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3話 すずの鬱屈
焦燥
しおりを挟む翌日。
まりあは学校の机の上で突っ伏して顔を歪め、酷く苦悶していた。
「うう、体が痛い……。筋肉痛が……」
「大丈夫かい、まりあ。だから無茶だと言っただろうに」
まりあの鞄の中から、かがみんがひょっこりと頭だけ出す。
軟禁している都合上、ここに押し込んでおくしかなかった。
「うっさい。あなたに心配される筋合いはないわ……」
言い返すのも億劫だと言いたげに、まりあは覇気のない返事を返す。
生意気な口を利くかがみんなど絞め落としてやりたいが、いかんせん今はそれどころではない。
皮膚の下で筋肉が引き攣り、関節が軋み、熱病に侵されたかのように全身が火照っている。
昨夜、肉体の限界を超えて筋トレを繰り返した反動がまりあを蝕んでいた。
「うぐうぅ……っ」
身動きひとつ取るたびに、首を絞められた鶏のような呻き声が漏れる。
プロテインによる魔力摂取は万能の秘薬ではない。
効果があるのはあくまでも、魔法によって受けたダメージに留まるようだ。
過度な魔力補給は逆効果で、エネルギーを無駄に燃焼させ、未熟な体力を根こそぎ奪ってしまった。
気持ちの空回りが引き起こす悪循環。
どっぷりと泥沼に嵌ったまりあの姿を、かがみんはここぞとばかりに嘲笑う。
「無駄な努力さ。彼女は最強無敵なんだからね」
「……ふん、何が魔術師よ。かっこつけて。結局はかがみんに騙された魔法少女の一人じゃない」
「騙されたというと語弊があるな。彼女はすべてを知っいる。その上でなお、望んで魔法の力を振るっているんだ」
「ふん……」
まりあは不機嫌そうに頬杖をつき、覇気のない瞳を窓の外へと向ける。
拷問によってかがみんから引き出した情報を総合するに、そういうことだった。
魔術師クロイツ・フォン・グランド・ベルもまた、まりあと同じく魔法の力を授かった魔法少女。
膨大な魔力量という類まれなる才能を生まれ持ち、まりあと同い年ながら数多の魔女を屠ってきた真の実力者。
攻撃前に紡いでいた詠唱は、自己紹介同様最近の彼女のトレンドらしく。
要は単なるお飾りだ。
「何であんなに拘っているのかと思えば、単に漫画の影響だなんて」
「古本屋で立ち読みして気に入ったらしい。形から入るのは大切なことじゃないかな?」
「だからってねえ。どうせ名前も同じ理由で別名名乗っているんだろうし」
ベルの全体像がいまいち掴めない。
まりあは口をへの字に曲げて腕を組む。
「強力な魔法を生み出すために必要なのは、想う心と強い願望。一体どういう生活を送れば、あれだけの魔力を発現できるのか……。そんな風に考えている顔だね、まりあ」
「また勝手なこと言って……」
「まあ、平坦な道行きじゃなかったのは確かだ。君もその身をもって思い知ったはずだよ。彼女が発現させた魔法は、君たちのようなお遊びとは格が違う。どう転んだって勝てるわけがないってね」
かがみんは大層誇らしげにベルがどういう魔法少女なのかを語り続ける。
まりあは聞き流すつもりで傾聴していた。
ベルは恵まれた才能を持つと同時に、生粋の戦闘狂。
魔女であれ、
魔法少女であれ、
果ては魔獣でさえも。
一度目を合わせれば彼女の標的となり得る。
目につくものに戦いを挑み、問答無用で襲い掛かっては、全力全開の砲撃をもって叩き伏せる。
全戦全勝。
故に、絶対強者。
聞けば聞くほど厄介だ。
なんてものに目をつけられてしまったんだ、とややうんざりしてくる。
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