筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

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3話 すずの鬱屈

玩具

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「来たか。まあこうなるだろうと思っていたよ」
「……」


 十文字鈴は、最初に出会った『このはな公園』で、悠然とまりあのことを待ち構えていた。

 小さく盛り上がった芝生の上で彫像のように動ずることなく立ち、やって来たまりあを見下す形で迎え入れる。 

 しぐれの襲撃を退けてから、まりあがどう動くかの予測はついた。

 むしろ、こうなることを望んでいた節もある。

 最初はかがみんの私怨に巻き込まれてのことだったが、今は望んでまりあと戦ってみたかった。

 鈴は決して、まりあとしぐれのことが嫌いではない。
 むしろ好きになった。

 弱いくせに諦めが悪いところが特にお気に入りだ。

 魔女のように簡単に消えて無くならない。

 打ち倒すたび何度でも遊びに来てくれる。

 ストレス発散には持って来いの相手だ。


「早く変身するといい。そしてを勝負しよう。今度こそどっちが強いかはっきりする」


 鈴は嗜虐心を笑みの形に変えて、口角を吊り上げる。

 奮起したしぐれは悪くなかった。
 さて、まりあはどうだろうか。

 一度負かした相手だ。
 生意気にもリベンジマッチに燃えているようだが、今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやろう。

 その時、まりあはどれほど悔しがるだろうか。

 鈴の中で膨れ上がる残虐な好奇心は、満たされることだけを望んで、際限なく魔力を昂ぶらせる。

 かがみんからの魔力供給は前もって済ませておいた。
 疲労も少なく、連戦に支障はない。

 変身する。
 制服を脱ぎ捨て、黒衣の装束を身に纏い、紅玉の宝杖を片手に、呵呵とまりあに開戦の笑みを投げかける。

 そこへ、


「待って、先輩! あたしにやらせて!」


 邪魔者が割って入った。

 金色の巻き毛を揺らして鈴の前に現れた美羽は、喜色満面な得意顔を浮かべて、勝手に宣言する。


「来たわね、安部まりあ。先輩より先にあたしが相手よ。屋上での屈辱、ここできっちり返してやるんだから!」
「……」


 何だ、こいつ……。

 心底不快に思う鈴の眼差しに気付くこともなく、美羽は場違いに明るく勝手に盛り上がる。


「いいぞ、美羽~。かっこいい~」
「あれだけ特訓に付き合わせたんだ、負けるなよ!」


 眼鏡とショートヘアの二人が、子分よろしく後方で歓声を上げている。

 鈴は、実に不愉快だった。

 三人ともかがみんが紹介してくれた魔法少女だが、ひと目見ただけで興味が失せた。
 あまりに弱すぎる。

 戦うまでもないと無視したところ、弟子にして欲しいと頭を下げて媚び諂い、気味の悪い笑みを張り付けて付き纏うようになった。

 正直冗談ではなかったが、かがみんから「よければ面倒見てやって欲しい」と頼まれている手前、邪険にできない。


「はあ……」


 鈴は露骨に表情を曇らせて一歩下がり、美羽に先を譲った。

 興が削がれた。
 今にも弾けそうだった衝動は鳴りを潜め、心の奥で燻っている。

 見限った相手に、これほど落胆させられるとは思いもしなかった。

 お礼に後で稽古をつけてやってもいい。

 雑魚をいたぶるのもまた一興だ。


「やってごらん、美羽」
「任せて!」


 嬉々と瞳を輝かせた美羽は、盛大な勘違いに気付くこともなく変身して、ステッキ片手に駆け出していく。

 嬉しそうな背中を見送り、鈴は「まあいいさ」とひとつ鼻を鳴らした。

 戦わせてみよう。
 どのみち、あんなのに苦戦するようでは、まりあは鈴の玩具にもならない。

 見下ろす視界の中、まりあと美羽が接敵する。
 
 
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