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2話 しぐれの友愛
助けてくれてありがとう
しおりを挟む「やれやれ。美羽では駄目だったか。いい線いっていると思ったが、なにぶん想定外が多すぎた。そういう意味では、魔法少女になりたての美羽には荷が重すぎたかもね」
決着がついた途端にこの言い草だ。
何食わぬ顔でしゃしゃり出てきたかがみんは、まだ痙攣を繰り返している美羽を睥睨し、やれやれと肩を竦めた。
六つの尾に魔力を宿し、美羽へと力を分け与える。
「魔法少女の肉体だ、魔力さえあればすぐに修復できるだろう。目が覚めた時、君たちへの激しい怒りで、さらに強力な力を身に着けているに違いない」
かがみんの負け惜しみを、まりあはただひと言で斬って捨てる。
「そいつにそんな勇気はないよ」
「……さて、どうかな?」
最後まで余裕のある態度を崩さず、睨み合うこと数秒。
かがみんは、くるりと踵を返す。
「まあいい、治療は終わりだ。僕は行くよ。さらに強い魔法少女を作って、何としてでも君を……いや、君たちを排除する。首を洗って待っているといい」
別れ際の捨て台詞まできっちり済まし、その場を去り行こうとするかがみん。
「おお?」
その小さな頭部を、まりあの巨大な手のひらが鷲掴みにした。
「まさか、何事もなく帰れると思っているの?」
「あ、いや、こういった争い事は魔法少女同士で……っ」
「飛んでけーっ」
「ああー……」
魔力によって盛り上がった三角筋が生み出す膂力は、生身の時と比べものにならない。
かがみんはあっという間に彼方に消え、真昼の空の星になった。
「そこの二人、逃げるな」
まりあは鋭く声を飛ばし、機先を制する。
そそくさと屋上の扉を開けていた姫香と小咲は、肩を跳ね上げて急停止。
互いに顔を見合わせて逃亡を諦めた。
背筋をピンと伸ばしてこちらを向いた二人は、各々あらぬ方に視線をさ迷わせる。
「あ~、えっとぉ~。美羽ちゃんが勝手にやってたっていうか~。私たちは、そのう……」
「……私たち二人とも殺される」
「ちょ、止めてよ、小咲ちゃん! 縁起でもないこと言わないでえっ!」
「姫香ぁ、私死にたくない……っ」
「いや、そんなこと、さすがに、ねえ。……えっと、殺さないで……っ」
恐怖による妄想に憑りつかれ、涙ながらに命乞いを始める二人。
まりあは二人を一瞥すると美羽を指差し、脅しのつもりで命じた。
「連れて行きなさい、そして二度としぐれをいじめないで」
二人きりになった屋上で、魔法を解いたまりあとしぐれ。
にこっ、と気持ちの良い笑みを浮かべて、小さくハイタッチを交わす。
「やったね、しぐれ」
「うん。全部まりあちゃんのおかげだよ」
「もう何言ってんの、しぐれが頑張ったんだよ? 全部しぐれがやったの。もっと自分を褒めてあげなくちゃ。さ、笑って?」
「……うん、そうだね」
しぐれは、隣にある明るい笑顔を誇らしげに見つめた。
烏滸がましくも、思う。
まりあの笑顔を守ることができたのだ、と。
変わりたいと思えたのも、そのための勇気をくれたのも、すべてはまりあのおかげだ。
だから、彼女に伝えたい。
精一杯の感謝を込めて、しぐれは微笑んだ。
「まりあちゃん、助けてくれてありがとう」
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