25 / 32
23、黒幕の登場に、また失敗した。
しおりを挟む
手紙に指定されていたのは昔来賓の宿泊施設に使われていた、とある別棟。
第二の寄宿舎からしばらく歩いたところにある離れにあった。
ここは来賓宿泊施設に使われる前は王族が愛人を囲うために建てられたと噂がある場所で、捨てられた愛人の霊が!とかいう噂もあり、誰も気味が悪くて近づかない。
もちろん手入れは定期的にされているだろうが、ちょっと廃墟っぽい感がある。
人の気配がしない夜中だからと言うのもあるのかもしれないが……。
薄気味悪く鳴く鳥がいい演出をしていて、建物を見上げるオルトの喉がごくりと音を立てた。
何だか上の方のカーテンが揺れたような気がする。
気のせいかもしれない。イヤ絶対気のせいであれ。
怖いの苦手なんだけどな、と尻込むが、でも行かなきゃならんのだから、しっかりしろ。
僕はハヴィ、今だけハヴィ……。
オルトは両頬を自分でバシッと叩くと、気合を入れるように大きく足を前に出した。
玄関の扉をノックする。
何度もノックしても誰も返事はない。
そっとドアノブに手をかけると、扉は簡単に開いた。
ゆっくりと扉を開け、中へと入り、左右を見渡す。
やっぱり人の気配はない様子で、意を決するように小さく息を吐くと、歩み始める。
『確か、2階に上がって5つ目の部屋……』
ギシギシと軋む階段を上がると、広い廊下に均等に部屋が並んでいた。
『1、2、3、4……』
目と指で確認しながら、5つ目の扉の前に立つ。
5つ目の扉には小さな花輪の飾りがかけられており、ゆっくりとノックを3回。
部屋からは何も返事はないが、何かが動く音と小さく呻く声が微かに聞こえる。
もしや助けがいる状況にある誰かがいると察し、オルトは急いで扉を開けた。
フードを目深に被り直し、ゆっくりと部屋の中へ。
緊迫した空気に、自分の呼吸が浅くなる。
スゥ、ハァ、スゥ……と無音に響く自分の呼吸。
焦ったって自分が不利になるだけ。
ゆっくりと状況確認のために、深呼吸しながら辺りを見渡した。
今度こそ間違えない。失敗は絶対しない。
自分を言い聞かせるように、もう一度深呼吸をする。
かなり広い部屋だ。
客室だっただろうか、一見すると装飾もなくシンプルな部屋。
扉の作りが右側だったので、左に大きく部屋が伸びているように感じる。
部屋の中心には大きめのテーブルと6脚の椅子。
そして一番奥に天窓付きの大きなベッドが見えた。
人の気配は感じないと思ったところで、ベッドの方からまたうめく声が。
咄嗟に走り寄ろうとすると、扉が外から施錠された音が響く。
『しまった……!』
慌てて振り向きドアノブをガチャガチャと動かすがびくともしない。
焦ったオルトが扉を壊そうと足を上げた瞬間、外から聞き覚えの声が。
「無駄だよぉ、この扉は壊せないよ。」
「……!」
咄嗟に『あ!こいつネチョネチョ!』と言いそうになったが、自分がオルトだとバレるとやばいので、口を押さえる。
顔は似てるが声は全く違う。喋れば自分だと一瞬でバレるだろう。
「残念だなぁ、ハヴィエスくん。
本当は僕がキミを食べたかったんだけどさ、でもそうしたら計画が崩れちゃうんだってさ。」
『計画……?』
口を押さえたままのオルト。
テテは扉の向こうのハヴィが喋らないことを不思議に思いながら話を続ける。
「僕もうこの国にいたら捕まっちゃうからさ、ウェイン様とこの国を出ることにしたんだ。
まさかウェイン様しか残らないって思わなかったけど、この際しょうがないよね。
でもどうしても僕、ハヴィエスくんが心残りでさ。」
「……は?」
しまった声を出してしまった!
慌てて口を押さえるが、偶然にもハヴィの口癖だったこともあり、テテは疑うことなく声が弾む。
「ハヴィエスくんをアンセルくんとくっつけない方法。
ハヴィエスくんは推しだけど、アンセルくんとくっついて欲しくないんだよ。
ハヴィエスくんが結ばれるのは、団長って決まってんの。
だからね、僕がきっかけを作ってあげようと思ってさ。」
あああ、やばい嫌な予感しかしない。
背筋がゾワゾワと謎の緊張感を走らせる。
扉の外のテテに気を取られて、部屋の状況を気にしていなかった。
僕はいつもこうだ。
一つのことに気を取られ、焦るといつも失敗する。
今回こそ慎重に行動したつもりだったのに。
ベッドでうめいてた何かが、ベッドから起き出すのがシルエットでわかる。
そして密封されて気がついた、何かの甘い匂い。
暗くてよくわからなかったが、暗闇に目が慣れてくると何かが煙っていることがわかる。
部屋の奥、ベッドの辺りから……そう、香のような何かが。
「……!」
気がついた時にはもう後ろから捉えられていた。
香の匂いで力が抜けていくのがわかる。
「ひっ……!」
小さく扉から聞こえる悲鳴のような声に、テテは満足げに笑い声を上げた。
「ハヴィエスくんが団長と結ばれるんだと思うと、マジで興奮するよ。
自分の目で結ばれるところを見れないのが本当に残念だけど、もう時間がないんだって。
じゃあ僕はもう行くね。きっかけを作ったお礼なんていらないからね。
推しカップル、どうかお幸せに♡」
オシカップル……?ムスバレル……?
全く理解できない言葉を残し、扉からドタドタと足音が遠ざかっていった。
絶体絶命な今の状況に、オルトは史上最悪な事を思い出した。
しまった、父さんに助けを求めるんじゃなかった、と。
自分の失態を父にまたバレてしまう。
背後から捉えられたままの自分の現状に、絶望しかなかった。
第二の寄宿舎からしばらく歩いたところにある離れにあった。
ここは来賓宿泊施設に使われる前は王族が愛人を囲うために建てられたと噂がある場所で、捨てられた愛人の霊が!とかいう噂もあり、誰も気味が悪くて近づかない。
もちろん手入れは定期的にされているだろうが、ちょっと廃墟っぽい感がある。
人の気配がしない夜中だからと言うのもあるのかもしれないが……。
薄気味悪く鳴く鳥がいい演出をしていて、建物を見上げるオルトの喉がごくりと音を立てた。
何だか上の方のカーテンが揺れたような気がする。
気のせいかもしれない。イヤ絶対気のせいであれ。
怖いの苦手なんだけどな、と尻込むが、でも行かなきゃならんのだから、しっかりしろ。
僕はハヴィ、今だけハヴィ……。
オルトは両頬を自分でバシッと叩くと、気合を入れるように大きく足を前に出した。
玄関の扉をノックする。
何度もノックしても誰も返事はない。
そっとドアノブに手をかけると、扉は簡単に開いた。
ゆっくりと扉を開け、中へと入り、左右を見渡す。
やっぱり人の気配はない様子で、意を決するように小さく息を吐くと、歩み始める。
『確か、2階に上がって5つ目の部屋……』
ギシギシと軋む階段を上がると、広い廊下に均等に部屋が並んでいた。
『1、2、3、4……』
目と指で確認しながら、5つ目の扉の前に立つ。
5つ目の扉には小さな花輪の飾りがかけられており、ゆっくりとノックを3回。
部屋からは何も返事はないが、何かが動く音と小さく呻く声が微かに聞こえる。
もしや助けがいる状況にある誰かがいると察し、オルトは急いで扉を開けた。
フードを目深に被り直し、ゆっくりと部屋の中へ。
緊迫した空気に、自分の呼吸が浅くなる。
スゥ、ハァ、スゥ……と無音に響く自分の呼吸。
焦ったって自分が不利になるだけ。
ゆっくりと状況確認のために、深呼吸しながら辺りを見渡した。
今度こそ間違えない。失敗は絶対しない。
自分を言い聞かせるように、もう一度深呼吸をする。
かなり広い部屋だ。
客室だっただろうか、一見すると装飾もなくシンプルな部屋。
扉の作りが右側だったので、左に大きく部屋が伸びているように感じる。
部屋の中心には大きめのテーブルと6脚の椅子。
そして一番奥に天窓付きの大きなベッドが見えた。
人の気配は感じないと思ったところで、ベッドの方からまたうめく声が。
咄嗟に走り寄ろうとすると、扉が外から施錠された音が響く。
『しまった……!』
慌てて振り向きドアノブをガチャガチャと動かすがびくともしない。
焦ったオルトが扉を壊そうと足を上げた瞬間、外から聞き覚えの声が。
「無駄だよぉ、この扉は壊せないよ。」
「……!」
咄嗟に『あ!こいつネチョネチョ!』と言いそうになったが、自分がオルトだとバレるとやばいので、口を押さえる。
顔は似てるが声は全く違う。喋れば自分だと一瞬でバレるだろう。
「残念だなぁ、ハヴィエスくん。
本当は僕がキミを食べたかったんだけどさ、でもそうしたら計画が崩れちゃうんだってさ。」
『計画……?』
口を押さえたままのオルト。
テテは扉の向こうのハヴィが喋らないことを不思議に思いながら話を続ける。
「僕もうこの国にいたら捕まっちゃうからさ、ウェイン様とこの国を出ることにしたんだ。
まさかウェイン様しか残らないって思わなかったけど、この際しょうがないよね。
でもどうしても僕、ハヴィエスくんが心残りでさ。」
「……は?」
しまった声を出してしまった!
慌てて口を押さえるが、偶然にもハヴィの口癖だったこともあり、テテは疑うことなく声が弾む。
「ハヴィエスくんをアンセルくんとくっつけない方法。
ハヴィエスくんは推しだけど、アンセルくんとくっついて欲しくないんだよ。
ハヴィエスくんが結ばれるのは、団長って決まってんの。
だからね、僕がきっかけを作ってあげようと思ってさ。」
あああ、やばい嫌な予感しかしない。
背筋がゾワゾワと謎の緊張感を走らせる。
扉の外のテテに気を取られて、部屋の状況を気にしていなかった。
僕はいつもこうだ。
一つのことに気を取られ、焦るといつも失敗する。
今回こそ慎重に行動したつもりだったのに。
ベッドでうめいてた何かが、ベッドから起き出すのがシルエットでわかる。
そして密封されて気がついた、何かの甘い匂い。
暗くてよくわからなかったが、暗闇に目が慣れてくると何かが煙っていることがわかる。
部屋の奥、ベッドの辺りから……そう、香のような何かが。
「……!」
気がついた時にはもう後ろから捉えられていた。
香の匂いで力が抜けていくのがわかる。
「ひっ……!」
小さく扉から聞こえる悲鳴のような声に、テテは満足げに笑い声を上げた。
「ハヴィエスくんが団長と結ばれるんだと思うと、マジで興奮するよ。
自分の目で結ばれるところを見れないのが本当に残念だけど、もう時間がないんだって。
じゃあ僕はもう行くね。きっかけを作ったお礼なんていらないからね。
推しカップル、どうかお幸せに♡」
オシカップル……?ムスバレル……?
全く理解できない言葉を残し、扉からドタドタと足音が遠ざかっていった。
絶体絶命な今の状況に、オルトは史上最悪な事を思い出した。
しまった、父さんに助けを求めるんじゃなかった、と。
自分の失態を父にまたバレてしまう。
背後から捉えられたままの自分の現状に、絶望しかなかった。
42
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説

Ωだったけどイケメンに愛されて幸せです
空兎
BL
男女以外にα、β、Ωの3つの性がある世界で俺はオメガだった。え、マジで?まあなってしまったものは仕方ないし全力でこの性を楽しむぞ!という感じのポジティブビッチのお話。異世界トリップもします。
※オメガバースの設定をお借りしてます。

俺がイケメン皇子に溺愛されるまでの物語 ~ただし勘違い中~
空兎
BL
大国の第一皇子と結婚する予定だった姉ちゃんが失踪したせいで俺が身代わりに嫁ぐ羽目になった。ええええっ、俺自国でハーレム作るつもりだったのに何でこんな目に!?しかもなんかよくわからんが皇子にめっちゃ嫌われているんですけど!?このままだと自国の存続が危なそうなので仕方なしにチートスキル使いながらラザール帝国で自分の有用性アピールして人間関係を築いているんだけどその度に皇子が不機嫌になります。なにこれめんどい。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる