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しおりを挟むはあ……
残業疲れたなぁ。
帰って一人で呑もうっと。
午後9時半過ぎ。
そんなことを思いながらマンションの植木の横を通る。
……え!? 人が倒れてる!?
「あ、あの…」
声をかけてみる。
もしものことがあったら大変だ。
「大丈夫ですか?」
男の子はすっごく綺麗な顔をしていた。
ゆっくりと目を開けて、大きな瞳で私をみる。
「聞こえてますか?」
「・・・」
なんで何も言わないの?
「と、とりあえず警察に…」
電話をかけようとすると、男の子は私の腕を掴んでそれを制した。
「だ、大丈夫なんですか?」
男の子はコクリと頷く。
「そうですか。気をつけて帰ってくださいね」
私は少し怖くなって、急いでマンションのロビーへと向かった。
さっきの子、本当に大丈夫かな?
家出、とか?
それにしてもどうして口を聞いてくれなかったんだろう? 話せないのかな?
「わっ!」
エレベーターに乗り込み、振り返ると
さっきの男の子が付いてきていた。
「ど、どうしたの!?」
何を聞いても黙ったまま。
とりあえずエレベーターから降りて、ロビーのソファに座った。
すると、男の子のお腹が鳴った。
「もしかして、お腹空いてるの?」
男の子は首を縦に振った。
「……わかった。何か作ってあげる」
もう一度エレベーターに乗り込んで、7階のボタンを押した。
「散らかってるけど気にしないでね」
男の子はペコリと軽く頭を下げて、脱いだ靴をきちんと揃えた。
礼儀はちゃんとしてるんだ。
無口だけど。
「適当に座ってて」
んー、何作ろうかな。
何食べたいか聞いても答えてくれないだろうし……オムライスでいっか。
たまに作っているから、それなりに自信はある。
「はい、おまたせ」
男の子の前にオムライスを置くと、ほんの一瞬だけ表情が明るくなった気がした。
手を合わせて「いただきます」とボソッと呟いた。
「どう? 美味しい?」
私の問いかけに彼は静かに頷いた。
「よかった」
胃袋も掴んだことだし、そろそろ話してくれるかな?
時刻は夜11時をまわっていた。
男の子のご両親も心配しているだろう。
「ねぇ、帰らなくていいの?」
「・・・」
都合の悪いことになると無視かい!
「名前は?」
「……高坂 紫苑」
「年齢は?」
「18」
「ってことは、高校生?」
「うん」
進路で口論になって家出とかそういうオチか。
大きな荷物持ってたし、それなりの覚悟はあるってこと?
でも、どうしてあんなところに……
「親御さんも心配してるだろうし、帰ったほうがいいんじゃない?」
首を横に振る彼。
「いや、帰りたくなくてもさすがに泊めることはできないよ」
「・・・」
悲しそうな目で私を見ないで……
「わ、わかった。今日だけだからね!? その代わり床で寝てよ?」
「……ありがとう、ございます」
お礼くらい大きな声で言ったらどうなの!?
まあ、悪い子じゃなさそうだし大丈夫か。
紫苑くんがお風呂に入っている間に、押入れから来客用の布団を出して、リビングの床に敷いた。
ガチャっとドアが開いて、彼がリビングに入ってきた。
パジャマまで持ってきてたのね……
用意周到じゃん。
「飲み物とかは勝手に飲んでいいから。トイレはリビングを出て左ね。それじゃあ、おやすみ」
彼は私に深く頭を下げて、小さな声で「おやすみなさい」と言った。
あー、明日は9時から会議なんだっけ。
ってことは、7時半には家を出ないとなぁ。
そんなことを思いながらベッドに横になって、そっと目を閉じた。
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