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しおりを挟むそのあと彼と話して、私の家で一緒に暮らすことになった。
数ヶ月前に別れた元カレの部屋を、(紫苑くんには申し訳ないけど)彼専用の部屋にすることにした。
ある程度の必要なものは揃っているから、不便には感じないはず。
幸いなことに、この家から高校まではそんなに距離はないみたい。
授業料も、ご両親が残してくれたお金でなんとかなるらしい。
残りの学校生活も楽しく過ごせるといいな、なんてね。
***
一緒に暮らし始めて1ヶ月。
「ただいま」
「おかえりなさい! お姉さん!」
初めて会った時は無口で無表情だった彼が、今では犬系男子へと激変していた。
「今日はお姉さんの大好きなハンバーグだよ!」
「ほんと!? 急いで着替えてくるね!」
つい、私もそのテンションにつられてしまう。
紫苑くんの作る料理はどれも美味しい。
お昼のお弁当まで作ってくれる。
そのおかげで私は、会社でいろいろと聞かれて大変なんだよね。
本当のことは言えないから、紫苑くんには申し訳ないけど自分で作ったってことにしてる……
「お姉さん、美味しい?」
「うん! すっごく美味しいよ!」
「よかった!」
そう言って嬉しそうに微笑む紫苑くん。
「……ん? お姉さん、どうしたの?」
「可愛いなぁって思って…」
言ってから後悔した。
男の子に“可愛い”はダメだよね……
紫苑くんは気にしない様子でにっこりと笑って、私の左手に指を絡めてぎゅっと握った。
「え、」
「お姉さんの方が可愛いよ」
「し、紫苑くん!?」
「照れてる顔も可愛い」
……紫苑くんはたまに意地悪だ。
***
とある休日。
私と紫苑くんは買い物に出かけた。
4月から必要なものを買いに行くから付き合って欲しいと頼まれたのだ。
試着室のカーテンを開けて少し照れたように私に問いかけた。
「どうかな?」
「似合ってるよ」
スーツを着た紫苑くんはすごく大人っぽくてかっこよかった。
「ねぇ、お姉さん。お腹空かない?」
「お腹空いた!」
「じゃあ、あのお店に入ろう?」
「うん、いいよ」
すごい行列だけど……
「高坂です」
「ご予約のお客様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
え!? 予約!?
「お姉さん?」
「あ、ごめん」
慌てて紫苑くんを追いかけた。
「わぁ! 美味しそう!」
いろんなものがあって迷っちゃう!
「俺はこれにする」
「紫苑くんはオムライス好きだね」
「うん。好きだよ」
無邪気に笑う彼を見てなぜか胸が高鳴った。
な、なんでこんなにドキドキするんだろう。
ただ“オムライスが”好きって言っただけなのに……
「お姉さん。決まった?」
「決まったよ」
「じゃあ、注文しようか」
たわいもない会話をして料理が運ばれてくるのを待った。
「お姉さんって…」
不意に紫苑くんの声色が変わった。
「彼氏いるの?」
「え…?」
「今更だけど、俺と暮らしてて大丈夫なのかなって思ったから…」
「いないよ」
「……そっか」
紫苑くんは安心したように息をついた。
どうして急にこんなこと聞くの?
「あの…」
私が口を開いた時、注文した料理が運ばれてきた。
「お姉さん、なんか言った?」
「ううん、なんでもない」
バレないように笑って誤魔化した。
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