛みを感じていた。
その時はたかがアニメのキャラに嫉妬なんて、と心の中で自分を嘲笑していた。
でも......。
「僕は〇〇の代わりなの...」
今ここで、高校の時になぜ恋人が出来ても長く続かなかったのか、分かった気がする。
僕は常に、誰かの声で話すことを当たり前とされ、その誰かになりきることを求められてきたからだ。
「もう、いい...」
彼女が何かを言っていた気がするが、僕の耳には届かない。
さっさと服を着て、すぐさま靴を履き、すかさず自宅に向かった。
家に着いた瞬間、部屋着に着替えもせずにソファベッドに倒れ込んだ。
視界が歪む。知らず知らずの間に涙が零れ落ちていたようだ。意外と精神的にくる。
今までしてきた恋愛全てが偽物のごっこ遊びだったのかと思い知らされた感覚は、金槌で頭を殴られたぐらいに衝撃的だった。自分を凄いと褒めてくれた人はどういうつもりだったのだろう。自分に近付いてきた女性はどんな想いだったのだろう。全てが偽物に思えてしまった。
大学を二週間もサボっていると流石に親に連絡が行ったのだろう、親から叱責の電話が入った。
これ以上サボるなら学費は出さないと脅された以上、サボるわけには行かない。行きたくないと我儘を言う身体を叱咤し、無理矢理着替えて家を出た。
大学に着くと、色々な名前も朧気な人達から心配してたと声を掛けられるが、全て無視した。
どうせ、僕は何かのキャラの代わりなのだろ。そう心から侮蔑していたからだ。
そして授業に向かうやいなや、忘れていた。あの彼女と同じ授業だったという事に。
「あ...」
僕の方を見て、何やら不味いという苦虫を噛み潰し顔をした。
それもそうだろう。彼女は男と腕を組んでいたならだ。あの日から連絡を取らなくなり、関係は自然消滅した。それからたった二週間。いやもっと早かったのかもしれないが、もう既に別の恋人ができたそうだ。
「......」
挨拶をする事もなく、教室に入り、隅っこの方の席を陣取った。
結局、みんなそうだ。僕は、僕じゃない誰かを期待してるのか。
そして僕の世界から色が失われた____。
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