筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開！

2話 しぐれの友愛

決別の一撃

　
　
「美羽め……っ、なんて無茶苦茶なことをっ」
　

　攻撃の余波に晒されながら、かがみんは憎々しげに悪態をつく。

　尻尾で守った双眸を巡らし、被害のほどを確認する。

　どうやら校舎は無事らしい。
　しぐれに直接叩き付けたことで、破壊の規模が最小限に食い止められたのだ。

　それは同時に、美羽の持つ全魔力がしぐれの身体に炸裂したことを意味する。


「凄まじい魔力の波動だ……。化け物じみた頑強さをもってしても、これなら」


　不意に期待の言葉が途切れる。

　白光が消え、眼前に現れた光景に、かがみんの予測は見事に裏切られた。


「……」


　美羽の全力を喰らいながらも、しぐれは仁王立ちのまま健在。

　不動のあり方をその身に顕現させ、背後のまりあを守り抜いていた。

　強靭な下腿は屋上のコンクリートを深々と穿ってなお、屈することはなく。
　隆々とした胸筋は、見せ掛けで終わらない圧巻の防御力を発揮していた。

　美羽が放った破壊の光撃は、衝突点である胸部に薄い焦げ跡を残すのみ。


「はあ……っ、はあ……っ、……くそがっ！」


　まるで歯が立たない。

　堅牢な鎧の如き筋肉を前にして、美羽は疲労困憊のあまり片膝をついた。

　喉から喘鳴を漏らし、それでも眼光をぎらつかせ、しぐれをきつく睨みつける。


「ぐ……っ、ふざけた目ぇ、してんじゃないわよ！」


　しぐれに見下ろされている状況が許せなかった。

　美羽は身体をよろめかせながら立ち上がり、ステッキで殴り掛かる。

　だがそれは、魔力の籠らないただの打撃。

　筋肉の壁に弾き返され、たたらを踏んだ美羽は後ろ向きに倒れそうになった。


「きゃっ」


　無様にも尻餅をつく寸前、鉄骨のように屈強な剛腕が美羽を支えた。

　雷速じみた俊敏さで後ろに回り込んだしぐれは、美羽の身体を軽々と抱きかかえ、細い両腕をがっちりと固定し、羽交い絞めにする。


「ちょっ、何のつもりよ！」


　宙ぶらりんで足をばたつかせる美羽だったが、剛力による拘束をまるで引き剥がせない。

　訳も分からず焦る美羽の眼前より、洒落にならない威圧感が答えを持ってやって来る。


「しぐれ。そいつ、そのまま押さえてて」


　中身を飲み干され、投げ捨てられたスクイズボトルが、地面に落ちて乾いた音を立てた。

　まりあはぐいっと豪快に口元を拭い、怒りに燃える眼まなこを美羽へと差し向ける。

　プロテインが体内を巡り、煮え滾っていた情動が魔力を得て発火、炎上。

　魔法少女へと変身を果たし、その全長が二倍以上に膨れ上がる。


「……なに？　なによ、これ……っ。何するつもりよ、ねえ！　……まさか、嘘でしょっ！？」


　一歩、また一歩と、大気を鳴動させる巨身の歩み。

　吊り上った双眸は瞋恚に燃え、岩のような拳が握り締められる。


「やめろ、おいっ！　離せ、離せよこのおおおおおおおっ！　放しなさいよ、しぐれ！　このままじゃあんただってっ」


　恐怖のあまり口汚く罵声を散らすも、前後を挟む巨漢たちはすでに語る言葉を持たない。

　ただ一度だけ、両者の間に交わされるアイコンタクト。


「いい？」
「やって」


　それが執行の合図となる。

　巨影が霞むほどの速度をもって、肉薄。

　まりあの拳は、美羽の腹部目掛けて下からアーチを描く。


「いいいぃぃっやああああああああああああああいっ！！！！」
「やめ、やめてええええええええええええええええええっ！！！！」


　咆哮が轟き、悲鳴が迸る。

　強剛たる拳と胸筋に板挟みにされた華奢な身体の内側で、暴力の嵐が凄絶に駆け巡った。


「かっ……」


　目玉が飛び出すほどに見開かれた双眸が血走り、ぐるんと白目を向く。

　腹の底から絞り出された断末魔を残し、美羽は力なく倒れ伏した。