2 / 6
2
しおりを挟む
***
アラームの音で目を覚ました。
ゆっくりと体を起こして大きく伸びをする。
リビングに入ると見知らぬ男の子が寝ていた……って、紫苑くんか。
昨日のは夢じゃなかったんだ。
まだ5時半だし起こさないでおこう。
自分の支度を整えて時計をみると、7時半をまわっていた。
早く出ないと!
『ご飯温めて食べてね。鍵は1階の郵便受けに入れといて』と紙に書いて、隣に合鍵を置いた。
「行ってきまーす」
私はあくまでもいつも通り。
何事もなかったかのように、会社でも平然としていた。
本当は少し彼のことが気になっていたけど。
今日は残業なし! 1日お疲れ様! 私!
午後6時過ぎに会社を出て、家に着いたのは午後7時頃。
「ただいまー」
玄関のドアを開けて中に入る。
下をみると昨日の黒いスニーカーがあっ
た。
え!? なんで!?
「ちょっと!」
勢いよくリビングのドアを開けると、エプロン姿の彼がいた。
「どういうこと!?」
「……お礼です」
「私、頼んでないよ?」
「ご飯、作りました」
確かに、美味しそうな匂いがする。
目の前にはミートドリアが……
……んー、食欲には勝てない。
「ご飯食べたら帰ってよ?」
「……です」
彼がなんて言ったのか聞こえなかったけど、今はとりあえず ご飯!!
「いただきます!」
あ、これ素じゃなくて、一から作った味だ……
「すっっごく美味しい!」
私の言葉に、彼の口角が少しだけ上がった気がした。
紫苑くんはご飯の片付けまでしてくれた。
意外と家庭的なのね。
ひと段落ついたところで、彼に問いかけた。
「どうして帰りたくないの?」
「・・・」
下を向いて黙ったまま、何も話そうとはしない。
「場合によっては、私も何か力になれるかもしれないし……理由がわからないのに、いつまでもここに置いておくわけにはいかないよ」
数分後、ようやく顔を上げてゆっくりと口を開いた。
「……俺、家族がいないんです」
衝撃の告白に、どういう反応をすればいいのかわからない。
「両親は先日亡くなりました」
彼の声は微かに震えていた。
「頼れる親戚もいなくて、家は追い出されてどうしようもなくなって……このまま死ぬのかなって思っていたところで、貴女が助けてくれたんです」
「そうだったんだ…」
胸が苦しくなる。
私が手を差し伸べなかったら、彼は今頃どうしていたんだろうか。
「お姉さん…」
今にも泣き出しそうな彼を、思わずぎゅっと抱きしめた。
知らない男子高校生を抱きしめるなんて、大人としてどうかとは思うけど、今はそんなの関係ない。
「……俺を、捨てないで」
それは彼の、心からの叫びだった。
アラームの音で目を覚ました。
ゆっくりと体を起こして大きく伸びをする。
リビングに入ると見知らぬ男の子が寝ていた……って、紫苑くんか。
昨日のは夢じゃなかったんだ。
まだ5時半だし起こさないでおこう。
自分の支度を整えて時計をみると、7時半をまわっていた。
早く出ないと!
『ご飯温めて食べてね。鍵は1階の郵便受けに入れといて』と紙に書いて、隣に合鍵を置いた。
「行ってきまーす」
私はあくまでもいつも通り。
何事もなかったかのように、会社でも平然としていた。
本当は少し彼のことが気になっていたけど。
今日は残業なし! 1日お疲れ様! 私!
午後6時過ぎに会社を出て、家に着いたのは午後7時頃。
「ただいまー」
玄関のドアを開けて中に入る。
下をみると昨日の黒いスニーカーがあっ
た。
え!? なんで!?
「ちょっと!」
勢いよくリビングのドアを開けると、エプロン姿の彼がいた。
「どういうこと!?」
「……お礼です」
「私、頼んでないよ?」
「ご飯、作りました」
確かに、美味しそうな匂いがする。
目の前にはミートドリアが……
……んー、食欲には勝てない。
「ご飯食べたら帰ってよ?」
「……です」
彼がなんて言ったのか聞こえなかったけど、今はとりあえず ご飯!!
「いただきます!」
あ、これ素じゃなくて、一から作った味だ……
「すっっごく美味しい!」
私の言葉に、彼の口角が少しだけ上がった気がした。
紫苑くんはご飯の片付けまでしてくれた。
意外と家庭的なのね。
ひと段落ついたところで、彼に問いかけた。
「どうして帰りたくないの?」
「・・・」
下を向いて黙ったまま、何も話そうとはしない。
「場合によっては、私も何か力になれるかもしれないし……理由がわからないのに、いつまでもここに置いておくわけにはいかないよ」
数分後、ようやく顔を上げてゆっくりと口を開いた。
「……俺、家族がいないんです」
衝撃の告白に、どういう反応をすればいいのかわからない。
「両親は先日亡くなりました」
彼の声は微かに震えていた。
「頼れる親戚もいなくて、家は追い出されてどうしようもなくなって……このまま死ぬのかなって思っていたところで、貴女が助けてくれたんです」
「そうだったんだ…」
胸が苦しくなる。
私が手を差し伸べなかったら、彼は今頃どうしていたんだろうか。
「お姉さん…」
今にも泣き出しそうな彼を、思わずぎゅっと抱きしめた。
知らない男子高校生を抱きしめるなんて、大人としてどうかとは思うけど、今はそんなの関係ない。
「……俺を、捨てないで」
それは彼の、心からの叫びだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる