筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

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2話 しぐれの友愛

強く、なりたいっ

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 攻撃された。

 普段の暴力暴言がお遊びに思えるほど明確な敵意を持った一撃に、しぐれは沸騰するほど脳の奥が熱くなり、夥しい冷や汗が背中を伝い落ちる。

 息がろくに吸えなくなるほど動機が激しい。

 震える瞳で美羽を見上げれば、危険な色を孕む凶悪な眼光に射抜かれ、拒否権のない命令を突き付けられた。


「いい? 一歩でもそこを動いたら、あんたのその顔ぐちゃぐちゃに潰してやるから」
「ひ……っ」


 しぐれは喉が引き攣るほどに、美羽の存在を恐ろしいと感じた。

 身体に叩き込まれた数々の暴力。
 心を切り刻んだいくつもの暴言。

 これまで耐え忍んできた日々が、フラッシュバックして脳内で弾けていく。

 身体が動かない。

 あまりの情けなさに視界が滲んだ。

 しぐれは思い至る。
 結局、自分が弱いのがいけないのだ。

 何故、
 どうして、
 どうすれば、
 などと、難しく考える必要はなかった。

 美羽にいじめられる原因など、すべてそれで事足りる。

 しぐれが弱いから美羽を苛つかせ、情けないから今こうして立ち竦んでしまう。

 手を差し伸べてくれた友達のピンチにすら立ち向かえない。

 まりあはあんなにも優しく微笑んでくれたのに。

 すべて美羽の指摘通りだ。

 子猫に餌をやるべきではなかった。
 責任を持って飼うことができないのに、助けたいなどと思い上がってしまった。

 アルルを救ったのはまりあだ。

 しぐれは悪戯に手を出して、好き勝手引っ掻き回しただけ。

 優しくなんてない。
 幼くて愚かしい、ただの自己満足だ。


「大丈夫」


 冷たく閉ざされた心の中で、失意の念に押し潰されそうになったしぐれを、まりあが繋ぎ止めた。


「まりあちゃん……?」


 まりあは地面に叩き伏せられながら、それでもにっこりと微笑んでいた。
 しぐれに笑みを向けていた。

 泣くことも怯えることもなく、勇猛果敢に美羽へと立ち向かい、敗れてなお、その優しい微笑みが潰えることはない。


「心配しないで、しぐれ。私があなたを守るから。今は弱くたって、情けなくたっていいの。これから一緒に強くなるんだから」
「どうしてそこまで……っ! わたしのこと……っ」


 頭の奥を脅かしていた不快な熱が、弾け飛んだ気がした。

 心臓が胸を焦がすほどに強く鼓動し、熱い涙が零れ落ちる。


「わたしなんかじゃ……っ。わたしなんかのためにどうしてそこまで……っ」


 否定の言葉が涙と一緒に溢れて止まらなかった。

 しぐれは自分の弱さを知っている。
 卑怯なところも情けないところも全部、よく分かっている。

 そんな自分が嫌いだった。
 そんな自分を変えたいと心から願っていた。

 そうすればもう一度、誰かの隣に居ることを許されるから。

 我がままな願いを受け止めて、それでもまりあは微笑んでくれる。

 ―――守らなければならない。

 胸中に生まれたのは、これまでにない感情だった。

 どれだけ弱く、醜く、愚かであったとしても、まりあの笑顔だけは曇らせてはならない。

 まりあの助けになりたい。
 もう二度と大切な友達を無くしたくない。

 気づけば、しぐれは駆け出していた。

 一歩でも近く、一秒でも早く、まりあの元へ向かって。


「まりあちゃん、わたしも一緒に……。あなたと一緒に……っ」


 募らせた想いの丈が、雷の如く速く苛烈に瞬いた。

 まりあへと向ける眼差しに、憧憬の火が灯る。

 迷い、苦しみ、何も決められずにいるのはもう止めにした。

 変わりたい。

 強く、友を守れるほどに、強く。


「強く、なりたいっ」


 少女が願いを叫んだ瞬間、辺りを眩い閃光が満たした。

 屋上にいる全員の目を貫き、眩ませた。
 
 
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