筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

文字の大きさ
上 下
50 / 70
3話 すずの鬱屈

なんてつまらない……

しおりを挟む
 
 
 まりあは怯まなかった。

 足を止めずにベルを追い回し、怒涛の拳撃をもって果敢に攻め続ける。


「凄まじい力……。物理保護障壁をこんなにも容易く打ち砕くだなんて。やっぱり、君は強いね。聞いた通り」


 余裕を含んだベルの呟きに、まりあは怪訝に顔をしかめる。


「聞いたって……一体誰から!」
「君相手なら全力を出せそう……。せいぜい死なないように気を付けて」


 詰問に答えずに、ベルは作り出した障壁を足場にして、高々と跳躍。
 大きく宙を舞って、後退した。

 開いた距離は約二十メートル。

 間髪入れずに、長方形の壁を出現させる。

 十重二十重に重ねられた魔力障壁が、彼我の間を隔てる。


「オォ――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!」


 まるで意に反さず、まりあは重車両のような勢いで剛腕を振るった。

 連なる破砕音とともに、目障りな障壁が次々と打ち砕かれていく。


「まりあちゃん、頑張って!」


 初見こそ驚かされたが、ベルの障壁にまりあの突進力を弾き返すほどの力はない。

 これならいける、と離れた場所で意気込んだしぐれは、精一杯の声援を送る。

 その直後、眼前で煌々と紅色の光が瞬いた。


「―――聖浄なる光。聖火の灯。掲げ持つ砲身に焔をくべよ。我は崩壊破壊の撃ち手なり」


 厳かな声色が響く。


「……何、これ……」


 しぐれは、己の感覚のすべてを疑った。

 今目の当たりにしている光景が信じられない。

 先程の過程が正しいとすれば、しぐれはまりあよりも感知能力が鋭く、魔力の痕跡やその大きさを目で見て感じ取ることができる。

 もしも本当にそうだとしたら、ベルと敵対している現状をとても受け入れ難かった。

 かの魔術師が放つ魔力量は、箍が外れていた。

 まりあが持つ圧倒的な威圧感。

 屋上で美羽が放った憤怒の光撃。

 それらを遥かに凌ぐ途方もない魔力の塊が、歌うように紡がれる言葉とともに、際限なく膨れ上がっていく。


「茫洋を割り、大地を穿ち、目につく全てを一掃せん」


 間違いなく、何らかの攻撃の兆し。

 そう直感した時にはもう遅かった。


輝ける紅き極光クリムゾン・レイ!」


 そして、視界が真っ白に閉ざされた。
 あまりの光量に、とても目を開けていられない。

 顔を覆ったしぐれの耳に、まりあの激声だけが飛び込んでくる。


「やあああああああああああいっ!!!」


 解き放たれた極光の砲撃を前にしてなお、まりあは猛り狂う。

 雄叫びとともに己の炎を呼び起こし、強靭な下腿で大地を蹴りつけ、驀進。
 真っ向から衝突する。


「きゃあああっ」


 衝撃の余波に耐え切れず、呆気なく吹き飛ばされるしぐれ。

 芝生の上を幾度も転がった末、ようやく止まった。

 全身の鈍い痛みに呻きながら顔を上げれば、そこには薄く煙を立ち昇らせるまりあの背中があった。


「ま、まりあちゃん!?」
「……っ」


 まりあの身体がぐらり、と傾く。

 急いで駆け寄るも、しぐれでは崩れ落ちる巨体を支えきれずに、二人はそろって芝生の上に倒れ込んでしまった。

 満身創痍に陥り、まりあの変身が解ける。


「くっ、私の炎じゃ相殺し切れなかった……」


 まりあは、声を詰まらせて呻いた。

 かの魔術師は逃げ回っていたのではない、すべては戦略の内。
 先の絶大な魔力砲を放つための布石だったのだ。

 相手の実力を見誤った。
 ベルの力はまりあのそれより遥か高みにある。

 悔しさのあまり叩き付けた拳は、あまりに小さく見えた。

 まりあは全身に浴びた破壊光線の痛みも忘れて、奥歯を噛みしめる。

 サク、サク、と芝生の草を踏みつける音が近づいてきて、二人の頭上に影を落とす。


「その程度なの? なんてつまらない……」
「……っ!」


 ベルは、何も言い返せないまりあを失望の眼差しで見下した。

 期待外れだった、とため息をひとつの残し、軽やかに中空へ跳ね上がる。
 そのままどこかへ飛び去って行った。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...