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4、バケーションの基準って何だかよくわからないけど。
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「いやぁ、いい天気でよかったね。」
浮かれた変な星型のサングラスをかけ、右手には派手な花びらが付いたカクテル。
それを呑気にストローで啜る男に、ハヴィは言いたいことが沢山あった。
あるんだけど、なんか感情がどっかに振り切っちゃって、そのどれもがうまく出てこないのだ。
ただ腹が立つのでダムダムと床を小さく踏み鳴らすことしかできない。
これはハヴィが子どもの頃からの癖。
そんなハヴィをサングラス越しに眺めてニコニコと微笑む、この男。
「ハヴィは怒るといつも地団駄踏むよね。それホント可愛い。」
地団駄じゃない、どっちかというと貧乏ゆすりであってほしい。
ハハハッと楽しそうに笑っているコイツはもう、放っておいて。
二十歳を過ぎた男が可愛いなんて言われても嬉しくない。
だがコイツを喜ばせることはしたくないので、踏み鳴らす足を止めた。
そしてとりあえず今の現状を整理しよう、と腕を組む。
今見えるのは……うん、一面の海と、空にはなんか、白い鳥?がいっぱい飛んでる。
んで、今自分達がいる場所は……海で、船の上。
……んん、え?あれ、何で船!?俺どうやって乗ったの??
ハテと首を傾げて考えてみても、訳がわからない。
あの夜職務中にこのバカンス男に抱えられ、馬に乗せられたところまでは覚えている。
馬に乗ってたら何だか一定間隔の揺れに『うへぇーなんか眠くなってきたー』って思って、それで。
そして今である。ちょっと記憶が飛び過ぎて、本当に訳がわかんない。
それでなんか船の上だからか分からないが、どう見てもハヴィ以外はバケーション中。
チラホラと見える船員たちも、アンセルと同じような浮かれた格好で、ルンルンと仕事していた。
アンセルは婚約式に着ていた白いタイトなローブを早々に脱ぎ捨て、派手な模様が描かれたラフなシャツと膝丈のズボンに着替えると、白と水色のパラソルの下で呑気に足を投げ出し、ビーチソファーで寛いでいる。
……ていうか、そういえばこの男に自分は……。
ハタと思い出す、とある事実にハヴィはカッと目を見開いた。
「てか、なんで俺を誘拐した!?」
色々考え抜いて、出た最初の言葉。
そういえば1番の疑問点。
無意識にまた踏み鳴らしていた足を止め、バケーション男に指をさす。
ハヴィに指をさされ何故か、楽しそうにケラケラと笑うアンセルに余計に苛立ちが募った。
「……誘拐なんて人聞き悪いな。私物持っていっていいって言われたじゃん。」
そう言いながらまたカクテルをチュウと、わざとらしく音を立てながら一口。
「いつから俺がお前の私物になったんだ!!」
ギッと睨みつけながら、さしたままの指をブンブンと振った。
「……ハヴィは私の私物だけど?」
「は!?馬鹿じゃないのか!俺はお前のものじゃない!!」
ハヴィの言葉にアンセルがぷぅっと頬を膨らませる。
「卒業前に勝負したチェスで、ハヴィは私のいうことを何でも聞くと言ったじゃないか。」
「あ、あれは!」
そういえば確かに言ってた。
言われてみればそんな約束したな、と思い出したが、だけど、あんなのはズルだ!
「お前今までチェスで誰にも勝ったことなかったのに!最弱だったじゃん!なのに、あの勝負だけ勝つとかおかしい!だからあれはズルだから無効だろ!」
ハヴィの言葉にぷくっと頬を膨らませたままのアンセル。
さらに口を尖らせると、カクテルに刺さっていた花びらを俺に投げつけてきた。
「ズルじゃないことは何度もやって確かめたでしょ?私が勝ったんだから、無効じゃないよ。」
「でもっ……!」
確かにそう。オルトが至近距離で見てた泣きの3回目も、ずるしているようには見えない判定だった。
言い返せないハヴィに、アンセルが微笑む。
多分ちょっとコイツ、意地悪い顔してると思う。サングラスで見えないけど。
「あの時、何でもいうこと聞くって言ったよね?騎士に二言はないんじゃないの?」
「……!」
二言はない。
でも『うん』と言いたくない。
こういう時のアンセルは有無を言わさない感じが多いから。
よーく知ってるんだけど、だけど、二言は……。
悩んで唸っているハヴィに、アンセルが続ける。
「だから、その約束聞いてもらおうと思って、連れてきた。」
「……約束を聞くって、なら新しい国までの護衛とか?」
「一生、私の護衛。」
「は!?」
ふぎゃッと猫のように跳ね上がるハヴィを横目に、ふふんと鼻を鳴らしビーチソファーから起き上がると、フワーっと欠伸をひとつしながら気持ちよさそうに背伸びをする。
アンセルのガタガタに切られたままの髪の毛がまばらに風に揺れていた。
こんな髪型なのになんでこんなにこの人は綺麗なのか、が妙に腹立たしくなった。
どうせもう何言っても抵抗はできない。アンセルに口で勝てる気がしないからだ。
今まで一度たりとも勝った事がない。拳でなら絶対勝てるのに、とは思うけど、それは騎士道に反する。
もう諦めて従うしかないのだけは、早々に理解した。
再びビーチソファーで寛ぐアンセルを放置し、ハヴィは海が見渡せる甲板の端で両手で頬杖をついた。
「てか、どこまで行くんだこの船は。」
ため息混じりに水平線を見つめる。
頬杖ついたまま喋ると頬がモニョモニョ動かし辛く喋りづらいな、と片方の手を頬から離す。
それでも頬杖をつきたい気分なので、そのまま頭を支えていた。
アンセルは何か書類に目を落としながら、ハヴィの質問に答えた。
「んー?どこへも行かないよ、安全な海域でぐるぐるしている。ほとぼり冷めたら戻るつもり。」
「戻るって、どこへ……?」
「自分の領地。」
「お前、領地を持ってるの?」
驚いて思わずガクンと肘から頭が外れる。
びっくりした顔でじっと見つめているハヴィに、アンセルは嬉しそうに微笑んだ。
「このために貯蓄してたお金で買ったんだ。あと取り急ぎだけど、爵位も継いだ。」
「は!?」
「その、は?ってやめな?お行儀悪いよ。」
お行儀悪いと言われて思わずグッと口籠る。
『だって』と口を尖らせるハヴィにアンセルは目を細めた。
爵位なんて聞いてない。
だって本来なら王太子妃になるはずだったアンセル。
なのに何で爵位なんて継ぐ必要があった?
もしかして、アンセルのお父さんに何かあったとか?
とか今聞ける感じじゃないよな?なんて、思わず考え込んだ。
ぐるぐると巡る思考をぶつけようにも、微笑むだけで何も言わないアンセル。
もしかして俺に言いにくいことなんだろうか?とアンセルを見つめるが、ただ微笑むばかりで何も言わない。
ハヴィを見てニコニコするアンセルをハヴィは心配そうに見つめることしか出来なかった。
浮かれた変な星型のサングラスをかけ、右手には派手な花びらが付いたカクテル。
それを呑気にストローで啜る男に、ハヴィは言いたいことが沢山あった。
あるんだけど、なんか感情がどっかに振り切っちゃって、そのどれもがうまく出てこないのだ。
ただ腹が立つのでダムダムと床を小さく踏み鳴らすことしかできない。
これはハヴィが子どもの頃からの癖。
そんなハヴィをサングラス越しに眺めてニコニコと微笑む、この男。
「ハヴィは怒るといつも地団駄踏むよね。それホント可愛い。」
地団駄じゃない、どっちかというと貧乏ゆすりであってほしい。
ハハハッと楽しそうに笑っているコイツはもう、放っておいて。
二十歳を過ぎた男が可愛いなんて言われても嬉しくない。
だがコイツを喜ばせることはしたくないので、踏み鳴らす足を止めた。
そしてとりあえず今の現状を整理しよう、と腕を組む。
今見えるのは……うん、一面の海と、空にはなんか、白い鳥?がいっぱい飛んでる。
んで、今自分達がいる場所は……海で、船の上。
……んん、え?あれ、何で船!?俺どうやって乗ったの??
ハテと首を傾げて考えてみても、訳がわからない。
あの夜職務中にこのバカンス男に抱えられ、馬に乗せられたところまでは覚えている。
馬に乗ってたら何だか一定間隔の揺れに『うへぇーなんか眠くなってきたー』って思って、それで。
そして今である。ちょっと記憶が飛び過ぎて、本当に訳がわかんない。
それでなんか船の上だからか分からないが、どう見てもハヴィ以外はバケーション中。
チラホラと見える船員たちも、アンセルと同じような浮かれた格好で、ルンルンと仕事していた。
アンセルは婚約式に着ていた白いタイトなローブを早々に脱ぎ捨て、派手な模様が描かれたラフなシャツと膝丈のズボンに着替えると、白と水色のパラソルの下で呑気に足を投げ出し、ビーチソファーで寛いでいる。
……ていうか、そういえばこの男に自分は……。
ハタと思い出す、とある事実にハヴィはカッと目を見開いた。
「てか、なんで俺を誘拐した!?」
色々考え抜いて、出た最初の言葉。
そういえば1番の疑問点。
無意識にまた踏み鳴らしていた足を止め、バケーション男に指をさす。
ハヴィに指をさされ何故か、楽しそうにケラケラと笑うアンセルに余計に苛立ちが募った。
「……誘拐なんて人聞き悪いな。私物持っていっていいって言われたじゃん。」
そう言いながらまたカクテルをチュウと、わざとらしく音を立てながら一口。
「いつから俺がお前の私物になったんだ!!」
ギッと睨みつけながら、さしたままの指をブンブンと振った。
「……ハヴィは私の私物だけど?」
「は!?馬鹿じゃないのか!俺はお前のものじゃない!!」
ハヴィの言葉にアンセルがぷぅっと頬を膨らませる。
「卒業前に勝負したチェスで、ハヴィは私のいうことを何でも聞くと言ったじゃないか。」
「あ、あれは!」
そういえば確かに言ってた。
言われてみればそんな約束したな、と思い出したが、だけど、あんなのはズルだ!
「お前今までチェスで誰にも勝ったことなかったのに!最弱だったじゃん!なのに、あの勝負だけ勝つとかおかしい!だからあれはズルだから無効だろ!」
ハヴィの言葉にぷくっと頬を膨らませたままのアンセル。
さらに口を尖らせると、カクテルに刺さっていた花びらを俺に投げつけてきた。
「ズルじゃないことは何度もやって確かめたでしょ?私が勝ったんだから、無効じゃないよ。」
「でもっ……!」
確かにそう。オルトが至近距離で見てた泣きの3回目も、ずるしているようには見えない判定だった。
言い返せないハヴィに、アンセルが微笑む。
多分ちょっとコイツ、意地悪い顔してると思う。サングラスで見えないけど。
「あの時、何でもいうこと聞くって言ったよね?騎士に二言はないんじゃないの?」
「……!」
二言はない。
でも『うん』と言いたくない。
こういう時のアンセルは有無を言わさない感じが多いから。
よーく知ってるんだけど、だけど、二言は……。
悩んで唸っているハヴィに、アンセルが続ける。
「だから、その約束聞いてもらおうと思って、連れてきた。」
「……約束を聞くって、なら新しい国までの護衛とか?」
「一生、私の護衛。」
「は!?」
ふぎゃッと猫のように跳ね上がるハヴィを横目に、ふふんと鼻を鳴らしビーチソファーから起き上がると、フワーっと欠伸をひとつしながら気持ちよさそうに背伸びをする。
アンセルのガタガタに切られたままの髪の毛がまばらに風に揺れていた。
こんな髪型なのになんでこんなにこの人は綺麗なのか、が妙に腹立たしくなった。
どうせもう何言っても抵抗はできない。アンセルに口で勝てる気がしないからだ。
今まで一度たりとも勝った事がない。拳でなら絶対勝てるのに、とは思うけど、それは騎士道に反する。
もう諦めて従うしかないのだけは、早々に理解した。
再びビーチソファーで寛ぐアンセルを放置し、ハヴィは海が見渡せる甲板の端で両手で頬杖をついた。
「てか、どこまで行くんだこの船は。」
ため息混じりに水平線を見つめる。
頬杖ついたまま喋ると頬がモニョモニョ動かし辛く喋りづらいな、と片方の手を頬から離す。
それでも頬杖をつきたい気分なので、そのまま頭を支えていた。
アンセルは何か書類に目を落としながら、ハヴィの質問に答えた。
「んー?どこへも行かないよ、安全な海域でぐるぐるしている。ほとぼり冷めたら戻るつもり。」
「戻るって、どこへ……?」
「自分の領地。」
「お前、領地を持ってるの?」
驚いて思わずガクンと肘から頭が外れる。
びっくりした顔でじっと見つめているハヴィに、アンセルは嬉しそうに微笑んだ。
「このために貯蓄してたお金で買ったんだ。あと取り急ぎだけど、爵位も継いだ。」
「は!?」
「その、は?ってやめな?お行儀悪いよ。」
お行儀悪いと言われて思わずグッと口籠る。
『だって』と口を尖らせるハヴィにアンセルは目を細めた。
爵位なんて聞いてない。
だって本来なら王太子妃になるはずだったアンセル。
なのに何で爵位なんて継ぐ必要があった?
もしかして、アンセルのお父さんに何かあったとか?
とか今聞ける感じじゃないよな?なんて、思わず考え込んだ。
ぐるぐると巡る思考をぶつけようにも、微笑むだけで何も言わないアンセル。
もしかして俺に言いにくいことなんだろうか?とアンセルを見つめるが、ただ微笑むばかりで何も言わない。
ハヴィを見てニコニコするアンセルをハヴィは心配そうに見つめることしか出来なかった。
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アルファポリス初投稿です。
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