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3話 すずの鬱屈
なんてつまらない……
しおりを挟むまりあは怯まなかった。
足を止めずにベルを追い回し、怒涛の拳撃をもって果敢に攻め続ける。
「凄まじい力……。物理保護障壁をこんなにも容易く打ち砕くだなんて。やっぱり、君は強いね。聞いた通り」
余裕を含んだベルの呟きに、まりあは怪訝に顔をしかめる。
「聞いたって……一体誰から!」
「君相手なら全力を出せそう……。せいぜい死なないように気を付けて」
詰問に答えずに、ベルは作り出した障壁を足場にして、高々と跳躍。
大きく宙を舞って、後退した。
開いた距離は約二十メートル。
間髪入れずに、長方形の壁を出現させる。
十重二十重に重ねられた魔力障壁が、彼我の間を隔てる。
「オォ――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!」
まるで意に反さず、まりあは重車両のような勢いで剛腕を振るった。
連なる破砕音とともに、目障りな障壁が次々と打ち砕かれていく。
「まりあちゃん、頑張って!」
初見こそ驚かされたが、ベルの障壁にまりあの突進力を弾き返すほどの力はない。
これならいける、と離れた場所で意気込んだしぐれは、精一杯の声援を送る。
その直後、眼前で煌々と紅色の光が瞬いた。
「―――聖浄なる光。聖火の灯。掲げ持つ砲身に焔をくべよ。我は崩壊破壊の撃ち手なり」
厳かな声色が響く。
「……何、これ……」
しぐれは、己の感覚のすべてを疑った。
今目の当たりにしている光景が信じられない。
先程の過程が正しいとすれば、しぐれはまりあよりも感知能力が鋭く、魔力の痕跡やその大きさを目で見て感じ取ることができる。
もしも本当にそうだとしたら、ベルと敵対している現状をとても受け入れ難かった。
かの魔術師が放つ魔力量は、箍が外れていた。
まりあが持つ圧倒的な威圧感。
屋上で美羽が放った憤怒の光撃。
それらを遥かに凌ぐ途方もない魔力の塊が、歌うように紡がれる言葉とともに、際限なく膨れ上がっていく。
「茫洋を割り、大地を穿ち、目につく全てを一掃せん」
間違いなく、何らかの攻撃の兆し。
そう直感した時にはもう遅かった。
「輝ける紅き極光!」
そして、視界が真っ白に閉ざされた。
あまりの光量に、とても目を開けていられない。
顔を覆ったしぐれの耳に、まりあの激声だけが飛び込んでくる。
「やあああああああああああいっ!!!」
解き放たれた極光の砲撃を前にしてなお、まりあは猛り狂う。
雄叫びとともに己の炎を呼び起こし、強靭な下腿で大地を蹴りつけ、驀進。
真っ向から衝突する。
「きゃあああっ」
衝撃の余波に耐え切れず、呆気なく吹き飛ばされるしぐれ。
芝生の上を幾度も転がった末、ようやく止まった。
全身の鈍い痛みに呻きながら顔を上げれば、そこには薄く煙を立ち昇らせるまりあの背中があった。
「ま、まりあちゃん!?」
「……っ」
まりあの身体がぐらり、と傾く。
急いで駆け寄るも、しぐれでは崩れ落ちる巨体を支えきれずに、二人はそろって芝生の上に倒れ込んでしまった。
満身創痍に陥り、まりあの変身が解ける。
「くっ、私の炎じゃ相殺し切れなかった……」
まりあは、声を詰まらせて呻いた。
かの魔術師は逃げ回っていたのではない、すべては戦略の内。
先の絶大な魔力砲を放つための布石だったのだ。
相手の実力を見誤った。
ベルの力はまりあのそれより遥か高みにある。
悔しさのあまり叩き付けた拳は、あまりに小さく見えた。
まりあは全身に浴びた破壊光線の痛みも忘れて、奥歯を噛みしめる。
サク、サク、と芝生の草を踏みつける音が近づいてきて、二人の頭上に影を落とす。
「その程度なの? なんてつまらない……」
「……っ!」
ベルは、何も言い返せないまりあを失望の眼差しで見下した。
期待外れだった、とため息をひとつの残し、軽やかに中空へ跳ね上がる。
そのままどこかへ飛び去って行った。
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