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20、いろんな思惑の中での、仕事復帰。
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ハヴィは『誘拐』から救出されたことになっている。
なっているから、調書を受け、今日からめでたく出勤の運びとなった。
アンセルの取り調べを希望したが、近寄ることも許されない。
そりゃそうだ、表向きは加害者と被害者。
被害者が加害者を調書とかありえない話。
分かっているが、ダメ元で聞いてみた。そしてやっぱりダメで、ちょっと落ち込む。
オルトも何故か誘拐ほう助の疑いをかけられたため、アンセルの収容されている取調室には近寄れなかった。
「ふざけんなこんな職場やめてやる」
「……いや落ち着けって。」
落ち着いてられるかもうすでに3日も経っているんだぞ!!
行き場の無い怒りと虚しさに、イライラが止まらず。
そして、アンセルの無事が心配で夜も眠れない。
ご飯は食べているかとか、抑えられ連行された時に怪我はないかとか。
部下を捕まえ吐けこのやろーと逆に取り調べをするのだが、誰一人アンセルの様子を口を割らなかった。
「さすがじゃん第二騎士団。」
確かにどれだけ拷問(くすぐり)をしても誰も口を割らないとかうちの部下は優秀だ。
「だけどさぁ、ちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃんよ……。」
せめてオルトみたく三食元気に食べて寝てるかだけでも教えて欲しいと、そう思っていた。
「口を割らないって事は、ハヴィの部下教育の賜物って事じゃん。」
「そうなんだけどさ。」
そうなんだけど、部下ならちょっとぐらい教えてくれてもなんて言う邪な気持ちもあって、複雑で心配で気になってしょうがないのだ。
父に調べてもらうように頼んだが、オルトの時と違い優れた諜報部でも探れない、と全く情報が入ってこない。
そのせいかハヴィが日に日に弱っていっていく気がする。
オルトはこんなにまだふっくらしたほっぺをしているというのに、ハヴィの頬がこけてきたきがする。
あまり寝られてないのか、うっすらと目の下にクマも見えた。
なんとかしてやりたいが、今回のアンセルの警備はかな厳重だった。
そんな時オルトに取り調べの仕事が入ってきた。
アンセルの取り調べじゃないのは分かっているが、あそこに入れることで少しは情報が入るのでは?と期待してハヴィと一緒にやることを希望した。
まぁコンビなんだから、その件にはすんなりと許可が降りたけど。
「……って、ネチョネチョかよ。」
「え?何そのネチョネチョって?」
ハヴィがえらく機嫌の悪い顔を全面に出して、どっかりと座った。
普段は少しは隠すのだ、大人だからと。
だかテテには一切隠さず不快感を露わにしていた。
多分最初の段階でハヴィに敵認定されたのだろう。かわいそうに。
だがそんな可哀想でもなさそうだ。空気が読めないのか、ネチョネチョと呼ばれた人物はブリっと目をキュルキュル輝かせながら首を傾げていた。
「……それでは取り調べを開始しますね。」
オルトは全てを華麗にスルーして、書記官に合図をするとハヴィの横に座った。
机を挟んでテテが前に座っている。
ソワソワと落ち着かなく体を揺らしながら、時折恥ずかしそうにチラチラとハヴィを見つめ、頬を染めていた。
「てかここでハヴィエスくんに会えるとか、ついてるぅ!」
そう言いながら小さくガッツポーズをしている。
何だこの生き物は今の現状がわからんのだろうか。
オルトは若干、いやかなりドン引いていた。
同じ学園に通っていた人間とは思えない、と。
オルトやハヴィ、アンセルが通っていた学園はかなり高レベルの学校で、規律や常識を重んじ厳しい教育をすることで有名だった。
だからこそ上位の貴族の子が多く通う場所だったのだ。
そんなながらも特待生という枠があり、下位の貴族や平民でも学力や能力が優れていると判断されると、入学できる生徒もいるのだが。
テテがなぜ入学出来たかなんて、卒業した今もわからなかった。
「お前に名前を呼ぶ許可なんか出してないが?てかなんだお前、誰だよ。」
「え、僕を知ってるでしょ?あの時目の前にいたじゃん!」
目をウルウルさせながら媚びるようにハヴィを見つめるが、関わっても時間の無駄だと思ったのか、ハヴィはテテ仕草を完全無視していた。
「どーでもいいわ、さっさと始めようぜ。」
どうせ第一が、概ね全部調べてんだし。
あとはあの時の状況を照らし合わせするだけだ。
あの時は第一がアンセルを、『王太子の命令』で拘束した。
だから第一騎士団は命令に沿っただけ、という確証を得るために第二に取り調べをさせるのだ。
要は『僕らは悪くないもん!命令に従っただけだもん!』という保身のため。
後々ストーン公爵から文句を言われても正当化するための証明だろう。
何とも小狡い、第一め。
正直、仕事じゃないなら第一の保身のための聞き取り調査などしたくない。
命令でも何でも、あんな事は従うべきじゃないと私情を挟みまくりの胸の内である。
というか総合責任者があの時いなくなった訳で、あの会場の騒動は誰が責任を負ったのだろう?
ハヴィじゃない事は確かなので、有耶無耶にされて終わったのかもしれない。
と言うか、聞くことなんか何もない。ただの形だけの取り調べ。
どうせ提出する調書はもう最初から出来てるんだろう。
書記官でさえ、ペンを持ったままボケーっとしているし。
もう何も聞かなくとも『相違ありません』でいい気がしてきた。
こんな奴と一言だって喋りたくないのだ。
そんな太々しい態度のハヴィにテテは目を輝かせていた。
「ずっと会いたかったんだよ、ハヴィエスくん」
「だからなんで。俺はお前のこと知らないつの。」
「えー何度も話したことあるじゃん、おかしいなイベント通りに何度も行動したのに……」
何だかブツブツ独り言を呟くテテにハヴィとオルトは困惑した。
「……はい、それでは今日の取調べは以上になります。」
第一から渡された質問項目をちゃっちゃと全てチェックし終え、オルトがそうテテに告げながら
書記官に書類を手渡す。
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、テテはハヴィに近寄った。
するりとイスをハヴィの横へ持っていき、まるで恋人みたいに腕を組む。
そして媚びるような視線を自分に送るテテに、ハヴィは明らかにイラついていた。
「ね?僕はハヴィエスくんのことも前から気になってたんだよぉ。
そもそも僕、キミが1番の推しだったんだし。
でもチャーたんが一番難易度低くてさ、チャーたんは誰も攻略できなかった時の保険もあったけど……。
あー本物をこんな近くで見て、キミに触れるなんて……!」
ハヴィがじっとしているのをいい事に、ベタベタと腕や手を絡めて触りまくっている。
オルトはそろそろやばいと思い、ハヴィからテテを引き離そうとするが、巻きついた蔦のように離れない。
「はい、取り調べは終わりましたのでさっさと檻に戻りましょー!ね、早く戻って!命が惜しいなら!」
ずっとハヴィが押し黙ったまま固まっている。これはますますヤバいとオルトが焦る。
「君も怪我したくないでしょ?騎士の勤務中に身体に触れるのはダメだって学校で教えてもらった筈だけどな?ほら早くし」
「さっきから近くでネチョネチョうるせーんだが?」
「あー、遅かった。」
調子に乗ったテテがサッと手を伸ばし、ハヴィの顔に触れようと瞬間。
我慢の限界になったハヴィの手が、テテの腕をグリッと逆に捻じ上げた。
「ヒィッ」
「誰彼構わずアメーバーの如く付き纏いやがて。お前がやった事は外交問題になるってわかってる?
王太子を手玉に取った挙句、そこら辺の貴族の息子や、ましては隣国の王子にまで手を出しまくってめちゃくちゃ問題になってんだぞ?
そもそも隣国の王子がお前なんかの誘惑に乗るわけがないだろう!」
ギリギリと腕を締め上げる度に、テテがポロポロと涙を流す。
「テテ、そんな難しいのわかんないよぉ!」
ふええと口で言いながら涙目で痛がるネチョネチョに、もはや嫌悪感しか湧かない。
ハヴィがマジで切れる前にと、オルトがさっさとテテを引き離し、檻へと戻しにいった。
ハヴィも渋々とオルトの後について歩き、やっとテテから解放されたのだった。
大きくため息を吐きながらどっかりと座り込む。ハヴィは酷く疲れているようにも見えた。
「ハヴィ……大丈夫?」
そっとコーヒーを差し出しながら、オルトがハヴィの顔を覗き込んだ。
「全然全く大丈夫じゃない。」
触られてイヤだったのだろう、パッパと何度も服の袖を払う仕草をしていた。
まぁそうだろうけども、とオルトも小さく息を吐きながら自分のカップに口をつけた。
しばらく無言が続く。
次の取り調べもないので、このまま二人でダラダラと居座っている。
どうせ謹慎仕事ばかりで、他にすることもない。
書記官は早々に、書類を取りに来た第一の騎士と共に退室済みだ。
そんな中沈黙を破ったのはオルトだった。
「そろそろご飯ちゃんと食べないと、倒れちゃうよ?」
「わかってるよ。」
「んー、でも、眠れてもないでしょ?」
「わかってる。」
「……」
続かない会話。
さっきからカップに口をつけているのは自分だけ。
カップの縁を指先で撫でるだけで、ずっと何かを考え込んでいるハヴィ。
オルトは困ったようにハヴィを見つめるが、一向に目線が合わない。
ハヴィはずっと俯いたままだった。
「……わかってんだけどさ。」
「うん。」
ふと、ハヴィの声がくぐもった。
俯いているのではっきりと顔は見えないが、何だか泣いているようにも見えてオルトは強引に椅子ごとハヴィの側に寄り添った。
コツンと当たる頭をくっつけたままで、オルトがぎゅっとハヴィを抱きしめる。
「アンセル、きっと無事だよ。だってしぶといもん。」
「ふはっ」
アンセルも同じこと言ってたなっと思い出し、思わず吹き出してしまった。
それでも顔を上げることができない。
何でこうなったのか、何度考えても原因が分からないのだ。
そもそも自分がいないところで婚約が成立するのもおかしなことだ。
王族から退いた~とか何とか言いつつ、王族の力使うとか何なのアイツ。
憧れてはいたが、今はただただ腹立たしい恨めしい存在となっていた。
「ねえほんとに辞めちゃうの?」
オルトの言葉に大きく息を吐いた。
「もう誰も信用できないし、もう騎士としての俺のやるべきことはやり切った。」
一体何が悪かったのか。
ずっと答えの出ない反省と後悔が渦巻き、眠れないのだ。
眠れない上に食欲もなく、ただひたすら自分に怒りが湧いて止まらない。
勘違いをさせた自分が悪いのか。
そもそもこんなに色々タイミングがいいなんて、奇跡としか思えない。
そんなのどうすることも出来ないではないか。
どうすることもできない思いに、こうなったら今度は自分がアンセルを誘拐して逃亡するしかないと。
この時多分、ハヴィは極限まで追い詰められていた。
ここまで全てオルトは、ハヴィの考えが手に取るようにわかっていた。
ハヴィが単純だからもあるが、所々で声に出していたから。
小さく『うんそれ不敬』『それ犯罪だから』とツッコミを入れていたが、きっと聞こえていないだろう。
何だか婚約式の前の様子を思い出す。あの時もハヴィはこうやって僕の話を聞いてなかったなぁと。
今思えば、懐かしい。あの時に戻れたら何か変われるのだろうか。
「ハヴィが騎士団を辞めるなら、僕はどうしようかな。」
父親の元で諜報に戻ってもいいし、妹と組んでもいいなぁと。
クロアの仕事はいくらでもあるだろう。
ここの仕事より自分に向いているのかもしれないと、前向きに考えていた。
そもそもハヴィと離れると言う選択肢がないのも、自分で笑ってしまう。
物心ついた時から一緒だった。だからこそ、ずっと側にいて憎まれ口を叩いてやりたい。
だけど今はその時じゃないと思っている。本当に限界を迎える前に、ハヴィが暴走する前にやらなくちゃ。
「どうにかアンセルを助けられる方法、考えなきゃ……。」
二人の大きく長いため息は同時だった。
時間いっぱいまでくつろいで、再びテテの牢の施錠を指差し確認。
その間もめちゃくちゃハヴィに色目を使って来たので、ゾゾゾと背筋に何かが走った。
なので足速に取り調べ室から出ていった。
見えない位置だがこの取調室の檻の中に、王太子もいるのによくやるよと。
正直テテが何を考えてるのか全く理解できない。
そんな事を考えながら後にした取調室。
ちゃんと戸締りを二人で確認したのに、一晩明けるとテテが牢からいなくなっていた。
なっているから、調書を受け、今日からめでたく出勤の運びとなった。
アンセルの取り調べを希望したが、近寄ることも許されない。
そりゃそうだ、表向きは加害者と被害者。
被害者が加害者を調書とかありえない話。
分かっているが、ダメ元で聞いてみた。そしてやっぱりダメで、ちょっと落ち込む。
オルトも何故か誘拐ほう助の疑いをかけられたため、アンセルの収容されている取調室には近寄れなかった。
「ふざけんなこんな職場やめてやる」
「……いや落ち着けって。」
落ち着いてられるかもうすでに3日も経っているんだぞ!!
行き場の無い怒りと虚しさに、イライラが止まらず。
そして、アンセルの無事が心配で夜も眠れない。
ご飯は食べているかとか、抑えられ連行された時に怪我はないかとか。
部下を捕まえ吐けこのやろーと逆に取り調べをするのだが、誰一人アンセルの様子を口を割らなかった。
「さすがじゃん第二騎士団。」
確かにどれだけ拷問(くすぐり)をしても誰も口を割らないとかうちの部下は優秀だ。
「だけどさぁ、ちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃんよ……。」
せめてオルトみたく三食元気に食べて寝てるかだけでも教えて欲しいと、そう思っていた。
「口を割らないって事は、ハヴィの部下教育の賜物って事じゃん。」
「そうなんだけどさ。」
そうなんだけど、部下ならちょっとぐらい教えてくれてもなんて言う邪な気持ちもあって、複雑で心配で気になってしょうがないのだ。
父に調べてもらうように頼んだが、オルトの時と違い優れた諜報部でも探れない、と全く情報が入ってこない。
そのせいかハヴィが日に日に弱っていっていく気がする。
オルトはこんなにまだふっくらしたほっぺをしているというのに、ハヴィの頬がこけてきたきがする。
あまり寝られてないのか、うっすらと目の下にクマも見えた。
なんとかしてやりたいが、今回のアンセルの警備はかな厳重だった。
そんな時オルトに取り調べの仕事が入ってきた。
アンセルの取り調べじゃないのは分かっているが、あそこに入れることで少しは情報が入るのでは?と期待してハヴィと一緒にやることを希望した。
まぁコンビなんだから、その件にはすんなりと許可が降りたけど。
「……って、ネチョネチョかよ。」
「え?何そのネチョネチョって?」
ハヴィがえらく機嫌の悪い顔を全面に出して、どっかりと座った。
普段は少しは隠すのだ、大人だからと。
だかテテには一切隠さず不快感を露わにしていた。
多分最初の段階でハヴィに敵認定されたのだろう。かわいそうに。
だがそんな可哀想でもなさそうだ。空気が読めないのか、ネチョネチョと呼ばれた人物はブリっと目をキュルキュル輝かせながら首を傾げていた。
「……それでは取り調べを開始しますね。」
オルトは全てを華麗にスルーして、書記官に合図をするとハヴィの横に座った。
机を挟んでテテが前に座っている。
ソワソワと落ち着かなく体を揺らしながら、時折恥ずかしそうにチラチラとハヴィを見つめ、頬を染めていた。
「てかここでハヴィエスくんに会えるとか、ついてるぅ!」
そう言いながら小さくガッツポーズをしている。
何だこの生き物は今の現状がわからんのだろうか。
オルトは若干、いやかなりドン引いていた。
同じ学園に通っていた人間とは思えない、と。
オルトやハヴィ、アンセルが通っていた学園はかなり高レベルの学校で、規律や常識を重んじ厳しい教育をすることで有名だった。
だからこそ上位の貴族の子が多く通う場所だったのだ。
そんなながらも特待生という枠があり、下位の貴族や平民でも学力や能力が優れていると判断されると、入学できる生徒もいるのだが。
テテがなぜ入学出来たかなんて、卒業した今もわからなかった。
「お前に名前を呼ぶ許可なんか出してないが?てかなんだお前、誰だよ。」
「え、僕を知ってるでしょ?あの時目の前にいたじゃん!」
目をウルウルさせながら媚びるようにハヴィを見つめるが、関わっても時間の無駄だと思ったのか、ハヴィはテテ仕草を完全無視していた。
「どーでもいいわ、さっさと始めようぜ。」
どうせ第一が、概ね全部調べてんだし。
あとはあの時の状況を照らし合わせするだけだ。
あの時は第一がアンセルを、『王太子の命令』で拘束した。
だから第一騎士団は命令に沿っただけ、という確証を得るために第二に取り調べをさせるのだ。
要は『僕らは悪くないもん!命令に従っただけだもん!』という保身のため。
後々ストーン公爵から文句を言われても正当化するための証明だろう。
何とも小狡い、第一め。
正直、仕事じゃないなら第一の保身のための聞き取り調査などしたくない。
命令でも何でも、あんな事は従うべきじゃないと私情を挟みまくりの胸の内である。
というか総合責任者があの時いなくなった訳で、あの会場の騒動は誰が責任を負ったのだろう?
ハヴィじゃない事は確かなので、有耶無耶にされて終わったのかもしれない。
と言うか、聞くことなんか何もない。ただの形だけの取り調べ。
どうせ提出する調書はもう最初から出来てるんだろう。
書記官でさえ、ペンを持ったままボケーっとしているし。
もう何も聞かなくとも『相違ありません』でいい気がしてきた。
こんな奴と一言だって喋りたくないのだ。
そんな太々しい態度のハヴィにテテは目を輝かせていた。
「ずっと会いたかったんだよ、ハヴィエスくん」
「だからなんで。俺はお前のこと知らないつの。」
「えー何度も話したことあるじゃん、おかしいなイベント通りに何度も行動したのに……」
何だかブツブツ独り言を呟くテテにハヴィとオルトは困惑した。
「……はい、それでは今日の取調べは以上になります。」
第一から渡された質問項目をちゃっちゃと全てチェックし終え、オルトがそうテテに告げながら
書記官に書類を手渡す。
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、テテはハヴィに近寄った。
するりとイスをハヴィの横へ持っていき、まるで恋人みたいに腕を組む。
そして媚びるような視線を自分に送るテテに、ハヴィは明らかにイラついていた。
「ね?僕はハヴィエスくんのことも前から気になってたんだよぉ。
そもそも僕、キミが1番の推しだったんだし。
でもチャーたんが一番難易度低くてさ、チャーたんは誰も攻略できなかった時の保険もあったけど……。
あー本物をこんな近くで見て、キミに触れるなんて……!」
ハヴィがじっとしているのをいい事に、ベタベタと腕や手を絡めて触りまくっている。
オルトはそろそろやばいと思い、ハヴィからテテを引き離そうとするが、巻きついた蔦のように離れない。
「はい、取り調べは終わりましたのでさっさと檻に戻りましょー!ね、早く戻って!命が惜しいなら!」
ずっとハヴィが押し黙ったまま固まっている。これはますますヤバいとオルトが焦る。
「君も怪我したくないでしょ?騎士の勤務中に身体に触れるのはダメだって学校で教えてもらった筈だけどな?ほら早くし」
「さっきから近くでネチョネチョうるせーんだが?」
「あー、遅かった。」
調子に乗ったテテがサッと手を伸ばし、ハヴィの顔に触れようと瞬間。
我慢の限界になったハヴィの手が、テテの腕をグリッと逆に捻じ上げた。
「ヒィッ」
「誰彼構わずアメーバーの如く付き纏いやがて。お前がやった事は外交問題になるってわかってる?
王太子を手玉に取った挙句、そこら辺の貴族の息子や、ましては隣国の王子にまで手を出しまくってめちゃくちゃ問題になってんだぞ?
そもそも隣国の王子がお前なんかの誘惑に乗るわけがないだろう!」
ギリギリと腕を締め上げる度に、テテがポロポロと涙を流す。
「テテ、そんな難しいのわかんないよぉ!」
ふええと口で言いながら涙目で痛がるネチョネチョに、もはや嫌悪感しか湧かない。
ハヴィがマジで切れる前にと、オルトがさっさとテテを引き離し、檻へと戻しにいった。
ハヴィも渋々とオルトの後について歩き、やっとテテから解放されたのだった。
大きくため息を吐きながらどっかりと座り込む。ハヴィは酷く疲れているようにも見えた。
「ハヴィ……大丈夫?」
そっとコーヒーを差し出しながら、オルトがハヴィの顔を覗き込んだ。
「全然全く大丈夫じゃない。」
触られてイヤだったのだろう、パッパと何度も服の袖を払う仕草をしていた。
まぁそうだろうけども、とオルトも小さく息を吐きながら自分のカップに口をつけた。
しばらく無言が続く。
次の取り調べもないので、このまま二人でダラダラと居座っている。
どうせ謹慎仕事ばかりで、他にすることもない。
書記官は早々に、書類を取りに来た第一の騎士と共に退室済みだ。
そんな中沈黙を破ったのはオルトだった。
「そろそろご飯ちゃんと食べないと、倒れちゃうよ?」
「わかってるよ。」
「んー、でも、眠れてもないでしょ?」
「わかってる。」
「……」
続かない会話。
さっきからカップに口をつけているのは自分だけ。
カップの縁を指先で撫でるだけで、ずっと何かを考え込んでいるハヴィ。
オルトは困ったようにハヴィを見つめるが、一向に目線が合わない。
ハヴィはずっと俯いたままだった。
「……わかってんだけどさ。」
「うん。」
ふと、ハヴィの声がくぐもった。
俯いているのではっきりと顔は見えないが、何だか泣いているようにも見えてオルトは強引に椅子ごとハヴィの側に寄り添った。
コツンと当たる頭をくっつけたままで、オルトがぎゅっとハヴィを抱きしめる。
「アンセル、きっと無事だよ。だってしぶといもん。」
「ふはっ」
アンセルも同じこと言ってたなっと思い出し、思わず吹き出してしまった。
それでも顔を上げることができない。
何でこうなったのか、何度考えても原因が分からないのだ。
そもそも自分がいないところで婚約が成立するのもおかしなことだ。
王族から退いた~とか何とか言いつつ、王族の力使うとか何なのアイツ。
憧れてはいたが、今はただただ腹立たしい恨めしい存在となっていた。
「ねえほんとに辞めちゃうの?」
オルトの言葉に大きく息を吐いた。
「もう誰も信用できないし、もう騎士としての俺のやるべきことはやり切った。」
一体何が悪かったのか。
ずっと答えの出ない反省と後悔が渦巻き、眠れないのだ。
眠れない上に食欲もなく、ただひたすら自分に怒りが湧いて止まらない。
勘違いをさせた自分が悪いのか。
そもそもこんなに色々タイミングがいいなんて、奇跡としか思えない。
そんなのどうすることも出来ないではないか。
どうすることもできない思いに、こうなったら今度は自分がアンセルを誘拐して逃亡するしかないと。
この時多分、ハヴィは極限まで追い詰められていた。
ここまで全てオルトは、ハヴィの考えが手に取るようにわかっていた。
ハヴィが単純だからもあるが、所々で声に出していたから。
小さく『うんそれ不敬』『それ犯罪だから』とツッコミを入れていたが、きっと聞こえていないだろう。
何だか婚約式の前の様子を思い出す。あの時もハヴィはこうやって僕の話を聞いてなかったなぁと。
今思えば、懐かしい。あの時に戻れたら何か変われるのだろうか。
「ハヴィが騎士団を辞めるなら、僕はどうしようかな。」
父親の元で諜報に戻ってもいいし、妹と組んでもいいなぁと。
クロアの仕事はいくらでもあるだろう。
ここの仕事より自分に向いているのかもしれないと、前向きに考えていた。
そもそもハヴィと離れると言う選択肢がないのも、自分で笑ってしまう。
物心ついた時から一緒だった。だからこそ、ずっと側にいて憎まれ口を叩いてやりたい。
だけど今はその時じゃないと思っている。本当に限界を迎える前に、ハヴィが暴走する前にやらなくちゃ。
「どうにかアンセルを助けられる方法、考えなきゃ……。」
二人の大きく長いため息は同時だった。
時間いっぱいまでくつろいで、再びテテの牢の施錠を指差し確認。
その間もめちゃくちゃハヴィに色目を使って来たので、ゾゾゾと背筋に何かが走った。
なので足速に取り調べ室から出ていった。
見えない位置だがこの取調室の檻の中に、王太子もいるのによくやるよと。
正直テテが何を考えてるのか全く理解できない。
そんな事を考えながら後にした取調室。
ちゃんと戸締りを二人で確認したのに、一晩明けるとテテが牢からいなくなっていた。
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