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17,5、みんなが心配していたオルトは実はこんな感じでした。
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「ねー、することなくて食べて寝ることしか出来ないんだけど!」
同僚達を相手にゴネにゴネて、取調室の檻の中で書類仕事をさせてもらっていた。
行動範囲がほぼほぼベッドの上しかない。
このままだとオルトはまん丸になりそうだ、と危惧していた。
何せ檻の中にいるだけでオルトを不憫に思った後輩や同僚が、餌付けという名の差し入れをしてくるからだ。
何なら普段よりいいものを食べている気がしないでもない。
思わず自分の腹回りを見つめる。
なんかちょっとお腹周りが。
怖々と自分のシャツを捲ると、プ二ッとした横っ腹をひとつまみ。
いやこれは肉ではない皮なのだ。
今自分がつまんでいるのは皮。
つまんだプニっとしたものを見つめて固まっていると、横から手が伸びてくる。
「本当だ、いい感じに摘めるな」
つままれた手にびくりと体をこわばらせた。
自分の腹を摘んでいるのは、ここに閉じ込められた元凶だった。
にっこりと微笑みながら自分の肉……イヤ、皮を揉んでいる団長に向かって口を開いた。
「あの、そろそろ僕ここから出たいのですが……」
媚び諂うように嘘くさい笑みを浮かべ、手を揉む。
何なら差し入れで一番美味しかったフルーツの焼き菓子を賄賂に渡す勢いで。
だが団長はそんなオルトを見つめると、ニッコリと微笑んだ。
「ダメだ。」
「そんなぁぁあ!三文字ぃぃぃ!」
がっくりと項垂れると、団長が思わずクスッと笑う。
「わかってくれ、全てが終わるまで出すことが出来んのだ。」
「そうでしょうけども……」
わかってるさ、僕が選択を間違えたんだ。
あそこで本人に突き返すべきじゃなかったんだ。
でもこのままだと指名手配が承認されてしまうじゃないか、と焦っていたのもあったから。
王太子の取り調べがそろそろ完了し、団長が出した申請がそろそろ通ってしまうのだ。
そしたらアンセルの指名手配も無実?の誘拐罪も『本当』になってしまう。
拗らせカップルが二人で婚前旅行しただけだろと。
もうバカとの婚約も解消されたんだし、サッサとくっつけばいいのにアイツら。
だからいつも言ってたんだ両思いだって。
なのに、なのに。
「言葉が足らないのはお前もだアンセル!!」
思わず叫ぶ僕に、団長が目を丸くしながら驚いていた。
「あ、すいません思い出し怒りが湧いてきて」
スンッと真顔でベッドに座り直し、そのまま団長を見つめる。
オルトの口の端は、大幅に下に向かって残念そうにひん曲がっているだろう。
そんなオルトの顔を見て団長が少し微笑んだ気がした。
「やっぱ従兄弟だな。ふとした表情がハヴィに似ている……。」
ボソリと呟く言葉にイラっとする。
「いいえ、ハヴィが僕に似ているんですよ。」
みんなしてハヴィに似てるとか言いやがって、僕はハヴィのオマケじゃない。
そもそも僕の方が数ヶ月先に産まれてるんだから、後から生まれたハヴィに似ていると言う言葉が間違っているんだ。
もっと言えば、似てると言うならその細胞を分けたうちの親父やクロアの伯父さんに似ているわけなんだから、僕がハヴィに似ているじゃないんだコンニャローバッキャロー。
あれあれなんだか僕おかしい。
ふにゃふにゃとベッドに横になるオルトに、それを見つめていたシスルがふと辺りを見渡した。
ベッドの脇に置かれたチョコレートの空箱を手に取り、大きく息を吐いた。
「……もしや、原因はこれか?」
食べ尽くされたチョコレートの残骸に、またたび成分5%配合と書かれていた。
『賄賂を渡すと何かしゃべるかと思いまして』と団員の言い訳を聞き流し、多分何かのお土産なんだろうなと理解した。
オルトと仲の良い団員が確か最近休暇をとっていたような。
もしやこのまたたび成分がオルトに作用したと?
ベッドにふにゃふにゃになったオルトをチラリと見る。
なんだこいつは猫なのかよとまた笑ってしまう。
しかしまたたびは猫や犬には害がなくとも、人間には有害になる恐れも。
薬に使われることもあるらしいが、これだけ成分に弱いようだから……。
まさか猫なのか、コイツは。
そう思うと沸々と笑いが込み上げる。
酔っ払ったようにグデンとベッドで伸びているオルトが何だか可愛いと思ってしまった。
だがこの様子だと何らかの副作用でお腹を壊すぐらいあるかもしれない。
明日のオルトのお腹の具合を心配し、シスルは笑いを堪えるのに苦労しながらオルトに布団を掛けてやった。
しばらくすると自分達とは違う色の制服を着た団員が入ってくる。
深く息を吐くと、シスルは立ち上がりオルトの檻から外へ出る。
「……王太子は?」
その問いに別の男が答える。
「全て終わりました。あとはこちらで平民の愛人と共に聴取に回すように手配したとのことです。もうすぐこっちに連れてきます。」
チラリとオルトを見るが、酔っ払ったようにぐうぐうと寝てしまった様子。
この会話を聞かれていないことに少しホッとする。
「奥とその2つ開けて5番目に収容してくれ。間違っても向かい合わせ、隣り合わせにはしないこと。」
自分の部下に指示すると、シスルは白い制服の団員と共に、取調室から出ていった。
同僚達を相手にゴネにゴネて、取調室の檻の中で書類仕事をさせてもらっていた。
行動範囲がほぼほぼベッドの上しかない。
このままだとオルトはまん丸になりそうだ、と危惧していた。
何せ檻の中にいるだけでオルトを不憫に思った後輩や同僚が、餌付けという名の差し入れをしてくるからだ。
何なら普段よりいいものを食べている気がしないでもない。
思わず自分の腹回りを見つめる。
なんかちょっとお腹周りが。
怖々と自分のシャツを捲ると、プ二ッとした横っ腹をひとつまみ。
いやこれは肉ではない皮なのだ。
今自分がつまんでいるのは皮。
つまんだプニっとしたものを見つめて固まっていると、横から手が伸びてくる。
「本当だ、いい感じに摘めるな」
つままれた手にびくりと体をこわばらせた。
自分の腹を摘んでいるのは、ここに閉じ込められた元凶だった。
にっこりと微笑みながら自分の肉……イヤ、皮を揉んでいる団長に向かって口を開いた。
「あの、そろそろ僕ここから出たいのですが……」
媚び諂うように嘘くさい笑みを浮かべ、手を揉む。
何なら差し入れで一番美味しかったフルーツの焼き菓子を賄賂に渡す勢いで。
だが団長はそんなオルトを見つめると、ニッコリと微笑んだ。
「ダメだ。」
「そんなぁぁあ!三文字ぃぃぃ!」
がっくりと項垂れると、団長が思わずクスッと笑う。
「わかってくれ、全てが終わるまで出すことが出来んのだ。」
「そうでしょうけども……」
わかってるさ、僕が選択を間違えたんだ。
あそこで本人に突き返すべきじゃなかったんだ。
でもこのままだと指名手配が承認されてしまうじゃないか、と焦っていたのもあったから。
王太子の取り調べがそろそろ完了し、団長が出した申請がそろそろ通ってしまうのだ。
そしたらアンセルの指名手配も無実?の誘拐罪も『本当』になってしまう。
拗らせカップルが二人で婚前旅行しただけだろと。
もうバカとの婚約も解消されたんだし、サッサとくっつけばいいのにアイツら。
だからいつも言ってたんだ両思いだって。
なのに、なのに。
「言葉が足らないのはお前もだアンセル!!」
思わず叫ぶ僕に、団長が目を丸くしながら驚いていた。
「あ、すいません思い出し怒りが湧いてきて」
スンッと真顔でベッドに座り直し、そのまま団長を見つめる。
オルトの口の端は、大幅に下に向かって残念そうにひん曲がっているだろう。
そんなオルトの顔を見て団長が少し微笑んだ気がした。
「やっぱ従兄弟だな。ふとした表情がハヴィに似ている……。」
ボソリと呟く言葉にイラっとする。
「いいえ、ハヴィが僕に似ているんですよ。」
みんなしてハヴィに似てるとか言いやがって、僕はハヴィのオマケじゃない。
そもそも僕の方が数ヶ月先に産まれてるんだから、後から生まれたハヴィに似ていると言う言葉が間違っているんだ。
もっと言えば、似てると言うならその細胞を分けたうちの親父やクロアの伯父さんに似ているわけなんだから、僕がハヴィに似ているじゃないんだコンニャローバッキャロー。
あれあれなんだか僕おかしい。
ふにゃふにゃとベッドに横になるオルトに、それを見つめていたシスルがふと辺りを見渡した。
ベッドの脇に置かれたチョコレートの空箱を手に取り、大きく息を吐いた。
「……もしや、原因はこれか?」
食べ尽くされたチョコレートの残骸に、またたび成分5%配合と書かれていた。
『賄賂を渡すと何かしゃべるかと思いまして』と団員の言い訳を聞き流し、多分何かのお土産なんだろうなと理解した。
オルトと仲の良い団員が確か最近休暇をとっていたような。
もしやこのまたたび成分がオルトに作用したと?
ベッドにふにゃふにゃになったオルトをチラリと見る。
なんだこいつは猫なのかよとまた笑ってしまう。
しかしまたたびは猫や犬には害がなくとも、人間には有害になる恐れも。
薬に使われることもあるらしいが、これだけ成分に弱いようだから……。
まさか猫なのか、コイツは。
そう思うと沸々と笑いが込み上げる。
酔っ払ったようにグデンとベッドで伸びているオルトが何だか可愛いと思ってしまった。
だがこの様子だと何らかの副作用でお腹を壊すぐらいあるかもしれない。
明日のオルトのお腹の具合を心配し、シスルは笑いを堪えるのに苦労しながらオルトに布団を掛けてやった。
しばらくすると自分達とは違う色の制服を着た団員が入ってくる。
深く息を吐くと、シスルは立ち上がりオルトの檻から外へ出る。
「……王太子は?」
その問いに別の男が答える。
「全て終わりました。あとはこちらで平民の愛人と共に聴取に回すように手配したとのことです。もうすぐこっちに連れてきます。」
チラリとオルトを見るが、酔っ払ったようにぐうぐうと寝てしまった様子。
この会話を聞かれていないことに少しホッとする。
「奥とその2つ開けて5番目に収容してくれ。間違っても向かい合わせ、隣り合わせにはしないこと。」
自分の部下に指示すると、シスルは白い制服の団員と共に、取調室から出ていった。
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アルファポリス初投稿です。
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