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1話 まりあの恋慕
女の子の魅力
しおりを挟む入浴後。
まりあはわざわざ部屋まで戻り、着替えを取りに行った。
胸元のリボンが可愛い淡いピンク地のトップスと、裏地にレースをふんだんにあしらったティアードスカート。
夏場にしては肌色成分が少なく見えるがしかし、上衣は肩口から袖布が着脱可能。
年齢を考慮しても露骨にならない、重要な露出ポイント。
下着はもちろん清楚に純白。
何気に布面積は少なく、サイドを飾るリボンが程よいアクセントになっている。
これがまりあの勝負服。
リビングへ入る前に「いざ、行かん」と深呼吸をひとつ。
心を落ち着かせ、ごく自然な微笑みを作り、ソファに座る警戒心の欠片もない背中へと忍び寄る。
「お待たせ~」
「ん、おう。ずいぶんと早かったな」
「そう? こんなもんだよ?」
「ふうん」
気のない言葉を交わしながら、まりあは心の中で「よしよし……」と自分で自分にオーケーを出した。
決戦前の緊張は胸の奥底へとひた隠し、表面上は見事に平静を保てている。
「でも、まりあ。ちょっとはそういうところに気を遣っていいんじゃないか? せっかく可愛い格好してんだからさ」
「んんっ?」
まりあは、ビクリと肩を跳ね上げる。
突然の奇襲で、危うく咽てしまいそうになった。
「お前確かまだ謹慎中のはずだろう? どっか出かけるのなら目立たない格好の方がいいぞ?」
「い、いやいや、お兄ちゃん。まりあは普段からこんなもんだよ」
「そうか?」
「そうだよ。女の子だからね!」
「そっか、女の子だからか」
「そうそう。……えっと。のど渇いちゃったなあ」
まりあは一度キッチンまで撤退し、乱されかけた心を静めにかかる。
「お兄―――、……灯夜さんも何か飲む?」
「ん? ……ああ、それじゃあ冷たいお茶でも」
「はあい」
まりあは冷蔵庫から麦茶の容器を取り出すと、コップに注ぎ、両手で持って二人分を運んでくる。
給仕の後はごく自然的な振る舞いで、ソファでくつろぐ灯夜の正面を陣取った。
冷たい麦茶をぐいっと煽りながら、ちらちら上目遣いに様子を伺い、話の切り出し口を探る。
「それにしてもお姉ちゃん、お客さんをほったらかしてどこへいったのやら」
「ああ、杏奈ならコンビニに行くって言っていたぞ」
「コンビニ?」
「なんでも俺に見せたいものがあったらしい。それで今日呼ばれたんだが、どうにも見当たらないらしくて。急いで買って来るって飛び出していった」
「あ~……。もしかして」
心当たりがある気がした。
まりあは、振り子のように頭を左右に揺すって記憶を探り、ぴょんとソファから跳び下りる。
「ちょっと待ってね」
灯夜に断りを入れ、自室へ向かい、一分と経たずにリビングへ戻ってくる。
「これじゃないかな」
差し出された物を見るなり、灯夜は不思議そうな顔をした。
「これファッション雑誌じゃないか。まりあ、お前こんなもん読んでるのか? まだ五年生だろ?」
今度はまりあがキョトンとする番だった。
「女の子は成長が早いものなのよ、お兄……灯夜さん」
「ふうん、そういうもんか」
素っ気ない返しに、まりあはこっそり苦笑を零す。
どうして彼はこうなのだろう。朴念仁というか、天然というか。
性格は温厚。
山羊のように素朴で、異性にあまり興味を示さないくせに、こうもまりあの心を掻き乱す。
まったく不条理だ。
いや、単純にまりあが恋愛対象に入っていないだけかも知れない。
それはそれでなんだか悔しい。
「そうよ、灯夜さん。私だってもうあっという間に大人のお姉さんよ」
「お姉さんねえ。はは、あと何年先のことやら」
「ちら」
まりあは人差し指で襟首を引っ張り、胸元を露出させる。
見栄を張って買ってもらった下着の純白が目に眩しい、はずだ。
「バカ」
「いたい……」
額にでこピンを返されてしまった。
駄目だ、狼狽させるどころか羞恥心を誘うこともできない。
もともと灯夜は、肌色成分豊富な環境にあえてその身を置く圧倒的強者だ。
健康かつ健全ないち高校生男児でありながら、同年代の女の子に誘惑されることなく、水泳に打ち込む熱血漢。
あらゆる部分の育成が発展途上にあるまりあの女子力では、一向に太刀打ちできない。
加えて、灯夜がまりあの柔肌に興味を示さない理由がもう一つある。
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