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七不思議 弐
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文科系の部活というのは基本的に放課後でしか活動しない。だから朝早くに来ても、運動部が朝早くから気合入れて声掛けしているぐらいしか、活動が見られない。
そんな中、美術部の私は朝早くに学校に来て、美術部の活動場である美術室に訪れていた。理由は凄く単純で、美術部で描いている絵が、私一人が飛びぬけて遅れているのだ。コンクールに出すという名目があるので送れるわけにはいかない。先生にも許可を取って、鍵も借りている。自主的に早く来て少しでも絵を進めようと考えたのだ。
ガラリ、と扉を開けると、やけに空気が冷たい。暑くなってきたために、少し薄着にしたのだが、これでは寒すぎるぐらいだ。
不思議に思いながら保管している自分の絵を探す。美術部で描いている絵は準備室の中に保管しており、美術部関係の人間しか入ることはできない。だから何だという話なのだが。しかしこういった、関係者しか入れない場所に立ち入ることができるというのは何だかワクワクしないだろうか。小さい頃はよく、ファミレスにある厨房へ続く入り口等に無性に入りたかったものだ。
美術室というのは様々な授業を行う関係上、色んな教材が置かれている。何も絵を描くだけが美術ではない。時には陶芸も行う。時には彫刻も行う。でも、それでも、轆轤が一クラス分も用意されている学校はこの学校ぐらいな気もするが。そのせいで色んな物が雑多に置かれている。準備室の扉の前には、美術で最も多い、絵を描くので使う、石膏が何体も置かれている。正直な所、私はこの石膏が非常に苦手だ。人間の顔の形をしているくせに表情は無く、肌色からはかけ離れた、真っ白。何だが非常に不気味ではないだろうか。一体でも不気味なのに、それが集合して並んでいる様は私にとっては鳥肌物だ。
(さっさと絵を取ってこよう)
石膏の前を通り過ぎ、扉のノブに手をかけた時。
「うぅ…」
誰かが呻く声が聞こえた。バッ、と振り向くがもちろん誰もいない。それもそうだ。先ほども言った通り、今日は私が先生に自主的に許可を得て、朝早くに来ているのだ。だから誰かが美術室に来るわけがない。
「うぅ…」
また聞こえる。
「だ、誰かいるの…?」
私はそっと呼びかける。誰かいて欲しい、という願望で。しかし正体は現れない。
色んな隠れられそうなもの影を見て回るが、当然、誰もいない。しかし探している間もうなり声はずっと聞こえる。
「うぅ…」
しかも声は、私が苦手な石膏のあたりから聞こえる。近づきたくないが、正体不明のうめき声が聞こえている中絵
を描くなんてとてもではないができない。
恐る恐る、石膏の所に近寄る。
「うぅ…」
やはり石膏のあたりから聞こえる。
「え…」
そして一番声が近くなった時、私は信じられないものを見た。
「うぅ…」
石膏が、涙を流して泣いていたのだ。
その後は走って逃げた。石膏が泣くはずないのに。確かに涙を流していた。あの石膏は一体…。
私はその日を境に、美術部を辞めた。
七不思議 弐 泣く男性像 終
そんな中、美術部の私は朝早くに学校に来て、美術部の活動場である美術室に訪れていた。理由は凄く単純で、美術部で描いている絵が、私一人が飛びぬけて遅れているのだ。コンクールに出すという名目があるので送れるわけにはいかない。先生にも許可を取って、鍵も借りている。自主的に早く来て少しでも絵を進めようと考えたのだ。
ガラリ、と扉を開けると、やけに空気が冷たい。暑くなってきたために、少し薄着にしたのだが、これでは寒すぎるぐらいだ。
不思議に思いながら保管している自分の絵を探す。美術部で描いている絵は準備室の中に保管しており、美術部関係の人間しか入ることはできない。だから何だという話なのだが。しかしこういった、関係者しか入れない場所に立ち入ることができるというのは何だかワクワクしないだろうか。小さい頃はよく、ファミレスにある厨房へ続く入り口等に無性に入りたかったものだ。
美術室というのは様々な授業を行う関係上、色んな教材が置かれている。何も絵を描くだけが美術ではない。時には陶芸も行う。時には彫刻も行う。でも、それでも、轆轤が一クラス分も用意されている学校はこの学校ぐらいな気もするが。そのせいで色んな物が雑多に置かれている。準備室の扉の前には、美術で最も多い、絵を描くので使う、石膏が何体も置かれている。正直な所、私はこの石膏が非常に苦手だ。人間の顔の形をしているくせに表情は無く、肌色からはかけ離れた、真っ白。何だが非常に不気味ではないだろうか。一体でも不気味なのに、それが集合して並んでいる様は私にとっては鳥肌物だ。
(さっさと絵を取ってこよう)
石膏の前を通り過ぎ、扉のノブに手をかけた時。
「うぅ…」
誰かが呻く声が聞こえた。バッ、と振り向くがもちろん誰もいない。それもそうだ。先ほども言った通り、今日は私が先生に自主的に許可を得て、朝早くに来ているのだ。だから誰かが美術室に来るわけがない。
「うぅ…」
また聞こえる。
「だ、誰かいるの…?」
私はそっと呼びかける。誰かいて欲しい、という願望で。しかし正体は現れない。
色んな隠れられそうなもの影を見て回るが、当然、誰もいない。しかし探している間もうなり声はずっと聞こえる。
「うぅ…」
しかも声は、私が苦手な石膏のあたりから聞こえる。近づきたくないが、正体不明のうめき声が聞こえている中絵
を描くなんてとてもではないができない。
恐る恐る、石膏の所に近寄る。
「うぅ…」
やはり石膏のあたりから聞こえる。
「え…」
そして一番声が近くなった時、私は信じられないものを見た。
「うぅ…」
石膏が、涙を流して泣いていたのだ。
その後は走って逃げた。石膏が泣くはずないのに。確かに涙を流していた。あの石膏は一体…。
私はその日を境に、美術部を辞めた。
七不思議 弐 泣く男性像 終
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