筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

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3話 すずの鬱屈

まりあ VS ベル

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 ベルは、含みのある顔でほくそ笑む。


「やっぱり、君の方が強いね」
「あなた……しぐれに何をしているの?」
「何もしていない。ただ、殺気をぶつけているだけ」
「ならそれを今すぐ止めなさい! そもそもどうして戦うの? 何が目的?」
「ボクは強い。そして君も強そうだ。どちらが上かはっきりさせたい。だから、戦おう。授かった魔の力で」


 この答えに、まりあは今度こそはっきりと、ベルを敵と認定した。

 呆れた心地で盛大なため息を吐き出す。


「そういうことならやらないよ」


 警戒はそのまま、睨むのをやめてしぐれに寄り添った。

 中途半端に煙に巻くのを止め、ベルの相手にすることそのものを放棄する。


「どうして? 君、強いんでしょう? だったら戦ってみたいでしょう?」


 先程からまったく意味の通らない理屈だ。

 まりあはきっぱりと断言する。


「あなた魔術師なんでしょう? 魔女じゃない。だから戦わない」


 何故こんなにも彼女のことが気に喰わないのか、何となく分かった気がする。

 魔法を授かった者同士、魔法を使って決闘をしよう。
 ベルはそう言った。

 それが何より気に入らない。
 美意識の違いだ、まりあはそれを良しとしなかった。

 まりあの魔法は、己の筋肉のためにある。

 鍛え、育て、作り上げる。
 そのためだけに存在している。

 誰かと優劣を競うために使うなど、馬鹿げている。


「臆病者だね。勝負から逃げていたら、いつまでたっても井の中の蛙なのに」
「世界中どこへ行ったって、井の中の蛙だよ。魔法少女っていう枠の中だけの強さ。そういうんじゃなくて、私は私が望むように強くあればそれでいいの。どっちどれくらい上とか、興味ない」
「ボクは魔法少女じゃない、魔術師だ」
「さっきから何なの、その拘り?」
「……ボクは知りたい。君よりも、何者よりも、強いことを証明したい。一人でも生きていけるんだという実感が欲しい」
「何のことを言っているの?」


 まりあがベルを理解できないように、彼女もまたまりあと価値観を共有できない。

 曲げられな意地の張り合いは、双方が平等に妥協するという解決案を放棄する。


「戦う理由は、ボクにはある!」


 言い争いを先に打ち切ったのはベルだ。

 まだ変身もしていないまりあ目掛けて、宝杖で殴りかかってくる。

 間一髪、まりあは飛ぶように横に逃げて、しぐれを押し倒して抱きかかえながら、地面を転がった。


「こんのーっ! いきなり何すんの!」
「あ、まりあちゃん、戦ったらダメだよ……っ!」
「離れていて、しぐれ!」


 急襲はまだ終わっていない。
 ベルは宝杖を下段に据えたまま、すぐさま間合いを詰めてくる。


 ―――迎え撃つ。


 即座に開き直ったまりあは、迷いの一切を投げ捨てる。

 抜刀の勢いで腰につっていたスクイズボトルを引き抜き、プロテインを摂取。

 空に向かって猛々しく咆哮する。


「やああああああああ――――――――――――――っ!」
「……っ」


 突如として現れ出でた巨身に小さく驚きを示し、突撃する足に急制動をかけたベル。

 動きが止まったその一瞬を狙って、大砲のような拳が真正面から放たれた。


「ぐ……っ!」


 手加減の一切を取り払った全力の初撃は、ベルの小柄な体躯を高々と跳ね上げる。

 だが、それで決着には至らなかった。


「ふ」


 最高到達点で身体を捻って鮮やかに着地。

 ベルは何事もなかったかのように態勢を整え、まりあの前に降り立った。


「そんなっ、まりあちゃんの攻撃で無傷だなんて!」


 驚愕の悲鳴を上げたのはしぐれだ。

 まりあもその強面をわずかに歪め、同様の驚きを顕わにする。

 魔女の肉体をも粉砕する破壊の一撃を受けて、何事もないなどということはありえない。

 事実、まりあの拳には確かに強かに打ち据えた感触が残っていた。

 一体何を殴ったのか。

 宝杖をひと振りし、ベルはその問いに答えた。

 先端にはめ込まれた玉石が、宙に紅い軌跡を残してベルの周囲を包み込む。

 魔力で編まれた透明な防護の壁、”魔力障壁”が球形に展開された。


「君たちはできないの? 魔法少女なのに」


 ベルはできて当たり前だと言いたげに眼差しを細めるが、まりあもしぐれも黙りこくるしかなかった。

 魔力に障壁という形を与えて敵からの攻撃を防ぐ。

 それを可能とするには、目まぐるしく動き回る中、タイミングと空間座標を見極めて、障壁の形に固定した魔力を放出しなければならない。

 必要とされるのは緻密な魔力操作と針の穴を通す集中力。

 少なくとも、まりあはそんな技術を持ち合わせていない。

 まりあの魔法は単純明快。

 己の魔力を筋肉に変えて、迫り来る敵をぶん殴る。
 それだけだ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 その自慢の筋肉から繰り出される連撃は、障壁に防がれてベルまで届かない。

 次々に張り巡らされる障壁に手こずる間に、蝶のようにひらひらと逃げられてしまう。

 こんな戦いは初めてだった。

 魔女との戦闘は常に真っ向勝負。
 力と力のぶつかり合いだ。

 それぞれが持つ特徴はあれど、それを使って逃げ回るようなことはなかった。

 辛酸を舐めさせられ、まりあはひとつ舌を打つ。


「厄介な……っ」
 
 
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