悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!

晴森 音夭

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21、消えたテテの行方。

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朝、出勤してすぐ知らせを受けて、二人は呆然とする。
オルトに関してはもう、動揺しすぎて顎がガクガクしている。

「いや、間違いなく閉めましたよ!!」

「そうです、二人で確認しましたもん!」

身振り手振りで話す二人が今、自分の目の前で必死になって状況を説明をしている。
焦りながら説明する姿はまるで、水遊びをするガチョウのようだな、とシスルは思いながら見つめていた。

静かに腕組みを解き、そのまま机の上に組み替える。
団長の動きに濡れ衣だなんだと騒いでいた二人もピタリと息を飲んだ。

「そこに関しては大丈夫だ、君たちの無実は証明されている。
夜間の担当者も施錠の確認をしているからな。」

その言葉にハヴィもオルトも、ドッと力が抜けた。
思わず二人で座り込んで抱き合ってしまった程の脱力。
そんな二人を見て、シスルはニヤける口元をそっと隠した。

牢に捉えられた参考人を逃すのは、騎士としても重罪である。
辞める辞めるとは言っている職だが、まだバリバリ席を置いて働いているし、役職という重責もプラスされるところだった。
辞める前に犯罪者とか、絶対嫌すぎる。

ハァーと大きく息を吐き立ち上がると、団長の視線に気がつきシャキッと姿勢を正す。
それを待っていたかの様に、シスルが口を開いた。

「だがこれを第二の不始末だと第一から抗議がきており、君たち二人を取り調べしたいと要請が来ているんだ。」

「「はぁ!?」」

思わずオルトと声が重なった。
そしてお互いの声にびっくりして、お互いの顔を見合わせ、ハッとする。

「ふざけんじゃないっすよ!自分たちの仕事をこっちに押し付けた挙句に、取り逃したこともこっちのせいとか」

先に口を開いたのは怒るオルトで、逆にハヴィは黙ったまま考え込んだ。
そんな二人を見ながら団長が『まぁまぁ落ち着け』と宥めるように手を上下に振る。

「とりあえずそこに関してはこちらも抗議して上にも報告済みだが、こちらに落ち度がないにせよ、昨日の状況を調書として取る必要があるのは、わかるな?」

「そこに関しては、まぁ、はい。」

納得できない顔で口を尖らせながら頷くオルト。
尖らせた口をモニョモニョと動かしながら、さっきから黙って考え込むハヴィを見上げた。
口元に指を置いたまま考え込んでいたが、ふと顔をあげると口を開いた。

「……とりあえず取調べっていつなんです?」

「……午後からだ。」

「それは、向こうが指定してきたんです?」

「そうだ。」

「調査も捜索もまだなのに、先に俺たちを調べる必要は何なんでしょ?」

「そこの意図がわからん。しかも私も一緒、とのことだ。」

「……その場にいなかった団長を取り調べ?」

「そう、らしい。しかもオルトとハヴィは別々に、との事だ。」

「まぁ、話を合わせて来る可能性がありますから、そこは正しい判断だと思いますが……。」

ハヴィの勘が『何かおかしい』と告げていた。
そもそもの手順がおかしい。と言うか、最初からおかしかった。

謹慎中のハヴィたちに『関係者』の取り調べ。
名ばかりの質問項目に、ハヴィたちは殆ど関与していない。
あの場にいたと言う口実のため?何のために?

そしてテテが深夜のうちに逃げたのであれば、分かった時点で捜索が組まれるはずだ。
もちろんうちにも要請が出て、鍵をかけ忘れたと疑われる自分達は分かったうちに呼び出されている筈なのだ。

それなのに朝出勤してから事実を告げられ、午後から事情聴取。
捜索にも要請は来ておらず、第一騎士団が捜索に動いている様子もない。
何かがおかしいも、全てがおかしいのだ。

「……一体、何の罠ですか?これは。」

思わず、ど直球な疑問を団長にぶつけてみる。

オルトは怒りに我を忘れているのか、全く疑っていなかった様子でハヴィの言葉にひどく驚いていた。
驚き戸惑って、ガクガクと震えてまでいた。今度は顎は震えていなかったが、足元が生まれたての子鹿のようだった。
全く、人のことバカだバカだという割にお前が一番抜けてんだよバカ!と言ってやりたいのを我慢して、静かに団長を見上げた。

ハヴィの言葉に団長もニヤリと笑った。

「やはりハヴィもそう思うか?」

「思いますねぇ。差し詰め昨日調書を取りに来ていたのが第一の副団長だったのも気になってたんですよね。
調書の回収なんて新人のする仕事だろうし、何でわざわざ副団長が、と引っ掛かってたんで。」

「……ハヴィ、よく見てたね。僕気が付かなかったよ」

「うん、多分お前は俺に夢中だったしね。」

「誤解のある言い方しないでよ、ハヴィの体調が心配だっただけでしょ、ほら団長が僕を殺しそうな勢いで睨んでるから。」

シスルの含みのある笑顔がまた怖い、とオルトは更に足をガクガクさせていた。

団長は咳払いをすると、引き出しの中から紙の束を出し、机の上に置いた。
オルトがいち早くそれを手に取り、目を文字に滑らせる。

「……まさか。」

「そのまさか、だ。」

オルトもハヴィの言葉の意味がわかったようで、ピンポイントで『ある名前』を探していく。
そして4枚目の紙に視線が映ったところで、オルトが叫んだ。

「ああああ、ありました。テテの関係したリストに、副団長の名前が……!」

「おい、第一副団長って言えよ。副団長だけだと俺もだろ!」

「あ、ね。はいはい。」

ハヴィの叫びを手で払いのけ、かわすオルト。
その様子を見ていた団長も、ゆっくりと頷いた。

「だからな、あっちの取り調べ希望の前に、カテート第一副団長に事前面会を求めることにした。
今回の取り調べを決めた目的や、そもそも誰の申し出でこうなっているのか、あっちは一体どこまで把握しているのか。」

「あー、そうですね。これでこの取り調べが第一副団長独断ならば、もう黒幕が決定打って事ですね。」

ハヴィの答えに「その通り」と団長は微笑んだ。

あー何だ、自分達に報告する前にもう動いてたんだ。
と言うかほぼもう片付いていて、証拠集めに動く感じか。
流石だな、シスル団長。こういうとこ憧れるけど、今となっては、な。
婚約の件聞けずにいるけど、解消の方向で動いてくれているのだろうか。

ハヴィはそう思いながら複雑な思いを誤魔化すように、頭をかいた。
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