悪役令息に誘拐されるなんて聞いてない!

晴森 音夭

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12、久々の再会と、残された思い。

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アンセルもハヴィもヘトヘトだった。
マントを取ると二人とも湯浴みもせずにベッドへと倒れた。
そしてそのまま、2人は泥のように眠った。

ハヴィが目覚めると、すでに丸一日が経過していた。

「起きた!」

「……うん。」

目が覚めると同時に起きたとかいうやつは多分ハヴィぐらいだと思う。
子供の頃からのハヴィの癖というか、習慣?

「起きたと言いながら起きるとかバカでしょ。せめておはようって言いながら起きればいいのに。」

そうそう、オルトによくこうやって言われてたっけ?
なんて懐かしみながらウトウトとまどろもうとしたその時ハッと目を開ける。

「って、オルト!?」

今のは幻聴でもなく耳から聞こえた。
声のする方向をに頭を起こすと、腕組みした人影が見えた。

「やっと連絡きた、と思ったら起きないとか最悪なんだけど?僕がいったい寝ている君たちを見ながら、何時間待ったと思ってるの?」

ガバッと起きるとベッドの横にハヴィによく似た見慣れた顔が。
ハヴィは起きたと言いつつ、布団をかぶろうとしてオルトに怒られている最中のようだ。

「……ハヴィ、いつ連絡したの?」

「船降りてすぐ。」

別に連絡を禁止していたわけじゃない。
というより連絡するだろうとは思っていた。

だがこんな早くにオルトが来るとは。
ちょっと駆け落ち気分だったのがオルトの顔を見て残念な気持ちに。
寂しそうに唇を尖らせていると、さすが幼馴染だ、アンセルの考えなんかマルッとおみ通しのようである。

「……おい誘拐犯に次ぐ。貴様は完全に包囲されている、大人しく自首しろ!」

「包囲って、誰に?」

「僕にだバカ。てかなんで追放を受け入れた?ほんとバカなの?頭のいいバカなの?」

「駆け落ちって一回してみたくて。」

「ああ、やっぱりバカだ。頭のいいバカが一番タチが悪いって知ってる?」

「あ、俺知ってる!」

「お前もバカの一人だバカ!」

「なんでー!?」

「連絡が遅いんだよ!!お前らがチンタラ1ヶ月も遊んでやがる間に、こっちはいつでも準備万端だったんだぞ!」

「何の準備だよ?」

「断罪の仕返しだ!バカどもが!」

めちゃくちゃ怒り散らすオルトを見て、ハヴィもアンセルも懐かしくて嬉しくて、声を上げて笑ったのだった。





 謁見の間にてシスルが立ち尽くしていた。
目の前には小さくなった王様とその妻の王妃の姿。

「シスルよ、他に誰もいないんだ……そんな怖い顔をしていないで兄ちゃんと呼んでくれんか?」

「……そう呼ばれたかったなら兄らしく、いや、この国の王としてちゃんとして下さいよ。
というか兄ちゃんなんて一度も呼んだことはありませんが。」

「ちゃんと、してる、つもりだったんだがなぁ……」

王様は困ったようにポリポリと頬を指で掻いた。

「あなたたちの、教育が行き届かなかったせいでしょ、こうなったのは。」

一歩一歩と近づくにつれ、とてつもない圧を撒き散らすシスルに、ヒィと小さく声を上げる王と王妃。

「私の婚約者が誘拐されたんですよ!」

なぜ、断罪を止められなかったのか。
この1ヶ月シスルが思い詰めて出した原因がこれだった。

王太子が『あんなの』だとは気がついていた。
だが早々に廃位した自分には、本当に関係ないことだと思っていたのだった。

大人になればアレも変わるだろうと。
そのうち責任が出てきたら国を背負う自覚が芽生え、それなりに成長するだろうと思っていた。

だが自分がハヴィにプロポースした日にアンセルを断罪するとか、アレを3回ぐらい丸めて埋めても気分が晴れる気がしなかった。

1ヶ月だ。
この1ヶ月に起こったことを脳内でまとめると。
何も言わずともストーン公爵を支持している貴族たちにより、アンセルはすぐに無実の罪で追放されたことがわかった。
その上で平民と浮気した王太子をそのままにして置く事も出来ない。
他の貴族の反感も大きく、このままだと暴動が起きるかもしれないところまで来ていた。
貴族たちは満場一致で公爵へと付き、王太子を次期王へと支持できないという結論になったのだった。
これに関してオルトも裏で動いていたのも知っている。
だが小さい頃からの幼馴染がこう言う目にあったとしたら、自分だってそうするかもしれないと目を瞑った。

だがそんな現状を、この甘々の親たちは現実を認められないのだ。
べそべそとこうやって王位を抜けた弟に頼っては、泣き言を言っている現状。
私だってこいつらの味方なんかするわけもない。

「……ともかくチャールズは廃嫡するしか助かる道はないのです。」

「なら誰がわしの後をつぐと言うのだ?」

「それはもう、我々が考えることではないかと。」

「ど、どういうことだ?」

「もう多分遅いのです。貴族たちが集まって次の王を決めることになるかもしれません。」

「そんな、わしはどうしたら……」

「あなた……」

ヨロヨロと抱き合う弱そうなふりをする二人。
もうシスルの怒りも我慢の限界だった。
グッと拳を握りしめると、今日一番の大声を張り上げる。

「だったらもう一人息子でも娘でも産めばいいだろう!」

シスルが声を荒げたことで、王と王妃が手を取り合ってビクッと固まった。
一々こうやってびくつく所もシスルをイラつかせる。
昔は頼りになる兄だったのだ。尊敬もしていた筈なのに、今はなぜこうなった。
煮え切らない態度の王様にシスルはぎりっと歯を鳴らした。

「……もしハヴィが汚されるようなことがあったら、私が……私自らあなたや王子、そしてストーン公爵令息を罠にはめた全ての者たちを一人残らず殲滅するかもしれませんね。」

手を出した本人はそれは手厚くおもてなしをするが。

こんなことがなかったらアンセルはアレと結婚してたはずだ。
そしたらハヴィが攫われることもなかったのだ。
今頃私とハヴィは結婚してたかもしれないのに。
そう思うとこの世の全てが憎くなる。
怒りが抑えられず、行き場のない思いを自分ではどうしようもなくなってきた。

「……早く見つけてやらなければ。」

アンセルはハヴィの幼馴染だ。
だからこそハヴィは無事だと信じている。

だがもしアンセルが一方的にハヴィを好きだったりした場合。
アンセルの一方的な思いに苦しめられ、私を思って泣いているかもしれない。

「ハヴィ……!」

シスルは固く拳を握りしめながら王と王妃を睨みつけると、無言で謁見の間から去っていった。
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