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3話 すずの鬱屈
筋肉鍛えてリベンジよ!
しおりを挟む「行っちゃった……。何だったんだろう……」
遠ざかる魔術師の背中を目で追いながら、しぐれは身を起こし、疲れ切った声を出す。
突然現れ、気が済むまで暴れ回って去っていく。
まるで嵐が通り過ぎたような有様だ。
終わってみれば、十分にも満たない時間で気力も体力もごっそり削り取られた。
しぐれでさえ多大な脱力感に襲われているのだ、完敗を喫したまりあの胸中は計り知れない。
「あの子が何だったのかは分からない。分からないけど、負けた……。あんなに頑張ってトレーニングしたのに……っ」
「まりあちゃん……」
失意の沈む友達に何と声をかければいいのか。
しぐれは答える術を持っていなかった。
まりあが負けるだなんて思いもしなかった。
悔しがる彼女を慰めるだなんて、想像もできなかった。
しぐれはただ立ち尽くしたように、己の無力さを嫌というほど思い知らされる。
そこへ、場違いにも笑い声が割り込んできた。
「ふふふ……」
ハッとして辺りを見回せば、白銀の毛並みを持つ小動物が悠々とこちらへ向かって歩いてくるではないか。
しぐれは「あっ」と声を上げる。
「かがみん?」
見知った能面顔だった。
まりあを始め、純情可憐な乙女に魔法の力を授け、魔法少女へと変身させる魔獣、かがみん。
その実態は、魔獣にとって脅威となる魔女を打倒すべく、少女たちを隠れ蓑に利用する詐欺師。
もっとも警戒すべき相手だ。
「やあ、久しぶりだね。まりあ、しぐれ。そして、君たちはもうこれまでさ」
「ど、どういう意味?」
唐突過ぎる私刑宣告。
しぐれは三つ編みを揺らして、むっと表情を険しくする。
今このタイミングで現れたここと。
そして先のセリフ。
魔術師の件と無関係とは思えなかった。
「もしかして今の魔術師の女の子はあなたの差し金? 姿を見せなかった間一体何をして……」
「ふふ、気になるかい?」
かがみんは今一度愉快に笑みを作り、たっぷり間を取り焦らして、自慢話のように始めた。
「クロイツ・フォン・グランド・ベル。彼女こそ、最強の魔法少女さ。見ただろう、彼女の力を。莫大な魔力量を誇り、それを自在に操る類まれな才能を併せ持つ。もう君の好きにはさせないよ、まりあ」
かがみんは、自ら生み出してしまった魔法少女らしからぬまりあに、常日頃から敵愾心を抱いていた。
つい先日の騒動でも、まりあと敵対して危害を加えようとした。
つまりは、これがまりあを打倒すべく打ち出された次なる秘策。
最強の力をもって、まりあの筋肉を抑え込もうという作戦なのだ。
「ふふふ……って、あれ?」
いつまでも得意満面に、ほくそ笑むかがみん。
その小さな体がふわりと浮かんだ。
頭部を包み込むのは、どこか懐かしい慣れ親しんだ感触。
「彼女について知っていること、洗いざらい吐いてもらいましょうか?」
「いや、ちょっと……?」
気づいた時にはすでに、まりあに頭部を鷲掴みにされていた。
鼻先がくっつく至近距離で凄まれ、脅迫される。
さっきまで落ち込んでいた少女が発していい殺気ではなかった。
「ま、まりあ……。何度も言うようだけど、こういったことは魔法少女同士でだね、いだだだだだだっ」
「ま、まりあちゃんっ?」
万力の握力によるアイアンクローで絶叫するかがみん。
しぐれは、復活したまりあを心配そうに見つめておろおろする。
「負けっぱなしなんて冗談じゃない、筋肉鍛えてリベンジよ!」
まりあは、かがみんの頭部を砕かんばかりに強く拳を握った。
情熱の炎が瞳に戻る。
熱い。
尋常ではない熱量が物理的にかがみんを焼き焦がし、間近で心配していたしぐれを戦かせる。
「ま、まりあちゃんが燃えている……っ」
魔力が底を尽きてなお、まりあの炎は猛々しく嘶き、再戦を心に誓った。
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