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2話 しぐれの友愛
魔を喰らう少女
しおりを挟む「しぐれを放して」
低い声とともに発せられる敵意。
「何よ、学ばない奴ねえ? ほんとバァカ。あんたが先に痛い目に―――、いづ……っ?」
ゆっくりと上げられたまりあの顔を見て、美羽は息を飲んだ。
鋭い眼光に射抜かれて、反撃の言葉に詰まる。
「放して」
続くまりあの静かな怒声。
そればかりではない、掴まれたままの拳が力負けして、徐々に形を崩していく。
皮膚が引き攣り、肉が潰れ、骨が軋んで悲鳴を上げる。
「な、なによ、この力っ? ぐうぅ……っ、くそっ、失敗作のくせに! ふざけん―――っ」
動揺を喚き散らしながら、武器であるステッキを魔法で出現させて振りかざす美羽。
その顔面に、怒りの鉄拳が叩き込まれた。
美羽はもんどりうって吹っ飛び、フェンスを大きくひしゃげさせて、その中に埋まった。
「は? ……づぅ~~っ」
一体何が起きたのか、状況を把握できずに呆けた美羽。
鼻からどろりとした血が滴り落ちると、痛みを思い出したかのように身体をくの字に曲げ、悶絶した。
「うそだろ……」
「ええ~っ? ちょ、美羽~?」
「馬鹿な……っ、これは間違いなく、魔法の……」
目の前で起こった出来事に戦慄する小咲と姫香。
かがみんも同様の反応を見せる。
魔法少女に変身した美羽を、生身のまりあが吹っ飛ばすことなどありえない。
あってはならない。
ダンプカーを片手で持ち上げるに等しい所業だ。
筋力トレーニングで得られる真っ当な力ではない。
間違いなく、まりあの保有する魔法の力が発動している。
だが、どうして……。
「まりあっ、君は卵を孵せなかったんだろう? 魔獣からの魔力供給なしにどうやってそれだけ潤沢な魔力を?」
魔法少女は魔獣からの供給がなくては、変身することさえままならないはずだ。
大前提を目の前で覆され、困惑を叫ぶかがみん。
対し、まりあは動ずることなく、淡々と答える。
「あなたの言った通りになったわ、かがみん。あの日以来、私は魔女やその使い魔に狙われ、事あるごとに襲われ続けた。その全てを返り討ちにし、〝魔女の卵〟をかき集めたのよ」
「何だって?」
どういうことかと思考を巡らせたかがみんは、何かを感じ取ったようにはっとして、別の方を向いた。
争いの混乱に巻き込まれて、屋上の床に打ち捨てられていたスクイズボトル。
しぐれの足元に転がったそれを、見通すように注視する。
「あの容器の中身から濃度の高い魔力を感じる……。まさかっ!」
「卵は、多くのタンパク質が含まれる食品。身体作りには欠かせないものなの」
「まりあ! 君は〝魔女の卵〟を食べたっていうのか!」
真相に至ったかがみんは、あらん限り目を見開き、驚愕した。
まりあの行動は、完全に常軌を逸していた。
〝魔女の卵〟は、魔女が生れた時から胎内に保有する、次世代の命を宿した物。
かがみんたち魔獣を栄養源に、中身を魔力で満たしてやることで新たなる魔法生物が誕生する。
いわば、魔力の器だ。
あろうことか、まりあは卵を直接喰らうことにより、器に蓄積された魔力をその身に取り込み、魔法の力を発揮していたのだ。
「冗談じゃない!」とかがみんは叫んだ。
「君は僕ら魔法生物を食い物と見なすっていうのか!?」
「生きていくために命をいただくことは、生物にとって自然なことよ」
「なんてふざけたことを……っ!」
「いつか自分でそう言っていたじゃないの」
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魔獣にとっての脅威はすなわち捕食者である魔女だ。
魔女に対抗するために魔法少女を生み出したというのに、これでは本末転倒もいいところ。
たとえ魔獣が束の間の安寧を手に入れようと、卵そのものを潰されては種の存続は危ぶまれる。
まりあは今や、魔女と同レベルの危険因子に成り果てた。
「訂正するよ、まりあ……。君は僕らにとっての脅威だ。今ここで排除する!」
「かがみん。あなた、さっきは未来なんて関係ないみたいなこと言ってなかったっけ?」
真っ当な返しに取り合わず、かがみんはまりあと対峙する。
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