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3話 すずの鬱屈
変身できない……?
しおりを挟む強力無比な砲弾の嵐がまりあを襲う。
視界いっぱいを埋め尽くす弾丸一つ一つが魔女の使い魔だ。
真っ黒な影の身体を鉄球に似せて丸く太らせ、次々に飛来する。
大口を開け、鋭い牙を光らせながら迫り行く先で、天を貫く雄叫びが轟渡った。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
まりあは魔法で火炎流を生み出し、砲弾を相殺。
灼熱の熱風が使い魔たちを吹き飛ばし、続く業火がその身を消し炭へと変えた。
炎上したまま天高くより降り注ぐ使い魔たち。
火の粉の雨が降りしきる中、身の丈ほどの巨大な鎌を担いだ魔女がゆっくりと現れ出でた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぼろ切れのような黒衣を纏った身体は枯れ木のように細く、長い。
それに対して、手に持つ鎌は、刀匠がてずから打ち出したような業物で、1メートルを超える刃には見事な刃文が刻まれていた。
魔女は語る声を持たず、すっと大鎌を振り上げて、陽炎揺らめく炎の中を疾駆。
策を弄するのを止め、真っ向から突撃してくる。
標的にされたのはしぐれだ。
「う、うわ! きたっ! ……よ、よおし」
未だ生身のまま、離れた場所で戦いの行く末を見守っていたしぐれは、迫り来る魔女を前にして眉尻を吊り上げた。
今度こそは、と覚悟を決め、プロテインを摂取。
魔法少女へ変身しようとする。
だが、しぐれは華奢な素の身体のまま。
筋肉的な変化は何ひとつ生じない。
「また……っ!? どうして? どうして、変身できないの? えいっ、やあっ! 変身! へ、変身って、どうすれば……っ」
それっぽくポーズを取り、子犬のような吠え声を上げて、しぐれは思いつくあらゆる手段を講じて変身を試みる。
そのすべてが空振りに終わった。
「なんでなの……っ」
視線を落とした両手をわななかせ、呻吟を漏らすしぐれ。
焦るあまり、視野狭窄に陥っていた。
覆い被さる敵影に気が付いた時には遅きにふし、眼前に立つ魔女は大鎌を振り下ろす挙動をスタートさせていた。
「あ―――、」
無慈悲な斬撃に風が切り裂かれ、ヒュンと高い音を聞いた。
満足に悲鳴を発する余裕すら削り取られ、死を目前にしぐれはぎゅっと目を瞑る。
「く……っ!」
「……えっ?」
血飛沫が上がる。
肩から袈裟懸けに大きく斬り裂かれ、まりあの強面が苦悶に歪んだ。
間一髪、まりあはコンマ数秒に満たない時間の隙間に巨体を滑り込ませ、凶刃からしぐれを守った。
「まりあちゃんっ!」
「走って!」
まりあは、悲鳴を上げて立ち竦んだしぐれを優しく押し出し、指示を飛ばす。
まりあが指差す先には、姿見の鏡面があった。
鏡の世界とまりあの部屋とを繋ぐ唯一の出入り口だ。
あそこまで走れとまりあは叫ぶ。
それは、敵を前にしての撤退を意味していた。
「で、でも……っ!」
しぐれは迷いを口にする。
まりあを置いて、一人だけ逃げ出すことなんてできない。
踏み出す足を鈍らせる躊躇いは、
「……っ」
魔女の攻撃からしぐれを守る血だらけの背中を目にして、真っ先に叩き潰した。
しぐれは戦いに背を向け、涙を散らして走り出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!」
「いいいぃぃやああああああああああああいっ!!!!」
背後で激しい風切音と裂帛の気合が重なり合う中、しぐれは赤茶けた大地を駆け抜け、黒々と渦を巻く鏡に飛び込んだ。
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