悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!

晴森 音夭

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23、黒幕の登場に、また失敗した。

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手紙に指定されていたのは昔来賓の宿泊施設に使われていた、とある別棟。
第二の寄宿舎からしばらく歩いたところにある離れにあった。

ここは来賓宿泊施設に使われる前は王族が愛人を囲うために建てられたと噂がある場所で、捨てられた愛人の霊が!とかいう噂もあり、誰も気味が悪くて近づかない。
もちろん手入れは定期的にされているだろうが、ちょっと廃墟っぽい感がある。
人の気配がしない夜中だからと言うのもあるのかもしれないが……。

薄気味悪く鳴く鳥がいい演出をしていて、建物を見上げるオルトの喉がごくりと音を立てた。
何だか上の方のカーテンが揺れたような気がする。
気のせいかもしれない。イヤ絶対気のせいであれ。

怖いの苦手なんだけどな、と尻込むが、でも行かなきゃならんのだから、しっかりしろ。
僕はハヴィ、今だけハヴィ……。
オルトは両頬を自分でバシッと叩くと、気合を入れるように大きく足を前に出した。

玄関の扉をノックする。
何度もノックしても誰も返事はない。
そっとドアノブに手をかけると、扉は簡単に開いた。

ゆっくりと扉を開け、中へと入り、左右を見渡す。
やっぱり人の気配はない様子で、意を決するように小さく息を吐くと、歩み始める。

『確か、2階に上がって5つ目の部屋……』

ギシギシと軋む階段を上がると、広い廊下に均等に部屋が並んでいた。

『1、2、3、4……』

目と指で確認しながら、5つ目の扉の前に立つ。
5つ目の扉には小さな花輪の飾りがかけられており、ゆっくりとノックを3回。

部屋からは何も返事はないが、何かが動く音と小さく呻く声が微かに聞こえる。
もしや助けがいる状況にある誰かがいると察し、オルトは急いで扉を開けた。

フードを目深に被り直し、ゆっくりと部屋の中へ。
緊迫した空気に、自分の呼吸が浅くなる。
スゥ、ハァ、スゥ……と無音に響く自分の呼吸。

焦ったって自分が不利になるだけ。
ゆっくりと状況確認のために、深呼吸しながら辺りを見渡した。
今度こそ間違えない。失敗は絶対しない。
自分を言い聞かせるように、もう一度深呼吸をする。

かなり広い部屋だ。
客室だっただろうか、一見すると装飾もなくシンプルな部屋。
扉の作りが右側だったので、左に大きく部屋が伸びているように感じる。

部屋の中心には大きめのテーブルと6脚の椅子。
そして一番奥に天窓付きの大きなベッドが見えた。

人の気配は感じないと思ったところで、ベッドの方からまたうめく声が。

咄嗟に走り寄ろうとすると、扉が外から施錠された音が響く。

『しまった……!』

慌てて振り向きドアノブをガチャガチャと動かすがびくともしない。

焦ったオルトが扉を壊そうと足を上げた瞬間、外から聞き覚えの声が。

「無駄だよぉ、この扉は壊せないよ。」

「……!」

咄嗟に『あ!こいつネチョネチョ!』と言いそうになったが、自分がオルトだとバレるとやばいので、口を押さえる。
顔は似てるが声は全く違う。喋れば自分だと一瞬でバレるだろう。

「残念だなぁ、ハヴィエスくん。
本当は僕がキミを食べたかったんだけどさ、でもそうしたら計画が崩れちゃうんだってさ。」

『計画……?』

口を押さえたままのオルト。
テテは扉の向こうのハヴィが喋らないことを不思議に思いながら話を続ける。

「僕もうこの国にいたら捕まっちゃうからさ、ウェイン様とこの国を出ることにしたんだ。
まさかウェイン様しか残らないって思わなかったけど、この際しょうがないよね。
でもどうしても僕、ハヴィエスくんが心残りでさ。」

「……は?」

しまった声を出してしまった!
慌てて口を押さえるが、偶然にもハヴィの口癖だったこともあり、テテは疑うことなく声が弾む。

「ハヴィエスくんをアンセルくんとくっつけない方法。
ハヴィエスくんは推しだけど、アンセルくんとくっついて欲しくないんだよ。
ハヴィエスくんが結ばれるのは、団長って決まってんの。
だからね、僕がきっかけを作ってあげようと思ってさ。」

あああ、やばい嫌な予感しかしない。
背筋がゾワゾワと謎の緊張感を走らせる。
扉の外のテテに気を取られて、部屋の状況を気にしていなかった。
僕はいつもこうだ。
一つのことに気を取られ、焦るといつも失敗する。
今回こそ慎重に行動したつもりだったのに。

ベッドでうめいてた何かが、ベッドから起き出すのがシルエットでわかる。
そして密封されて気がついた、何かの甘い匂い。

暗くてよくわからなかったが、暗闇に目が慣れてくると何かが煙っていることがわかる。
部屋の奥、ベッドの辺りから……そう、香のような何かが。

「……!」

気がついた時にはもう後ろから捉えられていた。
香の匂いで力が抜けていくのがわかる。

「ひっ……!」

小さく扉から聞こえる悲鳴のような声に、テテは満足げに笑い声を上げた。

「ハヴィエスくんが団長と結ばれるんだと思うと、マジで興奮するよ。
自分の目で結ばれるところを見れないのが本当に残念だけど、もう時間がないんだって。
じゃあ僕はもう行くね。きっかけを作ったお礼なんていらないからね。
推しカップル、どうかお幸せに♡」

オシカップル……?ムスバレル……?
全く理解できない言葉を残し、扉からドタドタと足音が遠ざかっていった。

絶体絶命な今の状況に、オルトは史上最悪な事を思い出した。

しまった、父さんに助けを求めるんじゃなかった、と。
自分の失態を父にまたバレてしまう。

背後から捉えられたままの自分の現状に、絶望しかなかった。
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